イギー・ポップのドキュメンタリーに見る “ロックスター”という絶滅危惧種について

text by CHINATSU MIYOSHI photo by ©Low Mind Films / ©Byron Newman

 

「俺の頭に瓶を投げたヤツに感謝する。今回は死に損なった、来週またトライしろ」 イギー・ポップ

 

イギー・ポップと彼のバンド、ザ・ストゥージズこそ、今日におけるパンクロック、グラムロック、オルタナティヴなどといった異端の音楽を創造した先駆者だ。拒絶反応をも賞讃と受け取るそのサイケデリックな存在感は、今もって対抗できるアーティストなど存在しないのではないだろうか。60年代から70年代という時代の大きな変動期の中にあって、その存在証明を現代にも色濃く残す彼らの軌跡を、イギー・ポップの盟友である映画監督、ジム・ジャームッシュがドキュメンタリームービーとして完成させた。本当のオリジナリティとはどういうものなのか。劇中のイギーの言葉と姿から、その答えを探りたい。

 

 

1967年に結成以来、「ゴットファーザー・オブ・パンク」と呼ばれ、現代のパンクロックシーンにも強く影響を及ぼすストゥージズ。そして、そのフロントマンであるイギー・ポップ。彼とそのバンドのドキュメンタリームービーを、盟友であるジム・ジャームッシュが手掛けたのが、今作の『ギミー・デンジャー』だ。アーティストのドキュメンタリームービーは、その音楽的功績や芸術的才能をいまさら紐解いていくものではなく(それが知りたいなら劇場よりCDショップだ)、彼らのその特異な存在感と、それを培ったルーツを知るためのものだ。特にイギー・ポップのような天性の奇才が、その目で何を見て、何に影響され、何をどう体現することによって現在に至ったのか。彼の人生で起こったあらゆる出来事や、その当時、彼の脳内で起こっていたことを彼自身の言葉で聞くことができるのが、この映画の何より特別な魅力だ。本作を手掛けたジム・ジャームッシュは以下のように語る。

 

「『ギミー・デンジャー』はドキュメンタリーというよりエッセイだ。ロックンロールの歴史における、最も偉大なバンドに当てたラヴレターであり、彼らの物語、その影響力と衝撃を、これまで見たこともない映像と写真と共に伝えている。この映画はストゥージズの音楽のようにワイルドで、エモーショナルで、面白くて、粗野だけど洗練されているんだ」

 

 

60年代後半から70年代にかけて、アートや音楽は退廃と進歩が同時に起こっているような状況だった。後世にも多大な影響を及ぼすことになる多くのカリスマ的なアイコンを生み出し、それは発展的であり、もっとも野蛮な時代。それまで見たこともなかったような世界が、政治的思想、ラブアンドピースとフリーセックス、マリファナやヘロインと共に拡大していった。1967年に結成したストゥージズは、まさにその騒々しい時代の渦中に存在した。気が狂いそうになるような不協和音の中、半裸に犬の首輪、ギラギラのシルバーのグローブを装着してステージ上でクネクネと動き回るイギーの姿は、観衆の目にはまったく異様そのものに映っていたのだろう。

 

ステージ上の彼らに向けられる声の多くは歓声ではなく、罵声と暴言、そして挑発が殆どだった。「イギー!ゲロを吐け!」「ファックユー!」。罵られ、客にブン殴られることもあった。それでも止めなかった。自分たちだけのオリジナルスタイルをやる必要があったからだった。それが人の目に哀れに映ろうがクールに見えようが、そんなことは大した問題じゃなかった。オリジナルであること。これが何より大切なアイデンティティだった。ステージ上での異様なパフォーマンスだけでなく、音楽的にもオリジナリティを求めた彼らは、ドラム管や蓄音機を使った自作楽器を開発したり、マントラを彷彿させる楽曲をアルバムに収めるなど、既存の表現を排除し続けていった。新しいだけじゃない“特別な何か”を見つけるために。

 

「俺たちがバンドを始めた67年を知らないだろう。ストゥージズを続けるのは、そんなに甘くないんだぜ」

 

 

暴言が歓声に変わるのにそう時間はかからなかった。ストゥージズはメジャーとの契約を果たし、その特異な存在と音楽、そしてライヴパフォーマンスは“異端のカリスマとして多くのファンを獲得した。だが、彼らの最大の魅力であり、同時に欠点でもある「プロ意識の欠如」が、次第にバンド、そしてイギー自身を崩壊へと導いていく。

 

「非常識な仕事の要求、バカげた報酬の分配。さっぱりわからなかった。派手で芝居がかったマネージメントスタイル、でかい葉巻、でかいアフロヘアーに毛皮のコート

 

劇中でイギーは、ショービジネスとの相性の悪さを非常に醒めた視点で語っている。子供時代の思い出、バンドの起源、バンドに起こった出来事、ドラッグと金の話自身にまつわるすべてのストーリーを話すイギーが常に保っているものは、その“純粋さ”であるように見える。頭をずる賢く働かせることの代わりに彼が守っているものが、その純粋さであるのかも知れない。

 

68年のシカゴは流血の暴動が最高潮。俺は嫌だった。“来ないなら終わりだみたいな事態になって、俺はでんぐり返しで床の上を転がった。それが俺の反応なんだ。頭で考えられない」

 

 

映画を最後まで見終わった後、イギーポップが手にした数々の功績の中で最も讃えられるべきは、その純粋さとオリジナルで居続けることへの渇望であると思った。彼がバンドという存在証明を手にしたあの時代と比べるものでもないのかも知れないけれど、現代はとにかくしらじらしいほど生真面目だ。とても美しく磨かれた四角四面のガラスケースの中で、そこから出ることもできず、出るつもりもなく、似たような愛と怒りの言葉が飛び交い、箱の中を跳ね回っているだけの下品な芝居を繰り返し見させられているような気分だ。ストゥージズ、そしてイギーポップは、自虐的なまでに世の中の風潮に逆らった。そして気付けば、その反抗的な存在の仕方こそが、世の中が彼らに求めているものへとすり替わったのだ。そうして誰も手にすることが出来なかったものを、例えその存在が失われてもなお、守り続けていくのだろう。イギーが言うように、彼にとって音楽は人生であり、人生は商売ではないのだ。

 

「俺はグラムロックでもヒップホップでもない。どこにも属したくはない。テレビも嫌だし。オルタナティブでもなく、パンクでもない。俺は俺だ。

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イギー・ポップのドキュメンタリーに見る “ロックスター”という絶滅危惧種について

過激なライヴパフォーマンスにより“淫力魔人”なる邦題も過去に登場した、 「ゴッドファーザー・オブ・パンク」イギー・ポップ。そして、永遠のアウトサイダーとして映画界に君臨する鬼才ジム・ジャームッシュ。イギーが率いたバンド、ザ・ストゥージズの熱烈なファンであり続けるジャームッシュは『デッドマン』、『コーヒー&シガレッツ』でイギーを役者として起用するなど、2人は親交を深めてきた。そしてこの度、イギー自ら「俺たちストゥージズの映画を撮ってほしい」とジャームッシュにオファー。今まで映像で語られたことのなかった伝説のバンド、ザ・ストゥージズの軌跡を綴るドキュメンタリーが完成した。

67年、米国ミシガン州。イギー、ロンとスコット・アシュトン兄弟、デイヴ・アレクサンダーによって、ストゥージズは結成された。プリミティブかつ攻撃的なバンドサウンド、サイケやフリージャズなど様々な要素を取り入れた実験性とミニマルな音作りの融合、そしてヴォーカル、イギーの過激なステージングでそれまでのロックの概念を破壊する唯一無二のスタイルを生み出し、兄貴分であったバンドMC5と共にデトロイトロックシーンを牽引した。しかし74年、様々な問題をはらみバンドは自然消滅。評論家からも「下品で退廃的」と叩かれて正当な評価を得ることはなく、世に残したアルバムはわずか3枚だった。だがその後のラモーンズやダムド等のパンクロックバンドたちはすべてストゥージズフリークであり、ニルヴァーナ、レッドホットチリペッパーズ、ホワイトストライプスなど後世の名だたるバンドたちが影響を公言。パンク、オルタナティヴロックの出発点として再評価され、2010年にはロックの殿堂入りを果たした。ロックの歴史の中で「最低のバンド」から「最高のバンド」へと大きく評価が変わったストゥージズ。それほどまでにストゥージズが人々を惹きつける理由は何なのか。

ジャームッシュは本作において、メンバーと本当に近しい関係者にのみ取材をする方法を選んだ。イギーを軸に、当事者たちの言葉だけで語られるストゥージズの華々しくも混乱に満ちた歴史。制作期間中、メンバーの3人(ロン・アシュトン、スコット・アシュトン、スティーヴ・マッケイ)が相次いでこの世を去ったが、彼らとその証言は映画の中に永遠に刻まれている。孤高のバンド、ザ・ストゥージズ。その真実が今明らかになる。

公開:9月2日(土)~

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イギー・ポップのドキュメンタリーに見る “ロックスター”という絶滅危惧種について

ジム・ジャームッシュ

1953年1月22日、アメリカのオハイオ州アクロンに生まれる。ジム・ジャームッシュは長年、アメリカのインディペンデント映画界において唯一無二の存在としてみなされてきた。コロンビア大学にて著名な詩人、ケネス・コックやデヴィッド・シャピロと共に文学と詩を学んだ。フランスに留学中、パリの私立文化施設、シネマテーク・フランセーズに頻繁に訪れたことをキッカケに映画製作に情熱を燃やすようになり、アメリカに帰国後、ニューヨーク大学芸術学部の映画制作プログラムに参加して映画を学んだ。そこでハリウッドの伝説的な映画監督、ニコラス・レイのアシスタントを務め、卒業制作作品として処女作『パーマネント・バケーション』(80)を発表。続く2作目の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84)がカンヌ国際映画祭カメラドールを受賞したことで、ジャームッシュは世界的に映画監督としての地位を確固たるものにした。その後も、『ダウン・バイ・ロー』(86)、『ミステリー・トレイン』(89)、『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)、『ゴースト・ドッグ』(99)など話題作を次々発表。『ブロークン・フラワーズ』(05)ではカンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを受賞した。音楽シーンとの交流が深く、ジョン・ルーリー、トム・ウェイツ、ジョー・ストラマーなどミュージシャンをキャスティングすることも多い。イギー・ポップは『デッドマン』(95)、『コーヒー&シガレッツ』(03)に出演した。また、ニール・ヤング&クレイジー・ホースを題材にした『イヤー・オブ・ザ・ホース』(97)で初めて音楽ドキュメンタリーを手掛けた。今なおインディー精神を貫いて、作家性の強い作品を発表。今年8月26日には最新作『パターソン』が公開されたばかりだ。

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