IILGABA|マスクで素顔を隠すことで起こるパラドックスの原理

IILGABA|マスクで素顔を隠すことで起こるパラドックスの原理

interview by CHINATSU MIYOSHI photo by LIONEL LALANDE

アルゼンチン・ブエノスアイレス出身のABIは、フォトグラファー、ペインター、造型などあらゆる芸術のパートで、その才覚を表現している。美しくもシリアスな空気を纏った作品は、彼女自身が持つ「複雑な魅力」そのものに見える。

 

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HDM:ペイント、カメラ、マスク制作、モデルとか、すごく色んなパートで作品作りをしているよね。

ABI:うん。あとは、仕事としてフリーランスでグラフィックデザインもやっていて、日本に来てからはイラストレーションもやっています。でも、カメラと同じで自分にとってはイラストレーションも「好きすぎるもの」のひとつだから、きちんと仕事にするにはどうだろう?って気もしていて。ペイントもイラストもカメラも、本当に好きなことを仕事にするっていう難しさを感じてる。

 

HDM:純粋に表現としてやりたいんだね。出身はアルゼンチンのブエノスアイレスだったよね?どういう経緯で日本に来ることになったの?

ABI:昔から日本に来たいっていう気持ちがすごくあって…何て言うか、文化が違いすぎてすごく気になる国だったから。まさか日本に住むことになるとは思っていなかったんだけど、高校生の時に「やっぱり海外に出たい」と思っていろいろ調べてみたら、日本にはすごくいい奨学金制度があったことが大きなキッカケだった。

 

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HDM:アルゼンチンにいる時からアートにたずさわっていたの?

ABI:そうだね。パパが美術の先生だったから、絵は小さい頃からずっと描いてて。高校もアートに強い学校に進学したし、アートが常に身近にある環境ではあったよ。

 

HDM:表現することが自然な環境にいたんだね。作品の中で最も強いインパクトのものはやっぱりマスクだと思うんだけど、あれは?

ABI:キッカケはまず、展示会の話が来て、当初は絵だけでやろうと思っていたんだけど、絵を書き続けていたら途中で飽きてきて(笑)。

 

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HDM:つまんなくなっちゃったんだ(笑)。

ABI:そう。私、同じことを延々とやるの向いてない(笑)。それで、しばらくしてから「3Dの作品を作ってみたい」って思い付いて、それでマスクを作ってみようと思って。試しに1個だけ作ってみたら「いいかも」って。

 

HDM:ハマる感覚があったんだね。

ABI:うん。実際に作ってみてから気付いたんだけど、マスクを装着することで…何ていうのかな、顔を隠すことで自分の本質みたいなのが浮き彫りになる感覚っていうか。マスクにはそういう“パラドックス”が存在するなって。

 

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HDM:実際にマスクを着けてみてそういう感覚に?

ABI:そう。これを着ければ、自分の表現してみたいこと、やりたいことが自由に出来るって感覚になった。

 

HDM:例えばどんなこと?

ABI:そうだな…例えばね、ここ(インタビュー場所のスターバックス)で、いま素顔のままで「踊って」と言われたら出来ないんだけど、マスクを着けてなら全然踊れるよ(笑)。

 

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HDM:パーソナルな部分が隠れるというより、隠すことでパーソナルな部分が出てくる作用ってすごく面白いね。そのマスクは、用途はいろいろあるんだろうけど、鑑賞するより使うことによって生きてくるものなんだね。

ABI:そう。飾ってもらえるのも嬉しいんだけど、何かの表現の一役になれたらいいなって思う。仮面だけじゃなくって、それを使ってひとつの大きな作品に繋がっていくのが理想。

 

HDM:その仮面を使って、パフォーマンスアートをやってみたことは?

ABI:まだ無いの。でも、これからそれをやってみたい。音楽も大好きだから、ダンスと音楽とを合わせて何か表現出来ればいいな。

 

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HDM:日本のアートシーンはどう?

ABI:アルゼンチンにいた時は、日本のアートってすごいって思ってた。技術も高くて、ミニマルなセンスでカッコいいものが多いって。私は外国人だから、日本でのアーティスト活動は比較的やりやすいんじゃないかなって気はしてる。もしここがアルゼンチンだったら、そう簡単に注目を集められるとはいかないと思うんだけど。人種や国籍が違うという“個性”をうまく使いこなせることが出来れば、きっと表現は広がっていくんじゃないかなって。アルゼンチンで評価されているアーティストもね、やっぱり海外で評価されたり、国外でのプロジェクトで成功したことで、国内でも認められたっていう人が多いよ。

 

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HDM:日本にムカつくことってない?

ABI:それは、アルゼンチンでムカつくこととあまり大差ないよ(笑)。あ、でも専門学校に通って思ったんだけど、なんだか高校生が集まったクラスみたいだったね。アーティストを育成するための環境としては、レベルが低いように感じた。先生も…まるで子供に教えているみたいに接しているのがすごく嫌だったよ。先生や講師は、高い技術や知識を伝える人だと思っているのに

 

HDM:もしかしたら、学校でアーティストを本気で育成するつもりなんてないのかもね。今後も、日本で表現をしていきたいって思ってるの?

ABI:今は、取り敢えず日本に住んでいるし、まずはここから派生して海外にも行きたいと思ってるよ。でも、暮らすには日本が最高。住みやすい。

 

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インタビュー後になんとなく雑談していた時に、彼女の国が生んだ音楽であるアルゼンチンタンゴが大好きなんだと言ったら「ルーツを知ってる?」と言って、あの素敵な音楽にまつわるストーリーを教えてくれた。それはとっても艶かしく美しい話で、アルゼンチンタンゴと、そして彼女のことがますます好きになった。

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