Minchanbaby|心の底にある黒い感情をこれまでになく吐き出したアルバム

Minchanbaby|心の底にある黒い感情をこれまでになく吐き出したアルバム

interview by HIROYUKI ICHINOKI

自己嫌悪やイケてない日常をやり過ごせるうちはなんとかなっても、現実に押しつぶされ闇が大きくなればなるほど、それもままならない…。MINT改めMinchanbaby約5年ぶりのサードアルバム『たぶん絶対』は、ネガティヴな感情を強烈に作品へと落としこんでいる。全編、粗悪ビーツによるダークなトラップのビートに背中を押された本作は、その音や端々にある彼らしいユーモア、ライミングの遊びなども含め、いち音楽として楽しめることがもちろん前提だし、そう聴いて全然オッケーだと思う。だけど、自分はそれを作った彼自身のことが気になったし、アルバムに描かれた世界がまんざら他人事や単なるネタとも思えなかった。妄想で自らをつなぎとめたファースト『after school makin’ love』、黒ギャルアイドルラッパーのキャラをかぶり現実をやり過ごしたセカンド『ミンちゃん』を経て、絶望の果てに死の影すらのぞく『たぶん絶対』を作った彼の今とは。

 

 

HDM:『たぶん絶対』は、前作『ミンちゃん』とだいぶカラーの違うものになりましたね。前作からの5年あまりはどんな感じでした?

Minchanbaby:一言で言うならいい5年ではなかったというか。前作は結構カラフルなアルバムだったので、正直もうちょっと売れると思ったんですよ。でも、そこまで広がらなくてモヤモヤした感じがあったし、ファーストアルバム出して以降、7、8年ずっと使ってたスタジオが使えなくなったのもおっきい変化で、プライべートの方でも病気やらいろいろあって、暗黒面に落ちたというか、その暗黒面が居心地いいから自分からそっちに行って、「俺、ダークサイドで頑張っていきます」みたいな感じかなーと(笑)。

 

HDM:その間にご自身の環境なり何なりで変わったこともあったんですか?

Minchanbaby:実家じゃなくなったのも大きいっすかね。で、出会いもあり別れもあり、1人になって。

 

HDM:そうなんですか。じゃあ生活も当然変わりますよね。

Minchanbaby:元々友達と遊んだりしないタイプで、クラブとかも全然行かなくなったし、歳をとるごとにより人付き合いがしんどくなってきて、仕事も今100%完全ワンオペの人と顔を合わさない仕事に行き着いたんですよね。粗悪(ビーツ)さんとの制作とかアルバムのためのいろんなお話もメールだったりラインだったりで、「ラッパーやってます」って良さそうに聞こえますけど、本名の方の自分はほんま底辺ですから。となれば、人間としての健全な環境づくりはMinchanbabyルートでないと無理で(笑)。

 

HDM:音楽以外でやってたようなこととかも特になかったんですか?

Minchanbaby:ないんですよ。たまにプールに泳ぎに行ったりするぐらいで、特にこの5年間はライブもなければ服もほとんど買わなくなっちゃいましたし、実家出るときにテレビなしの生活にしちゃったんで、5年ぐらい見てないです。ただ、家事はめちゃくちゃ好きなんで、「普段どうしてるんですか?」って聞かれたら、「生活してます」みたいな(笑)。

 

HDM:逆にいえば、今回の『たぶん絶対』はそういう環境が作らせたアルバムなのかもしれないですね。

Minchanbaby:そうかもわかんないですね。甘える環境ではない、甘える相手がいない、孤独な自分の中にあるそのままを出すしかない、それしか書けないっていう。5年の間には相当しんどかった時期があって、友達に冗談めかして「死にたい」みたいな会話したこともあったんすけど、それも曲にしちゃえばエエやん、人が聴いて嫌な思いをするような気持ちもカッコよく曲にして、勝手に解釈して楽しんでもらう方がいんじゃないのって、そういう変化はありましたね。

 

HDM:たしかに、前作は現実のままならなさもネタとして消化する余裕があったけど、本作は聴き進めるごとに現実の色が濃くなってて。もちろんリリックの落としこみ方やラップは変わらず独特だし、ユーモアもあるんですけどね。

Minchanbaby:ああ、(前作は)おそらくモヤモヤ思ってたのを持ちつつもこういう音を出すっていう感じで、知ってる人からしたら“やけくそ感”だったり、“逆に”だったりする感じだったのが、今はそこが結構“イコール”になって、まっすぐ出した感じはありますからね。

 

HDM:そこは粗悪さんのビートに引き寄せられたところもあったんですか?

Minchanbaby:粗悪さんのビートが自分のモヤモヤとか心の底にある黒い感情を乗せるにはぴったりだったっていうのもあります。あのビートに楽しい、「ワーイ」だけの曲みたいなのは違うと思ったし、まあ自分からああいう音に寄っていったんでしょうね。粗悪さんもそれに応えてくれるいいビートを作ってくれて、統一されたトーンの中でいろいろ幅をつけさしてもらいました。

 

HDM:こうして話聞くと、なおさらご自身と重ねて曲を聴いちゃうんですけど、実際どこまでが現実の話なんですか?

Minchanbaby:完全な作りもんか、完全なドキュメントかの0か100ではないですね。俺、100%ドキュメントの曲でライブの前列の方が泣いてて、後ろの方がポカンとしてるみたいなの嫌いなんですよ。だから100%ドキュメントでは書けないし、かといって100%作り話でもやっぱり自分から離れた曲になるんで、現実を元にふくらましたり脚色したりしつつ。例えば、『エンジのアプリオ』にしてもおそらくわかってはると思うんですけど、原付事故当時の某芸能人にシンパシーを覚えて、自分を乗り移して曲にしてみたりとか。でも、ビートにどうラップを乗せるかとかも含め、曲としてカッコよく作ることは絶対無視できなくて。

 

 

HDM:内容以前にまずは曲としてカッコいいものってことですね。そういう意識と『たぶん絶対』というアルバムタイトルには何らかの関わりがあります?

Minchanbaby:単純にフレーズとしてめっちゃカッコいいなと。真逆のことじゃないですか、凄い曖昧な「たぶん」と、めっちゃ固い「絶対」って。またそれが作り話とドキュメントをごちゃ混ぜでできてる自分も表現してるのかなって。それでアルバムのタイトルにしようって先に決めてたんですよ。

 

HDM:なるほど。それぞれの曲はどうやって書き進めていったんですか?

Minchanbaby:最近はビートに合うフレーズだけをバッと集めといて、いざファーストヴァースを書き終えて最初思ってたのとは全然違うってなっても、まあいいやん、セカンドヴァース書こう、フックも作りました、じゃあタイトルどうしよう、ぐらいの感じなんすよ。だから決め打ちの一本道みたいなんじゃなくて、自分の中から出てくるものに任せちゃって、出てきたものを整理していこうっていう。その分、テーマが何なのかよくわかんない、わけのわからん曲ができてるっぽいです(笑)。

 

HDM:ハハハ。今回でいえば『蛇田ニョロ』とかですね。

Minchanbaby:ヴァースの中ではなんとなくストーリーがあるのはわかる、でもなんの曲なん?っていう。それもおもしろいかなってこのアルバム作ってる時に変わって。

 

HDM:ただ、実体験じゃないものがあるにせよ、前作のようにあからさまな別人格の設定が示されない分リアルなものが多くて、個人的には身につまされるところもあって。

Minchanbaby:今回のアルバムは制作順に曲が並んでるんですけど、頭の4曲と5曲目の間は期間も空いてるんですね。結果、そこでトーンがより暗くなったと思うし…いわゆる“本名の方の自分”がそのあたりでもう詰んでるので。ようこの例えを出すんですけど、本名で婚活サイトに登録した場合、おそらく登録もしてくれないんじゃないかぐらいのプロフィールだと思うんですよ。「こんなんじゃ誰も検索に引っかかりませんよ」と。「年収だけでもウソつきましょか?」とかね(笑)。だからラップが辞められないんですよね。

 

HDM:今回のアルバムもその裏返しってことですよね。

Minchanbaby:生きる意味までと言っちゃうとカッコ良過ぎるけど、本当に切実というか、追いこまれた意味で自分にはラップしかないんです。

 

HDM:わかります。今回のアルバムは特にそれを感じました。

Minchanbaby:結局、俺ってこういうラッパーなんだと思うんですよね。前のアルバムはちょっと背伸びしてつま先にグーっと力入りすぎてたり、どう見られようか、どう見て欲しいか、どうしたら売れる風をとらえやすいかとか、その辺をごちゃごちゃ考えすぎてた。普段着いへん色のTシャツを選んで着てるみたいにカラフルでおもしろいアルバムではあるけど、沁みてこなかった。今回はきっちり韻踏みつつ、新しいフロウとかビートのアプローチに挑戦しつつ、自分の中をさらけ出しました。

 

HDM:アルバム最後に収められた『NISHIVI』がまさにそうですよね。内容が沁みるって意味でもそうだし、メロディを絡めたスタイルへの挑戦っていう意味でも。

Minchanbaby:最後の1曲用にそれまでの9曲と全然違う曲にしたかったから、粗悪さんにも「ちょっとこれ挑戦してみますわ。そして歌ってみます」みたいな。そこは単純にスポーツ的なノリかもしんないですね。このハードル頑張って越えれるようにやってみたいって。

 

HDM:この曲の「死ぬのが前提それよりLet’s Get チェリーパイ食べてみたい あの1枚焼き上がるまで生きてきたい」っていうラインは、アルバムのささやかな救いとしてもすごく刺さる1行ですよね。でも、実際そんなもんだと思うんですよ、普通に生きてても。

Minchanbaby:『NISHIVI』も雰囲気だけは明るいような気はするけど、中身はもう落ちちゃってるもんやから、締めも後味悪くなっちゃうんだろうなあと思ってたんですよね。そしたら、意外とあそこで「落ちたらアカンで」って下に網張ってありましたとか、屋根の上にドンと落ちて怪我ですみましたみたいな感じなのか、ツイッターとかでも「たしかに暗いしネガティヴだけど希望を感じた」っていう感想をちらちら見るんです。「逆にポジティヴちゃうん?」とか。

 

HDM:じゃあご自身としてはそういう救いのつもりで曲を書いたわけではない?

Minchanbaby:そうですね。いい曲だし、自分でもリピートして聴けちゃうぐらい好きですけど、みなさんが希望を感じたっていうのを聞いて、逆に「ああ、そうなんや」って俺にちょっと光差した感じがあったし、全く予想してなかった返りなんで、驚いたのと嬉しいとので。

 

HDM:意外ですね。ともあれ、いちファンとしてこのアルバムの続きが見てみたいし、次につながるなんらかのキッカケになったらいいなあと。ご自身にとっても、このアルバムで初めて知ったような人にとっても。

Minchanbaby:そうですね。実質作り始めてまる3年ちょっと、その分は出し切ったので、それこそツイートの話もそうですけど、評価していただけることが死ねない理由をひとつ増やしていくというか、ひと月先のライブが決まればその間死ねないし、客演録って「年明けぐらいに出ますよ」と言われたらそれまで延命できるし(笑)。カッコいいヴァース書いてもらおうとか、ライブのオファーしてみようとかでいいんで、そういうのでみなさんと繋がれればいいなあっていう。責任感は強い方なので、音楽を通じて責任を背負いたいなっていう気もありますし。

 

HDM:今後はTENG GANG STARRのなかむらみなみさんとのユニット「ふたりのテロリズム」の動きもありそうですが、それ含めこれからのことを聞かせてもらえれば。

Minchanbaby:元々、TENG GANG STARRは『No Mercy』のビデオで気になってたんです。そんな中、女の子2人を呼ぶ曲を書いてたんですけど、それでいい女の子いないかなと思った時に、なかむらみなみちゃんを思い出して、(一緒に)曲やってみたら「この子、凄い」と。おそらく彼女は笑って死ぬタイプだし、200%ぐらいの力で生きてる子やと思うので、性格とか考え方も全く違うんですけど、自分にはないタレント性みたいなのを感じるし、凄くまぶしく光るものがあるんで、「ユニットとかやりませんか?」って言ったら、「やりますやります」みたいな。で、今EPを作ってて。曲調、ビートのチョイスは『たぶん絶対』と似ててダークなものになると思います。あとは、今どこかに所属したいって気持ちもあって。クルーとかのゆるいコレクティヴ的な繋がりでもいいし、「ウチのレーベルでどうですか?」とか話あれば聞きたいなとも思ってますね。ライブのオファーもまだゼロなんでよろしくお願いします。

RELEASE INFORMATION

Minchanbaby|心の底にある黒い感情をこれまでになく吐き出したアルバム

Minchanbaby / たぶん絶対
粗悪興行
SOAKU-1
2000円(税別)
2017年9月6日発売

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