窪塚洋介とハリウッドと三宅洋平と(後編)

窪塚洋介とハリウッドと三宅洋平と(後編)

interview by CHINATSU MIYOSHI photo by PAPAN

前回のインタビューから数ヶ月後、再びインタビューを録るべく彼の自宅へ向かうことになった。手ぶらでは失礼だから、彼と彼の家族の為にソルダムという名前のついた外国のスモモみたいな果物と、近くのベーカリーで購入した天然酵母のパンを手みやげに持参した。この数ヶ月ほどの間に彼自身、そして彼の身辺ではさらに様々な出来事が起こったみたいだ。その話をたっぷり聞くために、チャイムを押した。

 

 

HDM:前のインタビューから、更に色々あったみたいだね。

窪塚洋介:もうね、あれから…特に7月が異様に濃くて。三宅洋平君の選挙フェスでの応援演説(※注1)に始まり、ハリウッドの2作目が決まったり。10月からその新しく決まった映画の撮影でまたコロンビアに行くんだけど。

 

(注1:参議院選挙に立候補した三宅洋平氏による選挙演説。『選挙フェス』と銘打たれた演説では、三宅氏と親交の深い著名人らも応援に登壇。総勢2万人を越える群衆が品川駅前に集まった。)

 

HDM:ハリウッドでの動きが、すごいスピードで展開していってるね。

窪塚洋介:うん。なんか、俺自身も「これって本当なのかな?」って未だに疑ってるから、月イチくらいで事務所の社長に確認してるんだよ。「ねえ、これってドッキリじゃないよね?」って(笑)。

 

HDM:(笑)。でも、ハリウッドという現場で動くっていうことが現実味を帯びてきたんじゃない?

窪塚洋介:いや、まだ全然何もわかってないし、自分の中ではまだすごくファンタスティックな世界だよ。日本の現場とはスケールがまったく違うし。「ごめんね、こんな低予算の映画で…」て言われた予算が10億だからね(笑)。ハリウッドの世界では、それで「お恥ずかしい…」っていうレベルなんですよね。流石はメジャーリーグ(笑)。

 

HDM:日本の現場と海外のスケールの両側を俳優として行き来できるのってすごいラッキーじゃない?そうやって、ちゃんと両側の感覚を維持できるだろうし。

窪塚洋介:うん、それは本当に。もともと、メジャーとアンダーグラウンドの両方の感覚を持っていたいって思ってたから。アリーナやホールでもライブやるけど、ライブハウスの空気感もしっかり持っているっていうような。タクシーも乗るけど、環状線も乗るよって(笑)。

 

HDM:いい形でスタートが切れたから、これからどんどん海外での作品が増えていくんだろうね。

窪塚洋介:うん、そうなってくれるといいね。(先に出演した)マーティン(・スコセッシ)監督の映画のプロデューサーにも「次の映画を選ぶ時はちゃんと吟味しろ」って言われた。「変な役を受けるな」って。実際にわりとすぐ次の映画のオファーが来たんだけど、それが某アメリカンコミックの実写版で、悪役の役の話がきて。「お、ちょっと面白そうじゃん」って思ったんだけど、(マーティンの映画の)プロデューサーに相談したら「ダメダメダメダメ!」って全力で静止されて(笑)。

HDM:ハハハ!

窪塚洋介:「そんなの絶対食べちゃダメだよ!毒入ってるよ!」って(笑)。要は、「お前がキャスティングに選ばれたハリウッド進出の第一作品目がどういうものかわかっているのか?」ということだったんだよね。『沈黙』は、マーティン・スコセッシ監督の代表作である『タクシードライバー』と『レイジングブル』以来のアートムービーで、それはもの凄く貴重な経験なんだから、そのキャリアを大切にしろ。ハリウッドで名前を挙げる為に何でも喰うっていうスタイルはやめろって。「才能を安売りするな」って言ってくれた想いをちゃんと汲もうって思ったよ。むしろ、今の自分の仕事に対するやり方と一致していることだったし、それをハリウッドでも維持しろというお墨付きをもらえたみたいで嬉しかった。

 

HDM:それって、きっと洋介君の存在感を信じてもらえたからじゃない?何て言うか…日本で俳優業をされている人の中でも洋介君は特に「浮力」が強いから、それをわざわざひと山幾らの中に埋もれさせたくないって、彼らも思ったんじゃない?

窪塚洋介:そうだと嬉しいんだけど、やっぱり「役にハマってた」っていうのが一番大きかったんじゃないかな。有り難いことだよね。俺はたまたま、マーティンが20年間探してた役柄にうまくハマることが出来たというひとつの結果なんだろうと思うから、この経験だけで「俺はもうハリウッドでも通用する役者」なんてさらさら思えないよね。現場経験どころか、英語もロクに喋れないっていう今の自分の身の程を知ったうえで、マイペースにハリウッドに馴染んでいけたらなって思ってる。

 

HDM:日本とハリウッドの両側を行き来すると、両方のやり方が際立つだろうね。良くも悪くも。

窪塚洋介:俺が日本の芸能界に対して一番クソだなって思うのはね、すごく政治的なところでクリエイションが決まっていくところだね。内容にしろ配役にしろ。

 

HDM:それって本当にクソだね。

窪塚洋介:うん。芸能界とか芸能人ってさ、昔はもっと特別な存在と場所だった。でも今は、大衆とどれだけ近しいか、どれだけ大衆から浮かずに居られるか、似たようなことが出来るか、ていうことが重要視されているように感じる。今はそういう環境に金が回っていくようになっていて、中身がどうであれ、金を手にしたヤツらがカッコいいっていう連鎖が止めどなく続いているように思うんだよね。

 

HDM:むしろ特殊な才能や個性を持っていることが命取りになるっていうか。巷の一般人がやっている同じようなことを、ただ場所を変えてテレビの中でパントマイムのようにやっているだけように見えるね。でもこれって、芸能界と大衆の願望の相互作用っていうか、完全に一方だけの責任っていうわけじゃないんだろうね。

窪塚洋介:本当にそうだよね。もうね、アイドルなんか顔も同じに見えるもんね(笑)。それでコントロールしたいことがあるからその状況なのかも知れないけど、ただ単純に「つまんねえな」ってことに尽きるよ。こういうこと、20代からずっと思ってたね。「芸能界にいるお前らなんかより、俺の周りにはカッコいいヤツらが100人以上いるぞ」って。

 

HDM:洋介君のその独特な「浮力」は、芸能界じゃなくて、それ以外で知り合った人達との影響が大きいんだね。

窪塚洋介:俺ね、個性とか…まあ「クセ」が強い人間だとか言われてるけど、個性なんて本当に無いんだよ(笑)。

 

HDM:何でそう思うの?

窪塚洋介:卍LINEを始めたことで、ようやくオリジナリティっていうものが多少は得られたのかも知れないけど、役者だけだった頃はとにかく「ゼロでいたい」って思ってたから。

 

HDM:それは不可能だよあなたには。無味無臭でいられるはずないよ(笑)。

窪塚洋介:そうなの?でも、俺自身はいつもそうでありたいって思ってるんだよ。何もない状態から、王様も乞食も演れる自分でいたいって思ってる。

 

HDM:でもそれって、洋介君が普段からメディアやSNSなんかで発信されている言動とは相反することだよね?

窪塚洋介:そう、すごく矛盾してるよね。それに、プライベートを晒すことのデメリットってメチャクチャわかってるはずなんだけどね。だから、それをわかったうえで敢えて挑戦しているのかも知れない。「卍LINEをやっているから」「プライベートの窪塚洋介であんな挑発的なことばっかり言ってるから」っていうイメ−ジに、俳優として俺に与えられた「役」という人格が凌駕されてしまうんだったら、自分は所詮その程度のモンしか持ち合わせていないってことだもんね。

 

HDM:プライベートを晒すって言えば、先の三宅洋平さんの『選挙フェス』での応援演説は特にインパクトが強すぎたんじゃない?

窪塚洋介:それは本当に大きかった。びっくりするくらいだよ。

 

HDM:三宅さんとはどういう繋がりだったの?

窪塚洋介:三宅君とはね、以前に沖縄でライブした時に初めて会ったんだけど、実際に対面するまでお互い「2人は似てる」って周りから言われてたみたいなんだよね。それで「やっと会えましたね」って、すげえいい感じでリンクしたのが…確か三宅君が前回出馬した後だったんだよ。前回の出馬では、応援はしていたけど特に具体的なサポートはしていなくて。選挙自体に疑問があったから選挙には参加しなかったんだけど、今回は、政治っていうものに対して「本当に懸ける価値が無いのか?」ということを自分で確かめたかったっていうのがあったね。自分が本気で関わることで見えてくる「社会の仕組み」を確認する為に。

 

HDM:それで、実際どうだった?

窪塚洋介:結果としては、非常に胡散臭い数字が出たりだとか「ああ、やっぱりこういうやり方ではルールは変わらないんだな」っていうことはすごく勉強になった。ただ、自分が出てすごく意味があったと思ったのは、俺が演説をやった約8分のあの時間は、映画に2、3本出たくらいに匹敵する影響力があったって実感できたこと。あの一瞬の時間で、もの凄い数の人たちが意識を向けたり意志を持ったりしたんだなっていうことが、あれから道を歩いているだけでよくわかるんだよね。

 

HDM:道で何かリアクションを受けるの?

窪塚洋介:「頑張ってね!」とか「メッチャ応援してるから!」「俺、生まれて初めて選挙行ってきたんです!」とか。あれからすごく声をかけられるようになったし、ポジティブな力を受けることが多くなった。それに反して、ソーシャルネットワークの中では、秒刻みでスゲエ叩かれてるけどね(笑)。こうやって話している今もまさに続いていると思うよ。仮想現実と現実の違いも改めてハッキリわかったということもそうだけど、なによりしっかりと種を植えることが出来たし、しかもその種の発芽の早さにまず驚かされた。

 

HDM:演説のあの環境って、どんな精神状態だったの?

窪塚洋介:あの時ってね、何て言うか…役者と卍LINEとがミックスされたような精神状態だった。曲を歌ったわけじゃなかったけど「リリックを放り込んでいる」っていう感覚があったし、その場所は「舞台」でもあったし。本当に凄い沢山の人が集まってきて、最終的にはトータル2万人くらいが集まったみたいなんだけど、そこに居るのは俺の曲を聴きに来てくれているお客さんじゃなく「お前はどんなこと言うんだよ?」って注視している人がほとんどだったことにもすごい燃えたね。終わって戻ったら「さあ、次は洋介君が出馬ですね」とか言われたけど(笑)。

 

HDM:いや、あの演説見てから実は私もそれを聞こうと思ってた(笑)。考えてたりするの?

窪塚洋介:絶っ対にない!だってこの方法じゃ変わらないんだもん。例えば俺が出馬して、仮に通ったとするじゃない?そしたら今度は俺のやり方や思想を通す為に議席が必要で、議席を取るためには組織票が必要で。それを得ようと思ったら、その組織に媚びないとならなくなるじゃないですか。そうしないとそれが叶わないから。そのサイクルが始まってしまうと、どんどん最初の意識や志が研磨されて、あんまりいい方向にはいかなくなるよ。

 

HDM:三宅さんはミュージシャンとして個人的にとても好きな方なんだけど、出馬の根底にある、国や社会を憂う気持ちとか、今の状況を覆したい精神がすごく強いからアーティストをされてるって思ってたよ。

窪塚洋介:うん、うん。

HDM:何かを変えるための第一段階が、まず「個人の意識を変える」ということなのであれば、その一番強い力を持っているのはアーティストだと思ってるんだけど。映画や音楽、絵にしろ小説にしろ、それを創る人から発せられた「強いメッセージを持った表現」を受けた人たちが媒介になって、その結果、担い手として理想としているものを実現してくれるというのが、形式的なルールの中で戦うより、もしかしたら一番確実な手段なのかも知れない。ボブ・マーリーが政界にも多大な影響を与えたのは、彼が権力者だったわけでも人格者だったわけでもなく、素晴らしいミュージシャンだったからなんだろうなって。もちろん、そのメッセージの影響がすべて「善」に向くことはないだろうけど、それでも影響力の強さは計り知れない。

窪塚洋介:それ、すごくよくわかる。俺も本当にそう思ってるよ。そう思ってるからこそ、彼の応援演説に行ったっていうのもあるよ。

 

HDM:どういうこと?

窪塚洋介:言葉が合ってるかどうかはわからないけど…何て言うんだろう、ある種の「決別宣言」っていうか。俺らはそれまで「アーティストとアーティスト」という関係性だったんだけど、ある日を境に「アーティストと政治家」になるんだということをすごく感じた。でも俺は、それもあの人の宿命だと思ってる。政治家の家系に生まれてきて、人生の中で彼は政治に関わるようにもう決まっていたことなんじゃないかって。そう思うと、なるべくしてなった展開なんだろうなって。あの後にね、三宅君と対談する機会があったんだけど、その時にもリスペクトを込めて「あなたは政治家になる為の道を一歩踏み出したからこそ、阿部総理の奥さんと会った。三宅君の政策では、7年という年月をかけて立派な政治家になると言っているけど、俺らは『今』がピンチなんだ。『今』変えなきゃいけないことが沢山ある。だからこそ、三宅君が挙げられなくなった中指は俺らがずっと挙げとく」って言ったんだよね。

 

HDM:三宅さんは何て?

窪塚洋介:そしたら「俺らは陰陽みたいな関係だね」って。向かう方向はだいたい一緒だけど、俺はアーティストとして、三宅君は政治家としてやっていくことになったから。それで、もし果てで、三宅君が政権を取ることになった時には俺はその時あんたのアンチでいるからねって。レゲエミュージックはレベルミュージックで、権力は権力。三宅君がそっちに行くなら、俺はそのアンチにしかなれないからっていう意思表示をさせてもらったよ。人間同士としてはすこぶるいい関係性なんだけど、選んだ道が変わったから。だけど、それでいいと思ってる。

 

 

HDM:もたれ合いじゃない関係性の方がいいよね。個人の生き方は、社会のせいにしなくても自分の手で変えられるところが大きいし。

窪塚洋介:俺はもう、ホントにみんなと楽しく生きていけたらそれでいいんだよ(笑)。自分が本当に好きな事…役者やって音楽やって。「今日よりいい明日」っていう日々。そうやって未来にどんどん進んでいけたらいいと思う。もしかしたら人から見たら、俺は貪欲なヤツに見えているのかも知れないけど、そう多くは望んでないから(笑)。

 

 

彼は自分に対して向けられる世間の評価や憶測にあまり興味がないみたい。「俺が発した断片的な言動のどれかを見て『この人はこういう人間』って思われていることが多いと思うから、自分についてどう思われていても構わない」と言っていたから。ただ、彼と対峙した人間のひとりとして言えることは、彼は本当に真っ直ぐな人で、とても優しい。だって、リビングに通した私たちに向けて「冷たいお茶とカルピス、どっちがいいですか?」って聞いてくれるんだ。だけど、その内容がどうでも(飲みもの聞かれたくらいでってどうせ思うだろうから)、賛辞や肯定の言葉は、罵倒や否定の台詞の強さにはどうにも敵わない。なんでだろう、まったく嫌になる。誰が敵で誰が味方だろうとどうでもいいけど、とにかく彼は「運」という一番の味方を得ることに成功しているから、それでいいよね。

EVENT INFORMATION

窪塚洋介とハリウッドと三宅洋平と(後編)

『怪獣の教え』

演出・脚本・映像:豊田利晃
出演:窪塚洋介 / 渋川清彦 / 太田莉菜
音楽:TWIN TAIL

日程:2016年9月21日~25日
場所:Zeppブルーシアター六本木

小笠原諸島の青い海。海の上を漂う一隻の船。船の上には二人の男。国家の秘密を暴露して、政府から追われる天作(窪塚洋介)。パラダイスで生きることの葛藤を胸に抱く、島育ちのサーファーの大観(渋川清彦)。天作は東京で事件を起こし、島へ逃げて来た。従兄弟の大観に船を出してくれるように頼んだ。無人島にでも隠れるのだろう、と大観は思っていた。しかし、天作の目的は別にあった。祖父から教えられた、『怪獣』を蘇らせることだった。一隻の船に乗り込むと二人は海へ出る。昨夜、二人はひとりの女性と会った。世界の島を転々としながら暮らす、アイランドホッパーのクッキー(太田莉菜)。クッキーは怪獣の教えの秘密を知っていた……。

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