ニワトリ★スター|日本の映画カルチャーを掻き回す異端

interview by CHINATSU MIYOSHI photo by JUNYA S-STEADY

 

映画というひとつのカルチャーの中でも、ジャンルやテイストはさらに細分化される。少女漫画の実写版、コメディ、バイオレンス、ラブストーリーにSF…現在生産されている映画のほとんどは、これら既存のジャンルのいずれかに必ず属しているものであると思う。しかし、その状況にあってもなお、一体それらのどこに属しているのかを断言することが難しい映画があらわれた。強いて言うなら、極めて“ミクスチャー”な映画とするべきなのか。コメディであり、凄惨な愛憎劇。先鋭のアニメーターが手掛けるアニメーションパートとの融合は、さながらアートムービーと呼ぶべきものであるようにも感じる。物語の主要キャストである井浦新、成田凌、紗羅マリーの3人にとっても、自身のキャリアにおいて最も強烈なインパクトを与えられたと語る。現在、慢性化しつつある日本の映画シーンにおけるまったく新しい起爆剤となることを、この異端すぎる映画に託したい。

 

 

HDM:この作品は、原作者である監督のかなた狼さんにとってとてもパーソナルな作品であると同時に、みなさんにとっても同様のものであるんじゃないかと感じていました。

井浦新:僕は、タイトルが決まるより以前から、監督がこの作品に向かっていっている姿を見てきていました。なので、今回の雨屋草太という役をいただいたときは、監督が悩み、楽しみながら作りあげてきた『ニワトリ★スター』という作品を仕上げるためのバトンがいよいよ渡されたような気持ちでした。監督とは10年くらい前から「一緒に映画を作ろう」と言っていたし、自分の中では他の作品とは比べられない、特殊な位置にいる作品になりました。俳優として参加はしているんですけど、身内のような感覚もあって…「ただ役者として一生懸命そこで芝居をしていました」ということだけでは何だか物足りない気もするくらい、いろんな感情や関係性を飛び越えて、仲間みんなで作り上げたという実感もあります。本気で大切な映画ができたなって。

成田凌:うん。本当にこの作品は僕たちだけじゃなく、みんなの思いが詰まっていて。全員が高い士気をもって本当に真剣に挑んでいたものだから。僕は役者を始めてまだ間もないですけど、この作品は特別…恐らくこの先も永遠に自分にとって大切な存在になると思っています。この作品に出会えて、この作品の関わるすべての人達に出会えたことが最高なことなんです。

 

HDM:みなさん、監督からはかなり徹底した役作りを求められたそうですね。

井浦新:草太を演じるにあたって一番最初に言われたのが…この言葉が自分の頭の中に最後まで残っていたんですけど「井浦新が1ミリでも顔を出したら、俺はいつでも刺しにかかるから」と言われて。

 

HDM:いきなり恐いですね(笑)。

井浦新:そうです(笑)。いきなり自己を封印させられました。自分でも自覚できないような生理的な動きであったり癖だったり、間合いから目の動きひとつまで徹底して言われましたね。「新の作品を俺は全部見たわけじゃないけど、お前は伏し目がちな芝居をすることが多いよな。それって印象に残るから。だからそういうのは一切やめてくれ」って。そういうのをチクチクチクチク…(笑)。撮影に関わる間は、完全に草太として生きてほしいということだったんです。

 

HDM:成田さんは?楽人は特にフリーキーな役でしたが。

成田凌:監督に言われた言葉って、自分の中だけに留めておきたいようなことが結構あるんですよね。それ以外で印象に残っている監督からの言葉っていうと…「らぁくぅとぉ~(チンピラが絡むような口調で)」って呼ばれるときのあの声ですね…

 

HDM:(苦笑)。

井浦新:そう!もう「楽人」じゃない。「らぁくとぉぉ」って(笑)。

成田凌:その感じで名前を呼ばれたら「あ…きた」って思っちゃって(笑)。

 

HDM:『ジョーズ』で言うところの「デーデン…デーデン…」って予兆をあらわす例の効果音みたいな感じですね(笑)。

成田凌:もう、本当にそんな感じなんですよ。まさにその言葉のあとには必ず何かが始まる。気合いが必要とされるようなことが(笑)。…でも、その名前で呼ばれることってこれからはもうないんですよね。この映画に関わっていたときだけの、自分の特別な名前だから。

 

 

HDM:そうですよね。紗羅さんはどうでしょうか。今作が初めての映画出演ということでしたが。

紗羅マリー:私はこの作品が初めての映画だったので、役者として私にこうしてほしい、ああしてほしいというような具体的な要求はほとんどなかったんです。ただ、監督はこの作品に登場するキャスト全員に同じだけの熱量で愛情があるということを強く感じていて。私が演じた役柄について「紗羅、しんどいと思うけど月見をよろしくな」「一緒に成仏させてあげような」と言われていて。直に言葉というよりも、あの目なんですよね。目で語ってくれる人なんだと思います。大切なことは言わずともわかる、というか。

 

HDM:紗羅さんのあの役どころは、本当に痛切でしたよね。

紗羅マリー:はい。だから、監督はとにかくひたすら私のケアをしようとしてくれていて。暴力を振るわれたり、心が壊れるようなことをやらないとならなかったから、きっと監督はそれをやったあとの私の精神のことを気にかけてくれていたんだと思うんです。かけてくれる言葉はいつも優しかったし、なんか…お布団の中にいるような感覚で(笑)。この映画の内容はハードというか、正直、人を傷付ける表現もたくさんあります。だけど、根底にある「変わらない愛」というものがとても強く残る物語だと思います。だから月見役としても紗羅マリー個人としても、とても救われた作品になりました。

 

HDM:楽人と草太の関係を考えたとき、この二人の関係は単に友人や家族や仲間というような、既存の関係性だけではなんだか物足りない気がするのですが、お二人から見てこの二人の関係はどういうものだと思いますか。

成田凌:それね…実は、まだ客観的に見れないんですよね(笑)。

 

HDM:いまだに?

井浦新:まさにそのことを数時間前にお互い確かめ合ってきたところなんです。さっき、公開前のイベントでアメリカ村のBIG STEPに小さなプラネタリウム試写室に行ってきたんですけど、そこで二人で自分たちが出ている映像を見ていたら、何だかもの凄く変な気持ちになってきて(笑)。

 

HDM:どういう気持ち?

井浦新:撮影が終わってからもう1年半くらい経っているし、それぞれ他にもいろんな役をやってきたのに、目の前の映像の中にいる草太と楽人、それを見ている井浦新と成田凌の距離感がうまく計れなくて。「うわ…何だこの感じ」って。

 

HDM:同化…とも違うような感覚なのですか?役を引きずっているとか。

井浦新:引きずっているとはまた違うんですよね。何だろう、これって上手く言えないような感覚なんです。自分たちが、あの世界でたしかに生きてた時間がそのまま残っているという感じで。いつもなら一度その役を離れると、自分自身と少しずつ距離感が出て完全に客観視できるものなんですけど、この作品に関してはその距離感がわからないんです。

 

 

HDM:映像が、まるでホームビデオを見ているような。

井浦新:そう、それくらいなんだか気恥ずかしくなりました(笑)。

成田凌:恥ずかしかった(笑)。

 

HDM:でも、無理矢理その役から逃れようとも思わないでしょ?

成田凌:思わないですね。だってもう、やっちゃったことなんで(笑)。それはもう永遠に残るものになりましたから。自分の中に楽人がたしかに“いる”って、その認識がまだあるってことなのかも。

 

HDM:“やっちゃった”っていう自己認識されている言葉が腑に落ちるくらい、みなさんの役柄は本当にやっちゃいましたよね(笑)。みなさん、この役柄を終えたときはある意味「禊(みそぎ)」を終えたような気分になったのではないでしょうか。

成田凌:もうね、俳優だけじゃなく、スタッフも本当に同じくらいのエネルギー量で向かっていった現場だったんですよ。みんなこの作品に対する熱量が異常なくらいありました。そんな空気感の中にいると、自分自身でも覚悟を持たざるを得なくなってくるんです。だからこそ、監督からのどんな要求にもガツンと応えられる神経でいられたんだと思います。

 

HDM:みなさんの役は、自身の本質的な人間性にも強い影響を与えるものだったんですね。

井浦新:今まで自分が経験してきたこととは比べられないものがこの現場では起こり続けていたから。自分史上でも事件の連続のようか感じで(笑)。さっき、自分が演じた役柄をいまだに客観視できないということと同じになってしまうんですけど、やっぱりこの作品について外からの目線で何かを語ることができなくて。だけど、自分の中に最終的に残るものって、やっぱり言葉なのかなって思う。物語の中で語られている言葉が。それって、演じているときにも感じていたものなんだとは思うけれど、すべてが終わって時間が経てば経つほど、その意味合いが濃く色づいて自分の心の中にもう一度落ちてくる。それでまた、撮影しているときとはまた違う心の部分を刺してくるものになっていたり。その言葉たちはこの作品を見ている人たちと横並びの感覚で、同じように自分にとっても希望になるものになるものだったりするんですよね。

成田凌:僕はこの作品がクランクアップしたあとの喪失感が凄くて。…本当に、そういう喪失感の中で生きていて。よく「芝居は正解がないからね」とか言われていますけど、この役を演じているときは何をしていても、どんな言葉を吐いても、自分にとっての正解をちゃんと埋めているような気がしていました。この役を離れてみたときに、初めて“役者・成田凌”としてひとつ納得するところがありました。

 

HDM:それは何だったんですか?

成田凌:結局、そのまま、そいつのままでいればいいってことですよね。それ以外は、もうひたすら喪失感だけだったんですけど…

 

HDM:その大きい喪失感から、どういった時間を過ごされていたんですか?

成田凌:家に籠って、こう…抜けるのを待つっていうか。“楽人”じゃなくなるための時間は必要でしたね。あのときはどんな感じだったんだろう…でも本当に、空っぽになるっていうのが、そのままだったんじゃないでしょうか。

 

 

HDM:新さんと監督はどういう経緯で知り合ったのですか?

井浦新:出会ったのは、先に逝去した共通の友人が僕たちを引き合わせてくれたのがすべての始まりなんです。出会ったとき、監督は音楽もやっていて、トラックを作ったりリリックを書いたりしているかと思えば、短編映画なんかも作ったりしていて。そういうのを見させてもらっていたから「なんか凄い人がいるなあ…」と思っていたんです(笑)。でも出会ったとき、「この人とはいつかケジメをつけないといけない気がする」とは感じていて。それがまさかこういう形でとは思ってもいなかったけど、でも「俺は映画を作るから、そのときは協力してくれ」と言われたとき、「どんな役でもやるから、待ってます」と約束をしました。まず小説ができて、そこから映画を作るためのスタッフが集められて、だんだんと自分の出番が近付いてくるのを感じながら、いつでも応えられるようにスタンバイしていました。映画が作られる現場で役者として勝負したい、自分の力をそこで示すことでケジメをつけたいと思っていました。

 

HDM:今作についても、監督からの相談があったりしましたか?

井浦新:ごくたまに「こういうのどうかな?」って聞いてくることもあったんですけど、ことごとくシカトしてました(笑)。馴れ合いになるのが嫌だったし、そういう距離感のある関係でいたかったからそうしたんですけど、いざ現場に入るとなったときに「恐いな…」って思いました(笑)。

 

HDM:(笑)。成田さんは「楽人はどうしても自分はやりたかった」と感じたそうですが。

成田凌:初めて小説を読んだときに「この役を自分以外の誰かがやるのは絶対に嫌だ」と思いました。物語自体にも衝撃を受けまくったし、中でもあの“楽人”という男は、感情も身体もすべてを曝け出しているような存在で。この先も役者という仕事をやっていくなら絶対にやっておきたいと思いました。だから監督に「他の人にはやらせたくない」「楽人は僕しかいない」と直談判して。

 

HDM:紗羅さんは、井浦さんと成田さんとの共演はどうでしたか?

紗羅マリー:この作品によって私自身の人生が大きく変わったくらい大きな出来事でしたから、あの場ではお芝居として客観的に見るような余裕はまったくなかったんです。でも、自分と同じように、あの場にいたみんなが“お芝居”をやっているわけじゃなかった…と言うと言葉が少し変になってしまうんですけど、あの時間は私のリアルな人生の日常そのものでした。みんなの人生の瞬間に入ることができたし、私の人生にも入ってきてもらえたし。

成田凌:うん。本当に境目がわからなくなるような生活をしていたからね。アニメーションのパートとか、自分以外のシーンのことは制作段階ではわからなかったから、初めて完成されたものを見たときに…もう、何と言っていいかわからないくらいで。…うん、もう一回見ようと思っています(笑)。たぶん、この作品について客観的に話せるようになれるのって、自分の足で劇場に行って、予告から他のお客さんたちと一緒に並んで見て、エンドロールまで見終わって明かりが灯った瞬間に「ああ、映画になったんだ」ってようやく感じることができる気がする。

井浦新:…うん、きっとそうだと思う。

成田凌:今、一生懸命になって何かを説明しようとすると、ただすり減っていきそうで…でも言わなきゃね(笑)。

井浦新:宣伝になんないから。もう、難しいんだよ。ややこしいんだよ、これ(笑)。

沙羅マリー:うん(笑)。

井浦新:現場でも、自分たちのできるギリギリのところでやっていたはずなんで、それがそのまま映っていればと願っていたし、そのリアルな映像をさらに監督がまた編集して、秒単位で削って削って最終的に仕上がった内容には「こんな感じになったのか!」と驚かされもしましたし、彼(成田)も言ったように、どんな言葉でこの作品について説明をすればいいのかわからないような気持ちにもなって。だから、みんなでこの作品について何か感想めいたことを言い合ったこともないんですよ。できないっていう状況(笑)。

紗羅マリー:私も、楽人が月見とティダに見せないように頑張っていた世界というものを、すべてが完成されるときまで見るつもりがなかったんです。だから、台本も私の知らない、隠されている部分は見ないようにしていたし、撮っているシーンを見に行くこともしなかった。だから、初めてすべてを見たとき、やっぱりどうしても“月見”の気持ちとして見てしまって。なんか…「ああ、楽ちゃんは私の知らないところでこんなに頑張っていたのね」「悲しかったね」って(笑)。だから、私もまだみんなと同じように、紗羅マリーとしては見れていないですね。

 

 

HDM:それぞれ、その異常に熱量が高かった現場で印象的だったことはありますか?

井浦新:監督との対峙が常にね…ややこしいなあ、と思いながら(笑)。やっぱり、ああいう“猛獣”がボスのチームなんでね(笑)。大変であることが当たり前だから“大変”っていうリミッターがおかしくなる(笑)。それってやっぱり、監督自身を信じていたからできたことだし、同時に監督の予想を上回るものを出せたときには「ああ、良かった」って。そういうときってね、向こう側から監督の嗚咽が聞こえてくることもあれば、何言っているかわかんない叫びが聞こえてくることもあって(笑)。あの人ね「スタート」と「カット」の掛け声がかなりオリジナルなんですよ(笑)。

成田凌:「よーい…いこっかぁ~」の掛け声が基本でしたよね(笑)。

 

HDM:軽いですね(笑)。

井浦新:かと思えば「行くぞオラア!!!」のときもあったり(笑)。

 

HDM:感情の左右のレバーの振り切り方が極端ですね(笑)。

成田凌:もうね、助監督さんが大変ですよね。タイミングが掴みにくくて。「え?え?いい?いくの?」みたいな(笑)。新さんのときの掛け声は常にマックスでしたよね。もはや「スタート!」とかじゃなくて、「○△×※□%※◎ァー!」みたいな(笑)。

井浦新:もうそれが出たときさ、「え?え?何?もう一回?」て聞いたら、助監督が「いや…どうやらバッチリだったみたいです…」って。「わかりにくいよ!」みたいな(笑)。

成田凌:あ、これってカメラ回ってたから残ってるよね?監督の掛け声とか嗚咽が入ってる映像。

井浦新:たぶんあるね。

成田凌:「監督のよーいスタート&カットシリーズ」の特典映像ほしいよね(笑)。初日までに誰か作ってくんないかな(笑)。

紗羅マリー:ほしいほしい!ダメだったときの声色のパターンも聞いておきたいし、念のため(笑)。

 

MORE INFORMATION

ニワトリ★スター|日本の映画カルチャーを掻き回す異端

『ニワトリ★スター』

監督・音楽:かなた狼
脚本:いながききよたか / かなた狼
原作:たなか雄一狼「ニワトリ★スター」(宝島社文庫)
出演:井浦新 / 成田凌 / 紗羅マリー / 阿部亮平 / LiLiCo / 鳥肌実 / 津田寛治 / 奥田瑛二
©映画『ニワトリ★スター』製作委員会

3月17日(土)ヒューマントラストシネマ渋谷
3月24日(土)シネ・リーブル梅田 / シネマート心斎橋
ほか全国順次ロードショー

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