DJ KRUSH|四半世紀に及ぶ活動の軌跡が生んだ“珠玉”の10曲

DJ KRUSH|四半世紀に及ぶ活動の軌跡が生んだ“珠玉”の10曲

interview by BUNDAI YAMADA

DJ KRUSHがソロ活動25周年にして“初”となるラップアルバム『軌跡(キセキ)』をリリースした。DJ KRUSHの“初”…という時点で十分に衝撃だし、既に聴いてどハマりしている方もいるだろう。まだ未聴なら、また今、日本のヒップホップシーンで何かが起きているらしいと、少しでも気になっているのなら、まずこの作品から耳を傾けてみることをお勧めしたい。これは、その何が起こっているかの回答のひとつだ。何よりDJ KRUSHのトラックを迎え撃つ、参加アーティストの顔ぶれがそれを象徴している。OMSB、チプルソ、R-指定(Creepy Nuts)、Meiso、呂布カルマ、RINO LATINA II、5lack、志人…この面子は確実に現在の日本のヒップホップシーンの最前線の一端を写していると言って過言ではない。日本を代表するアーティストであるDJ KRUSHの4半世紀に及ぶ活動の軌跡が生んだ、インスト含む珠玉の10曲。それは疑いなく奇跡でもある。今もたゆまずに新たな伝説を打ち立てるDJ KRUSHに、新作について話を聞いた。

 

 

HDM:KRUSHさんの初のラップアルバムである以上、衝撃を受ける覚悟はあったのですが、それでも予想を超えて余りある面子でした。まず最初に、今作『軌跡(キセキ)』の人選について伺いたいです。

DJ KRUSH:僕も含め、同じ時代からやっているMUROやTwiGyがいて、その下の世代にRINOがいて。今やそのRINOが先輩と言われ、その下にもアーティストがいっぱい出てきている。まわりを見回すと昔とは違って、スキルを持っている人、独自の切り口を持っている人、色々なタイプのラッパーがいてシーンが熟してきている。僕もそんな中で25周年。いつか日本のヒップホップの、ラップのアルバムを作りたいというのは昔からずっと頭の隅にあった。それが、やっと実現した感じかな。元々KRUSH POSSE(DJ KRUSH / MURO / DJ GO)でやっていた、なんか原点に戻ったというかね。それで若い人を何人かセレクトしつつ、昔からやっている人にも何人か入ってもらって、ちょっとアルバムを引き締めてもらえたらなという気持ちでやったんだけど。それこそTwiGyもやりたかったし、10曲じゃ足りないよね。1度に全員はできないし、今回はこの面々に声をかけさせてもらった。

 

HDM:この完成図は、最初の段階から見えていたんですか?

DJ KRUSH:大体見えてたかな。

 

HDM:最初に描いていた完成図は、どういったものだったのですか?

DJ KRUSH:世代を跨いだラッパーに参加してもらって、という形かな。RINOが見てきた世代はMUROなんかだろうし、MUROの名前も出たんだけど、いっぺんにやるのは無理だから、その上の世代の代表として今回はRINOに1発やってもらおうかなと。今回は最初から10曲って決めてたから。

 

HDM:それはそのサイズ感が、それこそ描いた完成図のイメージだったということでしょうか?

DJ KRUSH:サイズ感もそうだし、制作時間の問題もあったし。無理して詰め込みすぎて、妥協しちゃうのもイヤだったから。若い才能と昔からやっている腰の座ってる連中を一緒にしたかったというのが、最初にあった。

 

HDM:『軌跡』という映画のサントラのようなというか、それぞれ全然バラバラのスタイルのラッパーが集まりながら、一体感があるのが不思議でした。

DJ KRUSH:みんな、これだけ個性があるじゃん?だから日本のヒップホップも成熟したなと思ってるよ。これからもどんどんでかくなると思うんだけど。MURO、TwiGy、RINO…昔から個性的なラッパーはいたよ。でもそれ以上に今はそういったラッパーがすごく増えているし、いろんな色を出せるようになってきている。そんなラッパーが今回は集まっていて、僕も自分を癖がある…決してスムーズで綺麗な音を作るタイプじゃないと思っている。80年代、90年代からヒップホップにリアルタイムで関わってきた僕という人間が、その音を彼らにぶつけたらどうなるのかなっていう。そういう気持ちでやりましたね。ちょっと心配はあったけど、でも、そこしかできないし、彼らもそこしかできないと思うんだよね。やっぱヒップホップというところで。それは絶対ぶつけるべきだなと思って、すごくハラハラしながら作った。それを全部並べたら、意外とカチっときた。自分の世界観も出せてると思うし、みんなが想像力をちゃんと働かせてくれて、真剣にトラックに向き合ってくれた。その思いがすごく曲に入ってるし、伝わってくる。だから、すごくみんなには感謝してる。

 

HDM:KRUSHさんは、今回参加しているラッパーを全員ご存知だったんですか?

DJ KRUSH:色々チェックしてリストを作ったんだ。今回参加してくれた人たちはもちろんそのリストに入ってる。それで更に音を聴いたり映像で見たりして、僕が全部選んだ。OMSB君に関しては、結構前…(OMSBの)1stアルバムが出るか出ないかの頃に地方で会って、デモテープをもらったことがあった。その当時から結構独特の怪しいビートも作るし、ラップも個性的だったから、いずれはやりたいなと思ってた。志人もそうだし。いずれ、絶対2人で形にしとかないとまずいと思ってた。

 

HDM:いま志人さんの名前が出たので伺いたいです。志人さんの楽曲『結 -YUI-』は、最初からアルバムの最後に置くと決めてのオファーだったのですか?

DJ KRUSH:最初からそうではなかった。ビートを投げたら、あの詩とタイトルを彼が付けてきた。詩の内容も「自分自身をちゃんと見ろと」と、みんなに投げかけて終わる。内容もやっぱり彼独特の切り口で、詩の内容はね、やっぱ彼の目線、見ているところが、なんか今回のアルバムの最後に1番ふさわしかった。全部並べてみて、これはもう絶対最後しかないだろっていう。

 

HDM:そうなんですね。確かに普通に聴いていても、この曲が最後としか考えられません。タイトルも『結 -YUI-』ですし。曲のタイトルはそれぞれラッパーが決めているんですか?

DJ KRUSH:そこはみんなラッパーに任せてる。それでびっくりするぐらいハマったっていうか。

 

HDM:それぞれがそれぞれの“宇宙観”みたいなものが表現されている気がしました。この不思議な統一感について、もう少し掘り下げたいのですが、どういったプロセスで制作されたのですか?

DJ KRUSH:まず、今回はメールと電話のやりとりだけで、1度も会ってないんですよ。全員そう。お互いに目指しているところがパッと見えれば、そこに向かっていけるからね。BOSS(ILL-BOSSTINO)とやる時も、すごくそれが大切なんだけど、ピタッとくるその…「そこですよね」っていう。その共通点さえ見えればできるのかな。…とは思ったけどね。一緒にスタジオに入ってくだらないことを喋りながらやるのもすごく素晴らしい作業だけど、メールや電話だけのやり取りの場合は、その音楽の中だけの世界だし、こういうことを表現したいのかな…みたいなことを考えつつ構成していったり…もう探り合いだから。ある種緊張感があった。そういう部分まで含めて、一緒にやる、曲を創るというのは、刺激を受けるものを持っている人たち、見ている世界観や表現の仕方とか、自分に持ってないものを持ってる人たちばっかりだから。それはものを作る人間としてすごく興味があるわけで。僕らは音楽をやっているけど、凄い写真を見れば「スゲェ」って思うし、絵を見てもそうだし。DJ同士のセッションもそうだし、そういう“何か”を持っている人たちと仕事するのはすごく楽しいよね。一方通行じゃない。ちゃんとそれに対して返ってくると、またこっちも考えさせられるし。だから、やり方としては、2曲、もしくは3曲を各ラッパーにデモを送って、「1曲トラックを選んで、いつもの自分なりの感じでいいから、自分なりの軌跡を歌にして欲しい」と頼んだ。みんな自分でトラックを選んでるし、そのトラックから多分色々インスピレーションを受けて、フロウまで全部含めて、それぞれ詩をつけてきた。5lack君なんかはどっちかと言えば普段はメロウな感じだけど、そうじゃなくて、彼はあえてあのヨレたビートを選んできたんだよね。ああいうのってKRUSHっぽい音だと思うし、逆に5lack君は普段とは違う、ああいう音にトライするっていう感覚があったんじゃないかな。でも普段とは違うことをやる方が楽しいじゃない?せっかくやるんだからっていう。もしかたら、そういう気持ちも彼にはあったかもしれない。それがハマってたね。

 

HDM:いつになく攻撃的な5lackさんで、驚きました。

DJ KRUSH:そう。だからびっくりだよね。うん。でも、本当は俺もそこが欲しかったんだ。だから彼は1番俺がやって欲しいトラックを選んでくれた。それは電話でやりとりしたの。そっちの方が多分面白いできになると思うよっていうのは。いつもと同じようなことをやるよりは、せっかくお互い初めてやるんだから、お互いの個性が出るような、どぎついハードコアなヤツをやったら面白いかもねって。5lackもそう言っていたし、じゃあそうしようと一致した。

 

HDM:ああ…やっぱりそうなんですね。それは、5lackさん以外にも感じました。全員、このアルバムの中で「自分が1番やばいことをやってやろう」という気概をそれぞれに感じました。

DJ KRUSH:まさしくその通りで。みんなそういう意気込みで、中にはそれを口に出していた子もいたし。そんなの、そりゃそうだよね。それは凄いカッコいいことだし、俺だって、やっぱ逆の立場になりゃ絶対トップになってやろうと思うしさ。最高のビートを作ってやろうと思うし。そういう意気込みで本気でやってくれたことが結果として形になってるから、素晴らしいと思うんだ。やりとりをしていて人間的にもみんなちゃんとしているというか。みんな芯がある人たちだし、そこは本当に感動した。最初にトラックを選んでもらったら…それはまだラフな2ミックスの段階ですよね。それにラップを乗せて返してもらって、もう1回全体を眺めて、ラップでこういうことを言ってるから、その後ろのドラムのスネアをずらそうとか、ミュートしようとかっていう。詩に全部合わせて、構成を全部組み直す、料理し直す。それをまた聴いてもらって、「こんな風に料理し直したんだけどどう?」って。それが1発でいいっていう時もあれば、「あそこの音をもうちょっと下げてください」とか、「ここスクラッチ入った方がいいんじゃないですかね」というアイディアをもらったり。そういうやりとりを何度かして、最終的にOKが出たら、それを正式にミックスして作品にしていった。

 

HDM:ビート面でも、ちゃんとKRUSHさんに「こうした方が」のアイディアがそれぞれあったんですね。それは凄い…。

DJ KRUSH:それはそうだよ。それはすごく前向きなことだから。OMSB君なんかは自分でトラックを作れるからさ。「フックの部分、メリハリがわからないから、もうちょっと綺麗にメリハリつくようにした方がいいかもしれないですね」とか。上手に振ってくれるし、俺も同じことを思っていたから、ラップを乗せてから改めて直して、「これはどう?」って。そういうやり取りをしていた。逆にそういうことは、はっきり言ってくれないと。まぁやっぱりみんな遠慮はしてるんだけどね。齢があまりにも離れてるから(笑)。だからこっちからそこはあえて崩して、「俺はこう思ってるんだけど、どう?」と言うようにしていた。

 

HDM:確かに聴いていても、ある種の拮抗した緊張感に感動しました。KRUSHさんのビートを相手にそれぞれ1歩も引いてない。遠慮をしていないという。

DJ KRUSH:いいことだよね。みんなちゃんと言ってくる。さすがみんな持ってるだけのことはあるよね。それがモノを作るってことだから。みんなわかってる。

 

HDM:ちなみに、今回は呂布カルマさん、R-指定さんという、巷を賑わすバトルでも名を馳せている面々も参加しています。KRUSHさんは、バトルをご覧になったりしますか?

DJ KRUSH:今回のアルバムの人選にあたって、何人かに関してはフリースタイルバトルも結構見たかな。以前、1度漢くんと曲(『猛者 -MOSA-』)をやっているんだけど、あの後ラップが凄くなってきた。僕はあんまりバトルはリアルタイムで観てこなかったけど、ここ何年かで凄く面白いという話は聞いていて、今回いろいろ見てみたら、『Wild Style』を見て原宿でやってた頃とはもう大違いで、驚くぐらいスキルが上がっていた。その上で、本人たちのアルバムもゆっくり聴いて膨らませていった。呂布カルマ君はフリースタイルも凄いし、作品として残ってるスタイル、両方凄いなと思ったね。彼のセンスは凄いよ。独特だよね。それはR-指定にしてもそうだけど。僕はやっぱりDJだから、パッとラップを聴いて、今まで一緒にやったBOSS君にしたってそうだし、TwiGy、RINOもそうだし、「うわっ、このラッパーのフロウ、この詩のオケを作りたい」と単純に思う。そういうアーティストと一緒に何か作品を作りたいなというのは変わらずで。それは今回参加してくれた人たちにしてもそう。僕が彼らの世界の、後ろの景色を作ってみたいと思った。そう思わない人には思わないし。単純にそういう思いがあった。自分にないものを持ってる人たち。他にも何人もリストには上がっていたけど、結局自分の定規を大切にしたかったから、そこは自分でちゃんと計って、彼らに手伝ってもらった感じ。

 

HDM:『若輩』は今のR-指定さんの勢いを伝える曲ですね。自信がなければ、このタイトルは出てこないと思いました。

DJ KRUSH:まさしくそうだと思う。あれは絶対自信の裏返し。いい意味でね。じゃないと絶対にできないし、彼の凄さってそこだよね。それだけのものを持ってるから言い切れる。ちゃんと隠しごとなく言ってるもんね。チプルソ君もそうだし。みんながちゃんと自分と向きあって、乗せてくれてる。それだけ一生懸命なんだなって。ありがたいことだよ。みんな本当に今回一緒にやってよかったと思ってる。

 

HDM:そして、もう1人、RINOさんですが…フロウの新鮮さを1番感じたのがRINOさんで、改めて殺されました。

DJ KRUSH:RINO節がちゃんと健在でよかったよね。あの時代のことを詩にしてくれていて、淡々と懐かしいラッパーの名前も出てくる。1曲の、あの枠だけでは語りきれないってRINOも言ってたな。あの頃のことをラップさせると、本当はもっと長くなっちゃうんじゃない?ドゥルッピー(・ドゥルワーズ)がリリックに出てきたのを聴いて、手を上げて喜んだね。やっぱあいつはちゃんと見てたんだなって。ビートもあえて、今度の中では世代的に古い人間に、90年代テイストじゃない、ちょっとやおや(TR-808)系とドラムマシーン系の音をぶつけたんだけど、「RINO来た!」みたいな感じになってるもんね。あのフレーズを入れてきたから、僕もあのビートを入れたり。そういう話で言えば、OMSB君がトライブ(A Tribe Called Quest)のリリックを使ってたから、こう来たんだったらと、トライブと同じネタを入れた。

 

HDM:あの、『Can I Kick It?』は最初からトラックに入っていたわけじゃないんですね。

DJ KRUSH:あの音は入ってなかったんだよ。あのフックを持ってきたら、俺もトライブはリアルタイムで聴いていたし、そこはやっぱDJ心、ヒップホップ心が疼くわけで。それも、ただサンプリングじゃつまらないから、ベースもちゃんと弾き直したものを厚く重ねたんだけど、ハマったよね。

 

HDM:あのベースは、ご自分で弾かれているんですね。

DJ KRUSH:そうだね。音そのものを作っちゃったりもするし。今回、結構サンプリングもしてるけど。

 

HDM:サンプリングは、やはり面白い作業ですか?

DJ KRUSH:やっぱり面白いね。組み合わせの妙というか。弾くのももちろん面白いけど…それはあくまでそこにハメようとして弾くわけだから。サンプリングはそうじゃなくて、録ったものに対して、他の物をぶつけた時に起きるその化学反応っていうか。単品だけで聴いていると別に大したグルーヴじゃないけど、それをヨレたビートに乗せることによって、ネタもめちゃくちゃ生きてくる。そういう偶発的なことが起こることが多い。

 

HDM:組み合わせのパターンなどを考えると、正解がないというか、サンプリングはほとんど無限の作業ですね。

DJ KRUSH:「どこでよしとするか?」そこの定規はみんな違うと思うんだ。作る曲によっても違うと思うし、ヒップホップのオケを作るのと、僕1人で作るインストゥルメンタルでも終点は違う。だから、きりはないんだけど、自分がここが1番気持ちいいという着地点は絶対ある。やりすぎると、やりすぎだなとわかるし、ここが1番いいだろうという、気持ちいいところは俺は持ってる。みんな持ってると思うし。ひとつのことに対して100回やったり、一応試すんだけど、いろんなことをやった結果、全部排除していって、やっぱこれだ、1番これがいいなっていう。そこで止める。

 

HDM:やり過ぎるとわかるものですか?

DJ KRUSH:わかる。これはやり過ぎてるなっていうのは。で、どんどんどんどん引いていく。重ねる方が簡単だももんね。引いていって、ものが少ない中で、3分間持たせるっていうのは、よっぽどじゃないと持たない。その選択する部分、それはサンプリングが面白い…だから基本的にサンプリングで作っていって、どうしてもサンプリングで出せない色が必要な時に弾く。その弾く音質も、やっぱりこだわりたいじゃん?トラップとかそういうのでは、いかにもシンセって音が多いけど、もうちょっと90年代寄りのものをやっていくのであれば、弾いている音も汚して、いかにもレコードから録ったみたいな音にしちゃったり。わざとスクラッチノイズをシンセの音にかぶせたりとか、そういうことは昔からやってたし、今もやってるかな。

 

HDM:まさにKRUSHさんのサウンドそのものの話ですね。すごく興味深いです。このアルバムの作業はいつから始められたんですか?

DJ KRUSH:去年(2016年)の暮れくらい?2カ月半くらい家に篭ってたね。トラックを作って、ラップを入れて返してもらって、全部直してって、窓から見える桜をよそ目にずっと引き篭ってたよ。結構大変だった。

 

HDM:かなり大変そうですが、それにしても2カ月で生み出された作品だと思うと、この作品の持つ濃密さが一層理解できる気がします。タイトルの『軌跡』は、もちろんKRUSHさんの25年の「軌跡」を意味していると思うのですが、ただ、参加しているアーティストには、もっと全然若い世代もいて、必ずしもKRUSHさんの軌跡と一致するわけではありません。このタイトルの意味というか意図を、改めて伺いたいです。

DJ KRUSH:アルバムとして『軌跡』と付いてるけど、俺には俺なりの軌跡があるし、足跡がある。若い人たちは若い人なりの時間があって、そこまで続けてきた軌跡があるわけで、それを1枚にして、みんなが経験してきた軌跡が入っている。そこまで、そんな難しく考えなかったかな。みんなに単純に「どう自分の軌跡は?」みたいな感じで提示した。これは俺の軌跡でもあるし、それぞれの軌跡をパックにしている軌跡はやっぱり俺の軌跡でもあるわけで、そこに辿り着いたという意味でね。

 

HDM:本当に様々な軌跡の凝縮ですね。長くなりましたが、最後にこれからのKRUSHさんについて伺いたいです。

DJ KRUSH:これからは…またすぐ…今年中にインストアルバムを出す予定なので、既にそっちの準備をがある。トラックをまた作らないといけない。それができたら、その流れでヨーロッパツアー、今年の暮れから来年ぐらいかな。このインタビュー自体、中国のフェスに3カ所行ってて、で、昨日帰ってきたばかりでやっているんだけど。今年中にもう1枚出したいから、忙しいよね。また産まなきゃならない。きついけど、なんだかんだこの時代の中で自分の1番好きなことができて、それが職業になっているのは嬉しいことだし。そこでやっぱり、贅沢は言えないっていうかね。やりたくたって、やりたい仕事をできない人の方が多いんだから。最初に『Wild Style』を見て人生が変わって、そこで何かを与えてもらった。そこから生きる道を見つけたから、正直に自分と向かい合って、DJ KRUSHという音を残し続けていくこと。それが恩返しだという思いだけでやっていて、それができなくなったら辞めようと思っているんだけど。まだそれを楽しくできているからね。もちろんそれは俺1人の力だけじゃできないから、今回みたいに手伝ってくれるアーティストがいたり、それを囲んでいるスタッフがいたり。それを聴いてくれるファンがいたり、宣伝してくれる媒体があったりという、そこは忘れちゃ絶対ダメだなって。うわ、なんか言ってることがおじさんみたいになっちゃった(笑)。

 

HDM:(笑)。ありがとうございます。お話を伺えて光栄でした!

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