待ちわびた心強い風を背に受け“HI-KING TAKASE”が足取り軽く踏み出した一歩
ライヴを中心に、近年は再びMCバトルにも数々参戦するなど、動きを見せるHI-KING TAKASEが、敬愛するRHYMESTERも所属のstarplayers RECORDSから念願のアルバム『NEWタカセ』をリリースした。現レーベルの社長から最初に声をかけられてから8年あまり、自身としても実に9年ぶりとなる今回のフルアルバムは、彼にとって心機一転まっさらのスタート。肩の力が抜けたアルバムには穏やかな風が流れている。
HDM:単独名義ではホントに久々のリリースとなりますが、アルバムまでの9年間はどんな感じでした?
TAKASE:曲は作りまくってたんですけど、こういう感じで行くっていうのがホンマに作れてなかったんで、ライヴやバトルでできることやろうって感じでやってましたね。
HDM:その間にstarplayersのアーティストともなったわけですけど、以前からRHYMESTERへの敬意は口にされてましたよね。そもそもどういう経緯で?
TAKASE:出会いは奈良で鬼タモリさんのイベントの前座で共演させていただいたのがキッカケで。その時は緊張してほとんどちゃんと話せませんでしたが、事務所社長の岸さんにもライブを見ていただいて、連絡先も交換させてもらいました。自主でリリースしたアルバム『Rhyme Viking』のことや、大阪で行われた『THE CARNIVAL 2008』のライブバトル・フリースタイルバトルで優勝したことも知ってくれていました。それだけでもすごく嬉しかったんですが、1週間後くらいにわざわざ奈良までまた来て下さって、色々と話しをさせてもらって、その時にリリースのお誘いを頂きました。
HDM:レーベルメイトとして身近に接してみて、改めて思う3人の凄さや気づかされることなどはありましたか?
TAKASE:RHYMESTERのお三方はもちろん、事務所スタッフや関わられている方々には本当に良くしていただいて…なのにいろんな場面で、相変わらず僕は緊張ばかりであんまり自分から話せないのですが(笑)、皆さんの仕事に対する意気込みというか、本気さも自分なりに見させて頂いたような気がします。僕がガチガチになってると優しさでイジってくれたり、仕事に対するハードな部分とはまた別の気さくで温かくて紳士的な人柄もカッコ良すぎるし、自分も見習いたいと思わされました。
HDM:2009年のB-BOY PARKへの出演の経緯は?
TAKASE:その流れで事務所からライブバトルへのエントリーのお誘いを受けて、「これはかますしかない!」と気合満タンで挑みました。当日は法斎BeatsにライブDJをしてもらったのですが、曲振りMCをビシッとキメたラストシットでまさかの1曲前と同じインストがかかるという緊張によるアクシデント…というかミスですね…があって、めちゃめちゃ焦ったんですが、アカペラでフリースタイルをかまして、もう1回曲振りし直して、ラストシットを無事終えて…精いっぱいぶちかましたし、盛り上げた手応えもあったけど、オーディエンスジャッジだったのでどうなるかとドキドキしながらも、なんとか優勝することができて。
HDM:レーベルへの誘いやB-BOY PARKでの優勝など良い流れで進んでいる中、なかなかリリースできなかったのは?
TAKASE:そんな中、リリースに向けて曲作りを順調にするつもりだったのですが、何故かなかなかうまく進めることができなくて、せっかく誘ってもらったのに何回もリリースのタイミングを逃してしまっていました。今思えばですが、気負いがあったのか、うまく歌詞が書けなかったり、段取り組んだり全体のイメージを作ったり、「こうゆうことがやりたい」ってゆうアピールやコミュニケーションを取ろうとする基本的なことがまったくできなかったんです。当たり前なことができない、知らない…ラッパーとしてというより、人として今より更に未熟で余裕がなかったんだと思います。その時は本当に1人でずっと悩んでいました。いわゆる僕の中での「OLD タカセ」時代ですね(笑)。でも、アホなのでマイク1本できっとこの状況をひっくり返せるとだけは信じていましたが(笑)。
HDM:(笑)。で、そんな状況をどうやってひっくりかえしたんですか?
TAKASE:活動のことを考えて地元奈良から大阪に引っ越したんです。現場へ足を運ぶ機会も増えたし、そこでいろんな人と出会ったり、お酒を飲みながら話したりしているうちに、「なんか悩んで落ち込んでるより、全部ぶちまけてビシッとかまして、目標に向かってやる方が良いな」と、自然とモチベーション上げることができたんです。OLDタカセは単純に世間知らずで友達が少なかったんだと思います(笑)。その頃から「明るくなったよな」って言われることが増えましたし(笑)。それから、maruhiprojectとの作品『MARUHICODE:HI-KINGakaTAKASE』や、JABとの作品『Act Like You Khow』を出させてもらったり、『KING OF KINGS』の2015、2016の大阪予選で優勝することができたりと、流れや自分のメンタルが高まっているこのタイミングでリリースした方がいいと、改めて事務所に相談して今回のリリースに至ったわけです。
HDM:なるほど。いろいろと紆余曲折があったわけですね。2012年には映画『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』にも出演されましたよね。そこで得ることもあったんじゃないかと。
TAKASE:メチャクチャありますね。これも事務所からオーディションの話をいただいて、入江悠監督とお話しをして決まったんですが、前作のSR1、SR2も見てたので凄く嬉しかったです。どういう心構えで行ったらいいのかも探り探りだったんですけど、役者さん見てたら、待ち時間にラップ練習したりとか、このラップおかしくないか見てくれとかってことがあったり。プロモーションでも監督から役者さんはもちろん、ボランティアの人とか制作スタッフが一緒に地方に行って、街でフライヤー配ったりとかポスター貼ったりとかしてるの見てたら、そこまで自分ができてないってことに気づいて。それも転機になりましたね。今も役者の方とは飲みに行かしてもらったりしてるんですけど、ホンマに気取らず、やることはやるというか、こうあるべきやって方ばっかりなんで。
HDM:この9年間で、意識が変わるような経験って他にもありました?
TAKASE:韻シストがやってる『NeighborFood』っていうライヴがあるんですけど、そこで一緒に歌わせてもらったぐらいから仲良くさせてもらってて、それもだいぶ僕の変革期というか衝撃を受けて、音楽的にも人としても。全然気取ってないんすけどメチャクチャカッコいいじゃないすか、韻シスト。お酒もだいぶ飲みはるし、なかなかの酔っ払いっぷりですし、「最高やん!」みたいになって(笑)。
HDM:(笑)。それらを経て今回の『NEWタカセ』ができたわけですけど、さすがに9年ぶりともなると、不安や焦りもあったんじゃないかと思うんですが。
TAKASE:それこそ僕より若い世代がどんどん売れてってるのを見て焦る反面、僕は僕のペースで今の僕にしかできないことをやりたいなあと思ってて。その時間を経て、思ったことを伝えた方が自分もいいし、聴いてる人もそういう歳の重ね方してるんかって思えるのが自分っぽいかなあと今は思ってますね。
HDM:逆に言えば、そうした思いを形にしたのが今回のアルバムだと。
TAKASE:韻がどうのフロウがどうのっていうのは、曲としてラップとしては必要やと思うんですけど、それはもうさんざんやってきてるから、自分にない部分、足りひん部分がどういうとこなんやろうなあって凄く考えてて。でも、いろんなもの見たり聞いたりしてたら、ああだこうだ考えるよりは、肩の力抜いてもっと自分らしく、自然になった方がいいんちゃうかなって楽になってきたみたいなのはありましたね。
HDM:参加したトラックメイカー達とのやりとりの中でもそういう話はしたんですか?
TAKASE:トラックメイクで参加してもらった法斎BeatsやCosaqu、DJ 5-ISLANDは僕がステップアップできひん時に横で一緒におってくれた関係やったんで、こういうのがいい、ああいうのがいいとかっていう話は結構してた。ホントいつも「もうやるから」とか、「今年こそ」みたいな感じで言ってたんで、どう思うてくれてたんかわかんないですけど(笑)、今回やっと作れて無理なスケジュールでもすごい力になってくれてたっていうのはありますね。
HDM:じゃあ制作期間自体は短かったんですね。
TAKASE:レック自体はたぶん1カ月半ぐらいでやってるんですけど、サビだけとか1ヴァースだけとかこういうテーマやっていうストックはあったんで、それをうまく混ぜつつ、ギリギリまでブランニューで走り切ろうっていうのがありました。だからトラックメイカーにはすごい無理言いまくったんですけど。
HDM:曲作りやレコーディングの面でこれまでと違うことはありましたか?
TAKASE:違いねえ…特にないです(笑)。ただ、これは教えてもらってやるようになったんですけど、レコーディングする時は座ってやって、リリック書く時は立ってやるんですよ。
HDM:へえ。それをやることで何か違いが?
TAKASE:立ってやるっていうのはただ単に環境的に、換気扇ある場所でタバコ吸って書きたくなった時に立ってやらなあかんだけなんですけど、でも立ってやるといいなっていうふうに思ったことがあって。立ってやると当然しんどいじゃないですか。だから手抜くんじゃなくてフリースタイル感というか、ワンテイクのひとふで書き感が出るというか。それでキリが悪いところで終わっちゃうと続きを書く時にすごいやりにくいんで、1ヴァース行くまでは立ってる間にやりきろうみたいな…(笑)。なんか大丈夫ですか、こんな話で。
HDM:(笑)。全然大丈夫です。逆に、座ってレコーディングすることにもやっぱり何かいい影響があったり?
TAKASE:レコーディングする時はリキみたくないんで。僕リキみすぎるんすよ、テンション的に。調子に乗っちゃって。ライヴやとそれぐらいでもいいのかなと思うんですけど、レコーディングやと思ってた声よりもトーンが高いとか、曲のテンションに合わんかったりしてしまう時があるんで、それをコントロールできるように座って。今回はほとんどの曲が喋ってる感覚に近いんで。
HDM:確かに、そういう素のテンションが等身大のアルバムっていうムードを作ってますよね。
TAKASE:その中でもおっきく分けると『猫』と『ママチャリ』と『COOK』はラッパーとしての自分というよりは、日常の中に溶け込むようなテーマで書いたんですけど、そこに僕のヒップホップエッセンス、物の見方はちりばめたつもり。『猫』は今飼ってる猫が、奥さんが彼女だった当時飼ってた猫を一緒に飼うことになったんですけど、僕自身も猫を大好きになってしまいまして。その猫目線で考えたらどんな感じでここにたどり着いて飼われることになったんかなあっていう妄想のもと始まった、実話の要素入れつつの妄想ストーリーです。『ママチャリ』も今の近所に坂道があるんですよ。それがしんどいなっていうのを元に作ったショート妄想ストーリーなんです。『COOK』はリリックが先にできてて、他のオケで最初作ってたんですけど、アカペラだけ渡してWATT(a.k.a.ヨッテルブッテル)に無理言ったら、6パターンぐらいトラック作ってくれて、そん中で1番ハマってるやつにしましたね。
HDM:ただ、そうした曲にしても、音楽を続けていくTAKASEさん自身や今の状況、気持ちとダブってくるんですよ。
TAKASE:そうですね。ふんわりやんわり重ねてリリックを書いたつもりなんですけど。
HDM:だから、過去の自分を振り返るDJ JINさん制作の『DEMO No.1』ような曲も含めて過去と今、そしてこの先に向かう気持ちがすべて入ってるアルバムかなって。
TAKASE:まあオレオレばっかりでやっていくほど人生なんて大したもんじゃないと思う。僕が書いてるのはその辺にあるもの、「その辺オブその辺」やと思うんですよ。それを視点の違いで見せれた方が面白いなっていうのは、ここ何年かで思い始めたことではありますね。
HDM:逆にいうと、TAKASEさんにそんなオレがオレがの時ってあったんですか?あんまりイメージないんですけど。
TAKASE:いや、なんかね、僕もそんなつもりないんですけど、結構尖ってたて言われるんですよ。でも、それは尖ってたとかじゃなく、引きこもりであんまり人を寄せ付けたくないというか、あんまり深入りしたくないみたいなのがあったんかなあと思うんですけど。今回、一緒にやったトラックメイカーのCosaquも10年前ぐらいから知ってくれてたらしくて、僕がライヴした後に「よかったです」って声かけに来てくれたらしいんですけど、僕はツンとしたような対応で「おお、ありがとう」だけやったって言うんすよ(笑)。そこはなんか虚勢張ってるというか、カッコつけてるというか。言ってるメッセージは一緒やと思うんですけど、ありがとうとも言ってるし。ただ表情プラスアルファが小っさい人間だったんだなって(笑)。
HDM:ともあれ、完成したアルバムはどうですか?
TAKASE:できた音源を関係者なり近いところに聴いてもらった時に、「どの曲がよかった?」とかって聞くじゃないですか。そん時にいいアルバムという意味なんかわからないんですけど、結構みんなバラバラで。この1曲とかってよりはこの曲とこの曲とこの曲と…って3曲か4曲言ってくれる人が多いのがすごい嬉しくて。今まではそういうことがなかったんで。
HDM:そうなんですね。ご自分ではどう思ってます?
TAKASE:気づいたら11曲入りやけど40分もないんで、アルバムと言っていいかわからんぐらいの短さやと思ったんですけど、日常の中にさらっと重すぎないメッセージというか、聴いてその先は自分でこんなんかな?とかって思ってもらえるようなものが自然とできましたし、やっとスタート地点に立ったかなあって感じ。前作から時が経ちすぎてるんで、これがファーストアルバムというか、メンタル的にはホンマに心機一転で、また違う気持ちです。
HDM:そこはまさに『NEWタカセ』と。肩の力抜けたアルバムがひとつ形になって、これでいいんだというか、今後も自分のペースで音楽をやっていくっていう気持ちにもなれたんじゃないですか?
TAKASE:そうですね。ただ、次のアルバムがまた9年ぶりとかやったらもう話にならないと思うし、人として段取りよくできるようになればいいなとは思ってるんで(笑)。あとはやっぱライヴ観てもらいたいんで、もうちょっと人気者にならなあかんなって。
HDM:アルバムを出して、今後はまずライヴですか?
TAKASE:とりあえず音源は日々作っていくんですけど、HI-KING TAKASEとして自分のエッセンスを全部見せれるような長めのライヴができたらいいなと思ってますし、8月には『フリースタイルダンジョン』も一緒に出たストロベリーパンティースの歩歩と2人で、兵庫であるブレス式主催『AsONE』の2on2バトルに出たりとか、いろんなこともやっていこうかなと思ってます。とにかく、ラッパーとしてできることはなんでもやってみたいので、何でもやらしてください!
RELEASE INFORMATION

HI-KING TAKASE / NEWタカセ
starplayers RECORDS
STARCD-001
2484円(税込)
2017年5月10日
EVENT INFORMATION

HI-KING TAKASE『NEWタカセ』RELEASE PARTY
日程:2017年7月9日(日)
場所:TRIANGLE
時間:18時開場 / 25時終演
料金:前売1500円(D代別) / 当日2000円(D代別)
出演:[LIVE] HI-KING TAKASE / RAM HEAD / JAB / ストロベリーパンティース / SPARKEY / 鬼火 / BIG MOOLA / Complex Cornflax / 西 / MC frog / ミステリオ / LIL T / MC KIDA [DJ] 5-ISLAND / DIESEL / HEADZ / DON-8 / DAN