16FLIP|「結局は上手さってカッコよさに勝てない それが大前提」

16FLIP|「結局は上手さってカッコよさに勝てない それが大前提」

interview by BUNDAI YAMADA photo by BANRI KOBAYASHI

16FLIPがBESのサードアルバム『THE KISS OF LIFE』をフルにリミックスした新作(“16FLIP vs BES”名義)『The Definition of This Word』がリリースされた。BESの新しい音源が投下されるのはいつだってニュースだ。それを16FLIPが全曲手掛けたとあれば尚更だろう。変わらぬスタンスでヒップホップの粋を極める2人による興奮を禁じ得ない1枚。若い世代、日本のヒップホップビギナーにこそ聴いて欲しい。

 

 

HDM:ド頭から結論のような話ですが、この作品でアーティスト“16FLIP”が伝えたかったことはなんだと思いますか?

16FLIP:まあ、「BESのラップはヤベエぞ」っていう。それですね。

 

HDM:いきなり核心ですね。今回の作品はどういう流れから作ることになったのですか?

16FLIP:今回はBESに「全曲リミックスアルバム作ってよ」という話をもらって作った感じですね。

 

HDM:そういうときって「このときが来たか!」みたいな気持ちってあったりするんですか?

16FLIP:特にそういう感じではなかったですね。普通に「やります!」って感じでした。

 

HDM:とはいえ、アルバム1枚をリミックスするのは、やはりそれなりの労力を要する作業だと思いますし、“BESだから受けた”話だと想像しました。

16FLIP:もちろん、それはあります。今まではアルバム用にビートを欲しいとBESに言われたことはあっても、1枚丸々ではなく、その都度ビートを使ってもらうという感じだったので、面白そうだなと。

 

HDM:何よりまず音源としてのクオリティが高い。それは、スキルを持つ者同士がやっているから当然…というよりは、根底の部分で2人に通じるものが大きいからという気がしました。いきなりさかのぼりますが、そもそも2人はいつからの付き合いなのですか?

16FLIP:どのくらい前か正確にはわかんないけど、多分10年くらい前な気がしますね。俺がまだDOWN NORTH CAMP(以下DNC)に入る前くらいだったかもしれないです。BESも自分たちもCDをリリースしてない、まだ東京のクラブだけでライブをやっていたような頃でしたね。DNCの他のメンバーが仲良くしていて、「SWANKY(SWIPE)ってスゲエラップがカッコいい人がいる」って紹介してもらったのかな。

 

HDM:その頃からBESさんのラップって印象に残りました?

16FLIP:超強烈に印象に残りましたね。これがフロウなんだって。

 

HDM:これがフロウなんだ…というのは、BESさんのラップの第一印象として極めて象徴的な気がします。BESさん以前には感じられないものがそこにあったというか。

16FLIP:そのときはSWANKY SWIPEなんで、俺にとってはBESとEISHINのダブルですね。ただ、気持ち的にはその通りです。

 

HDM:自分もBESさんのラップで耳が開かれた部分はあるので、そのファーストインパクトはよく理解できます。その上であえて伺いたいのですが、では“フロウの魅力”とは突き詰めるとなんだと思いますか?

16FLIP:魅力は単純に優れたフロウは聴いてて気持ちいいっていうのもあると思うし、言葉の意味より自分は先にフロウで体が動きます。人の声も楽器だから声とリズムを使った演奏に近いのかなとも思います。あとはビートの上で自分のグルーヴと合体させてノラせる遊びというか、ラッパー皆それぞれ違うフロウを持っていて、同じビートでもどんなフロウが乗るかによって聴こえが変わってきたりするのが面白いと思いますね。自分は海外のヒップホップと日本人がやってるラップってリズムの取り方が全然違うなとずっと思っていて、それって結局その人が持ってるリズム感でしかないなと思ったんですよ。SWANKYを聴いて「これがフロウだ」と思ったのは、要するにリズム感がクールだなと感じたってことだと思います。USのラップを聴いたときに感じてた滑らかさとか、まだ余りやってなかった音節の作り方とか、当時日本人のラップで明確に2人が1番進んでたと思います。あとビートメイカーでいうと、BACH LOGICとBUDAMUNKが聴いた瞬間グルーヴを感じさせてくれました。この2人の音楽を聴いたのも自分にとってでかかった。

 

HDM:なるほど。今、USのラップを聴いていたときにフロウの魅力は感じていた……という話が出ましたが、では、16FLIPが最初にその魅力に気付いたUSのアーティストって誰だったりするんですか?

16FLIP:それはかなりいます。いろんな影響を受けているので挙げたらキリがないんですけど、1番最初はBoot Camp Clickですね。

 

HDM:おお~、そうなんですね。もう遥か昔になりますが、BESさんに同じような質問をしたことがあるんです。それこそあのフロウの秘密に迫りたくて、1番影響を受けたアーティストは誰ですかと。そのとき、BESさんは即答で「ブーキャン(Boot Camp Click)ですね」と答えたんです。ブーキャンだけは特別だと。

16FLIP:言いそうですね(笑)。そこのフィーリングも多分最初から合ったと思います。お互いにブーキャン好き同士のヤツらだったと思いますね。前よりは後ろに引っ張り気味なところとか。俺、覚えてるんですけど、club bedでBESと仙人掌と俺でDJがかけてる曲に合わせてフロアかなんかでフリースタイルしてる時があって、Black Moonの『I Got Cha Open』がかかってたんですけど、ちょうどその曲でBESがフリースタイルしてる時パッとBuckshotのラップのフレーズの部分に同じフロウを日本語で被せたりして、センスいいなと感じたのを覚えてます。

 

 

HDM:出会ってから15年近い月日の中で、今この形でつながって、BESさんのラップをリミックスする作業で新たに、そして改めて気付いたことってありますか?

16FLIP:まず何より、フロウの良さを再確認できましたね。

 

HDM:フロウ、グルーヴときて、テンションも新しいキーワードです。

16FLIP:簡単にいうと日本人とアメリカ人でいえば、アメリカ人の方がテンションが高いと思うんです。例えば英会話の先生が「ハーイ、エビバディ」みたいな。その時点で高い。そういう意味においてBESのラップは元々のテンションが高いというか。そこがグルーヴにつながるんです。要はノリがある人というか。ノリがある人はテンションをある程度持っているんですよね。そのラッパーがどういうビートが好きなのかを聞かせてもらうと、それによって単純な好み以外にも、どういうビートが合う合わないみたいなことまでいろいろわかるものなんですけど、BESはテンションが高いビートが似合うラッパーです。

 

HDM:ただ、多分…ですが、16FLIP vs BES名義による今度の新作『The Definition of This Word』を聴いても、コアなヘッズはさておき、普通の人は最初に「テンションが高い作品ですね!」という感想は出ないと思うんです。もちろん聴いているうちに、その意味に気付くことはあると思いますが。だとしたら、その認識のズレってなんだと思いますか?僕個人でいえば恐らく大抵の日本人はメッセージ性だったり、リズムに対してオンタイムなもの、前のめりなものに対して「テンションが高い」と感じていて、その違いかなと推測しているのですが…。

16FLIP:言っていることはわかります。それは日本人がノリやグルーヴに対して鈍いというか、特に感じることなく生活しているとか、多分そういう違いはあると思いますね。だからテンションが高いという言葉から、前のめりな感じだったり熱さだったり力強いことを連想するかもしれないですけど、俺の言うテンションは表面的なというか、言葉に限ったものではないんですよね。だからラッパーにしても、楽器としての…という面もあるのかもしれないです。BESは楽器としてテンション高いのかもしれない。だからテンションは、もちろんビートメイカーにもあるわけです。大人しくてもテンションは高いというか、音楽をやり始めたらリアルにこいつはテンションが高いと思えるかどうかの部分というか。普段静かとかよく喋るとかそういうことではなくて、もっとかもし出される部分という感じなんです。

 

HDM:つまりロウな表現でも、同時にそれがテンションが高い表現はありえるということですよね。

16FLIP:そうですね。だから誰と誰が曲をやるとか、そういった点まで含めてテンションは重要です。テンションが近い同士でも良い曲が生まれるし、低い人と高い人で合うときもある。もちろんテンションが違うから客演しててもダメだと感じる曲もあります。それは日本に限らず外国人の楽曲にも感じることもありますね。日本で言えば、BESとSEEDAはテンションが近いという感じです。なので2人が一緒にやると良い曲ができるのはすぐに想像できる。仙人掌もそうですね。

 

 

HDM:そのテンションの高いBESのラップを丸々1枚聴かせるリミックス作品…というのは、考えてみると随分ハードルが高い制作な気がします。プレッシャーや生みの苦しみもありましたか?

16FLIP:生みの苦しみはないですね。アカペラだけでもガンガン乗っちゃいますって感じでした。「ヤベエぞ、BES!これ、俺がやってもいいの?」って、「最高~!」みたいな(笑)。その気持ちで最後まで作れました。

 

HDM:それこそ16FLIPさんの作業のそのテンションが、BESさんと噛み合ったからこそのクオリティの高さと言えそうですね。最後に、これまでの文脈とは違うフェイズの話ですが、BESさんの特異性であり突出しているところは、スキルやフロウ、グルーヴのオリジナリティだけでなく、リリックそのものの強さにもあると思います。BESの凄さ、唯一無二のラップスキルは、類い稀なリリシストだから…とも言えるのではないかというか。究極、言葉が凄い。

16FLIP:俺も思ったのは、声が強いとかテンションが高いとかもありますけど、「この人って言いたいことがマジあるんだな」って。そういうことを感じました。そうじゃなきゃこういう熱量は生まれないと思うので、はい。ちょっと言いたいとかじゃなくて、吐き出してる感じがありますね。

 

HDM:BESにはまさに言いたいこと、ラップしたいことがあるんですよね。当たり前といえば当たり前ですが、それがあるかないかで、ラップのカッコ良さはまったく違う。

16FLIP:本人もそういう考えで今やっていると思いますね。タカさん自身、他のインタビューでも「フロウより言いたいことを優先している」と言っていました。「俺は難しいフロウをしなくなった」って。確かに聴いていても、昔よりも難しいフロウの数が減ったというのはわかります。そういう意味で言葉がより刺さるようになった。ポジティブなことを言いたいとか歌いたいとか、そういうことを話していたりもしましたね。

 

HDM:凄く納得できますね。確かにキレキレの神懸かったフロウは鳴りを潜めましたが、それはまったく音楽のクオリティ的にも悪いことではない。現在のBESのリアリティーには今のフロウがハマっていて、それが何よりカッコいいんですよね。

16FLIP:俺が思うのは、俺とかBESさんはこれだけスキルスキル、フロウフロウっとかって言ってるけど、結局は上手さってカッコよさに勝てないんですよね。それが大前提にあるから上手いだけだと惹かれないし、下手でもカッコいい方が良いと思ってしまう。上手くてカッコいいのがもちろん1番良いけど、上手いだけなら良くない。究極ダサくてもカッコいい方がいい。そういう変な表現になってしまうけど、ヒップホップはそういうもんだと思いますね。

 

HDM:いや完璧な表現だと思います。無二のアーティストBESの“現在”を、16FLIPがリミックスすることの必然性を見事に言い表した言葉だと思います。今日はありがとうございました!

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