YARD BEAT|“サウンドクラッシュ”は頭を使う音楽ゲーム

interview by SOLO BANTON

 

まだ自分が10代だった頃、横浜に“INFINITY 16”というサウンドがいて(今もいるけど)、国内の大きなサウンドクラッシュには必ずと言っていいほど参戦していた。でも、ずっと勝てなくて、「万年2位」って言われ続けていた。そんな彼らが『衝撃2004』で悲願の初タイトルを手にした時は、僕らはみんな手をたたいて喜んだものだった。あれから永い月日が流れ、メンバーのDESEMは新たに“YARD BEAT”というサウンドを立ち上げて、未だにこのゲームを続けている。そして先日、とうとう“聖地”ジャマイカでの初タイトルをものにした。我が青春のスターは、今、何を思うのであろうか?恐らく答えにくかったであろう質問にも、真正面から向き合ってくれたことを本当に感謝する。若き日に憧れたあの人は、今以って男前であった。

 

 

HDM:初めてサウンドを組んだ頃、確かFAT JAMだったと思うのですが、憧れていたサウンドって誰でした?

DESEM:そうだね、やっぱり王道STONE LOVE、それからJARO、BLACK KATあたりかな。彼らに憧れるというより、サウンドシステムにかな。当時はカセットテープでしか聴けなかったし、タイトルが「SOUND SYSTEM」とだけしか書いてなかったから、買って聴いて初めてどこのサウンドかわかる感じだったからね。

 

HDM:当時のフェイバリットアーティスト、またフェイバリットチューンを教えてください。

DESEM:TERROR FABULOUSは好きだったな。BUJU BANTONも。『BIG BELLY MAN / ADMIRAL BAILLY』は最初に7インチレコードで買った曲だよ。

 

HDM:BIG BELLY MAN!それ昔、何かのインタビューで言ってましたよね。三宿のラスタマンで回したりしたんでしたっけ?当時のシーンはどんな感じだったんでしょう?

DESEM:その当時は日本語のMCがほぼ無かったよね。MCやる人はまず言葉を勉強しないと人前に立てないんだって思ってた。それもまた魅力があったよ。あとはサウンドマンもアーティストも真剣なヤツらはみんな、お金を貯めてジャマイカに行って、自分の肌でいろいろ経験して、それを日本に戻って伝える、的なシーンだったかな。行かないと何もわからない時代だったからね。先輩アーティストも結構ジャマイカに住んでた人多いと思うよ。NANJA MAN、PAPA U-Gee、ACKEE&SALTFISHなんかは未だにジャマイカ歩いてると(ジャマイカ人に)聞かれたりする。良くも悪くもパソコン出てきてからガラッと変わった気がするね。

 

HDM:INFINITY 16に合流してからは、クラッシュサウンドとして名を馳せましたが、当時はMIGHTY CROWNとも1度クラッシュになりましたよね?今だから語れる当時のエピソードを話していただけたら幸いです。

DESEM:いつのどの話だろう(笑)…ちょっとわかんない。

 

HDM:えっと、98年に当時の CLUB 24で行われた『UPLIFTMENT ’98』(※1)ですね。10年前にSTRIVEのインタビューを受けた時にTELA-Cさんが言ってましたよ(笑)。

DESEM:ハハハ、そこか。あの時はお客さんから相当にヤジられたよ…やり抜いたけど(笑)。ダンス終わって(MASTA)SIMON君に「クラッシュと普段のダンスは別物だからね、そこよくわかった方がいいよ」って言われて、ギャラまで貰った。「畜生!MIGHTY CROWNデカイぜ~」って思った記憶がある。もう20年近く前か…そんなこともあったね。

 

 

(※1)90年代に行われたMIGHTY CROWN主催のパーティで、INFINITY 16はいきなり地元横浜の先輩に当たるMIGHTY CROWNにクラッシュを仕掛け、対するMIGHTY CROWN側もそれを受けて立った、という経緯がある。

 

HDM:INFINITY 16といえば、自分の青春のスターでもあります。国内の大きなクラッシュにはいつも参戦してたけど、ずっと勝てなくて、「万年2位」って言われ続けて。でも『衝撃2004』(※2)で悲願の初優勝を遂げた時は、みんながそのドラマを共有してたから、国内のシーンがすごく盛り上がって…。今、あの時のことを思い出してどう感じますか?

DESEM:楽しかったね。1度限りのドラマがあった。挑戦することの面白さとかキツさはあそこで学んだかもね。今となってはいい思い出で、いい経験だよ。

 

(※2)INFINITY 16が「万年2位」から脱した、ターニングポイントとなったクラッシュ。テツ&トモ(懐かしい…)など、まさに“衝撃”の飛び道具的ダブを繰り出し、見事優勝。この年の暮れに自身のサウンドシステムを完成させ、翌2005年はサウンドシステムを伴っての全国ツアーを敢行。シーンに置ける地位を不動のものとする。

 

HDM:そして、INFINITY 16といえば2007年、今からちょうど10年前に、NYで開催された『GARRISON SHOWDOWN』(※3)で初の世界タイトルを手にしました。あの時、何を思いましたか?

DESEM:夢を叶えた瞬間だった。人生初の世界戦トロフィーだからね、そりゃ嬉しかったよ…。同時に終わりと始まり、やり遂げた感覚と新たに何か始まる感覚の境目にいた気がするね。

 

 

(※3)NYで行われたサウンドクラッシュ世界戦。ジャマイカより大御所BLACK KATなどもエントリーした。INFINITY 16は初出場ながらTUNE FI TUNE(最後に行われる1曲ずつのかけ合い)まで残り、BLACK KATを下し、見事初の世界タイトルを手中に収める。

 

HDM:『GARRISON SHOWDOWN』以降のINFINITY 16の2人は本当に対照的ですよね。TELA-Cさんは“INFINITY 16”の名を背負って、引き続きサウンド活動を続けるけども、クラッシュに関しては一切封印しちゃって。プライベートでは芸能人との結婚とかもありで。逆にDESEMさんは“YARD BEAT”を立ち上げて、さらに海外でもクラッシュをやりまくって、どんどんどんどんハードコアな方向に突き進んでいった。これはどうしてこんな風になったんでしょうか?

DESEM:好み、ライフスタイル、ビジネススタイルの違いじゃないかな。世の中にはいろんな人がいて、考え方や好み、スタイルも人それぞれ。ひとつじゃないでしょ?それはそれでいいと思うよ。そもそも、それが無きゃ「スタイル」って言葉さえも無いかもだしね。けど、自分がするかはまた別だね。

 

HDM:今年2017年はYARD BEAT結成10周年の記念すべき年であり、先日ジャマイカで行われた世界戦、『BOOM CLASH』(※4)でも、ファイナルでBASS ODYSSEYを下しトロフィーを勝ち取ったダブルでめでたい年でもあります。アジア人のレゲエサウンドが“聖地”ジャマイカで世界タイトルを手にしたのは、MIGHTY CROWNに続き2組目!まごうことなき快挙!今のお気持ちを教えていただけますか?

DESEM:ありがとうございます。これは本当に嬉しいよ。めちゃくちゃ嬉しい!実際には4回のタイマン勝負をしてたわけで、1戦1戦が後のない状況だった。負けたら終わりだし、勝ち抜けば勝ち抜くほど次戦までの準備期間が狭くなる崖っぷち的なね。これはヤバかったよ(笑)。だから自分達の中では全てが決勝で、1戦1戦が優勝と同じくらいの気持ちだった。

 

 

(※4)ジャマイカの有名なエナジードリンク『BOOM』(向こうのRED BULLみたいなもの)主催により数年前より現地で開催されているサウンドクラッシュ世界戦。昨年度は“若手筆頭”の呼び声高い尼崎のEMPEROR SOUNDもエントリーし、善戦。彼らの名を一気に全国区にしたクラッシュとしても日本ではお馴染み。ジャマイカは言わずと知れた“レゲエの聖地”であるが、それゆえ観客のプライドの高さも他を凌駕し、外国人サウンドが、かの地でトロフィーを掴むなど至難の技だと言われている(だからこの勝利は本当に凄いこと!)。ちなみに当日はジャマイカ首相もクラッシュを観戦しに来ており、優勝したYARD BEATに“CONGRATULATIONS!”と声を掛ける一幕も。

 

HDM:そして『BOOM CLASH』の後は、ジャマイカを代表するレゲエフェス『SUMFEST』にも出演され、同イベント初となるサウンドクラッシュに参戦されましたよね。日本のサウンドが『SUMFEST』の檜舞台に登場し、同じく日本のアーティストである(現在ジャマイカでボスしてる)RANKIN PUMPKINのダブをかける、というのは感動的ですらありました。惜しくも敗れはしましたが、何かエピソードあればお願いします。

DESEM:『SUMFEST』に日本のサウンドとして初めて出演できたことを誇りに思います。SUMFEST 25周年、そして初クラッシュということだったので、しっかりパフォーマンスをしようと思って挑みました。残念なことにクラッシュのオーガナイズがしっかりされてなくて残念な部分もありますけど、楽しかったです。順当なら準優勝以上でしたが…。ただ、しっかり俺らの爪痕は残してきましたよ。

 

 

※この“疑惑の判定”については、先日アップされたDESEM自身のブログに詳しく掲載

 

HDM:日本人サウンドマンで、ジャマイカやNYに移住し活動する人も随分増えましたが、DESEMさんの目から見てどう思いますか?良い面と悪い面、あれば両方聞かせてください。

DESEM:凄いと思います。シンプルに「お互い頑張ろうぜ」と思ってます。海外(世界各国)でやるのは本当に大変。その分、楽しいことや勉強になることも凄く多いけどね、個人的には。沢山の人と好きな音楽を通して、知り会えて、話して、時間を共有して、そこは自分の宝になってるよ。音楽のデカさと凄さをガチで実感する。悪い面というか、難しいのは、海外のブッキングは日本より倍遅い。海外のオファー受けてくと、日本でなかなか出演できなくなるから、そこはキツいね。移住するだけなら、時間とお金があれば誰でもできます。大事なのは、「そこで時間をどう使ってどう動くか」かもね。…っていつも自分にも言い聞かせてます。深いよ(笑)。

 

HDM:あと、ちょっとこれを聞きたかったんですけど、何かYARD BEATは「ダブ録りの秘訣」とかってあるんですか?ていうのも、例えば、ロングタイムでやってるベテランサウンドが「お前らみたいなガキじゃ絶対かけれないチューンだ!」とか言って、デッドアーティストのダブをかけて若いサウンドを潰す、って定番の戦術じゃないですか。でも、僕はそれは何か「お前ら長くやってりゃそれでいいと思うなよ」って感じる面もあるんです。何か卑怯くせえっていうか。それを思うと、INFINITY 16の頃は例えばDENNIS BROWNだったり、数々のデッドアーティストのダブがあったにも関わらず、それを捨てて、新たに全部ダブを録り直して、それでここまでクラッシュに勝ってるって、単純に凄いことだなと思うんですよね。

DESEM:秘訣かぁ…なんだろうね。「こうしたら面白い」とか、「こういうネタのダブ欲しい」とか、全部はメンバーで想像することから始まるかな。想像したことをアーティストの力を借りて実際に形にしてく作業だね。アーティストがリリック見て「プププッ」って笑う時があるんだけど、嬉しいよね。ダブは楽しいよ、替え歌だけど韻は残したりさ。楽しんでやれたら尚更いいダブができる。まあ、亡くなったアーティストのダブを持ってる持ってないはどうにもなんないからね~。それ以上にその場で説得力あることするしかないよ、現実的に。あと、個人的に言うと、YARD BEATになって同曲やダブを「録り直した」っていう感覚よりも、「無いから録った」っていう感じだよ。ただ、自分が培ってきた経験は生かしたかもね。

 

HDM:サウンドクラッシュはとてもハードなゲームだと思います。浮き沈みはもちろんありますが、モチベーションを保つ秘訣とは?

DESEM:そうだね、ハードな世界だね。タフじゃないと続けられないよ。精神的にも、そのサウンドのボックスの深さ的にも。クラッシュはやるのと観るのはだいぶ違いますから、やりたくてやってみて、負けて辞める、みたいなヤツらはマジで多い。これは何戦か経験すると違う感覚になるんだけど、なかなか楽しむとこまでいけないよね。「マジだけど楽しむ」みたいな。両極端な話だけど、これは単純に頭を使う音楽ゲームなんだよね。準備を楽しんで、ステージも楽しめばいいわけで。勝敗はその後の話。日本ではある程度名前が全国に知れると、安定期に入ってクラッシュやらないのが一般的(?)ですけど、みんないいダブ持ってるんだから、いっぱいやればいいんだよね。あとクラッシュプロモーターも沢山いればいいね。みんな「たまに負けるしたまに勝つ」。海外じゃそれが当たり前の“合言葉”になってますよ!

 

HDM:DESEMさんの口からそういう言葉が出ると重みがちがいますね。何かジーンときました…。これもどうしても聞きたかったんですが、YARD BEATが再び日本国内でクラッシュをするところを見たいファンも大勢います。今、日本で倒したいサウンドは誰でしょうか?ここあれでしたら実際の原稿では伏せ字にするんで、ちょっとね、正直な気持ちをお聞かせ願えたら…(笑)。

DESEM:正直、日本で倒したいサウンドはひとつもいません。ディスじゃないよ。今はそれ以上に世界中のヤツらにもっともっと俺らのヤバさをわからせたい。「日本にはヤベーサウンドがいっぱいいんだぜー!」って。最近海外戦のトロフィーが日本のトロフィーの数を超えたから、そろそろ日本の新しいトロフィー欲しいけどね。…てか、みんなこう言って欲しいんでしょ?「MIGHTY CROWN」って(笑)。倒したい云々は別として、あったら面白いだろうね。

 

HDM:なぜ今までMIGHTY CROWNとのクラッシュが実現しなかったのでしょうか?

DESEM:なんでだろうね、実現できるプロモーターがいないからじゃないかな。

 

HDM:もしそれが実現したら、国内、いや、世界のシーンも揺るがす“夢の対決”になると思います!意気込みなど是非お願いします!

DESEM:うーん、別に俺もそこに固執して無いからなぁ…あればあるし、無ければ無いよ(笑)。

 

HDM:今日は本当にありがとうございました!最後に、DESEMさんにとって、YARD BEATに取って“サウンドクラッシュ”とは?

DESEM:なんだろうね、“音殺しの仕事”かな(笑)。楽しいよ!

 

EVENT INFORMATION

YARD BEAT|“サウンドクラッシュ”は頭を使う音楽ゲーム

『SUPA JAM -EEK A MOUSE JAPAN TOUR-』

日程:2017年9月15日(金)
場所:ExBodega Yokohama
出演:EEK A MOUSE(JAMAICA) / YARD BEAT with HOLY BOX
※YARD BEAT日本凱旋初ダンス

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