GENKI|レゲエシーンに新たなアプローチを仕掛ける若きオーガナイザー

interview by SEIRA YONAMINE

 

2016年よりMadMove Entertainmantというクルーを立ち上げ、24歳という若さでツアーオーガナイザーを始め、およそ1年半の間に、Stylo G、General Levy、Anthony B、Bugle、Etana、Baby Chamら外タレを日本に招聘しツアーを行うなど、これまでに前例のない“ムーヴメント”を作り上げている。アーティストでもサウンドでもない彼が新時代を担うキーマンだということは、現在のレゲエシーンにいる人間なら勘付いている人も大勢いるだろう。彼が仕掛けるアプローチが今後のシーンにどう影響するのか?兎にも角にも、いつの時代も“ムーヴメント”を起こすのは若者だ。

 

 

HDM:オーガナイザーって凄く特殊な仕事だと思うんですけど、やろうと思ったキッカケは?

GENKI:僕はもともと10代の頃にセレクターをやっていたんで、若いなりにサウンドでワールドクラッシュを目標に海外に行ったんです。ダブプレートを録ったりしながらたくさんのアーティストとリンクしていくうちに、「もっと彼等と密に仕事がしたい」って思うようになって、「日本でツアーをやろう!」って思いついたんです。

 

HDM:そういう意気込みで日本に帰国してきたんですか?

GENKI:いや、日本に帰国したときは「さて、明日からどうしようかな」みたいな感じでした(笑)。向こうで仲良くなったアーティストの日本ツアーをしたいけど、契約書の書き方も分からないし、アーティストのケアの仕方も分からないし、とにかく“ノウハウ”がなかったんで。まず、「自分主催で企画をする」っていうことを今までやったことがなくて…。

 

HDM:え?っていうことは、海外アーティストの日本ツアーが初めての主催企画?いきなりレベル高くないですか(笑)。

GENKI:オーガナイザーとして初めての日本に招聘したアーティストは、ヨーロッパを始め世界で人気のアーティスト、Stylo Gっていうアーティストなんですけど、彼は僕がロンドンにいたときから仲良くて、「GENKI、早く俺を日本に連れてってくれよ」ってずっと言ってくれてたんです。自分にとってこの初ツアーが、「自分で何かをやる」キッカケになりました。

 

HDM:Stylo Gの初来日ツアーはかなり反響がありましたよね。

GENKI:日本滞在12日間のうち10日間、全国各地でライヴをおこなったですよ。本当にハードスケジュールでした。終わったあとはすごく達成感だったし、Stylo G本人も凄く喜んでいました。

 


Stylo G

 

HDM:海外からアーティストを招聘するには金銭的には勿論、ハイリスク・ローリターンなイメージですが。

GENKI:そのリスクを補うために、「どういう動きをするか?」というところを常に考えています。よく、外タレを呼んでるイベントで急にアーティストの来日が中止になったりってあるじゃないですか?あれって、やる側の人間がもっとしっかりビジネスとして成立させないといけないし、いくら仲が良かったとしても、ちゃんとビジネスとして割り切って契約書にサインしてもらわないと、そのアーティストも適当になって「来日中止」になったりすると思うんですよ。確かにハイリスク・ローリターンでもそこは最低限やらないとって思います。あとは、もうほんと自分の気持ちじゃないですかね(笑)。正直、やってて8割はしんどいことの方が多いけど、やったあとに「やらなければ良かった」って思ったことは一度もないです。

 

HDM:海外アーティストのツアーを始めるにあたり、一番不安だったことは?

GENKI:お金です(笑)。

 

HDM:ですよね(笑)。

GENKI:はい(笑)。常にお金のリスクとは隣合わせです。外タレじゃなくても、「イベントを主催する」人は共通の意識だと思います。

 

HDM:「オーガナイザー」って実際どんなことをしているんですか?

GENKI:僕がやってるのは簡単に例えると「中間管理職」みたいな感じです。アーティストと日本にいるクラブオーナーやプロモーターの間に入って、契約を交わしたり、ツアーに関してのスケジュールや細いことを全部まとめる役です。

 

HDM:これまでに、6人のアーティストの日本ツアーをおこなっていると思うんですけど、ツアーを成功させるための一番の要因って何でしょうか?

GENKI:そうですね…例えば、ヨーロッパでアーティストがショーをするとギャラが日本の約3倍くらいの値段で、ホテルなどもかなり高級だったりがスタンダードなんです。でも日本でショーをするとなると、今の日本のシーンを考えると、どうしてもギャラは勿論、集客や箱のキャパなど全体の規模が小さくなるんですよ。そこをアーティストにどう納得させるかだと思うんですよね。「日本に来て良かった」って思ってもらえるかが勝負っていうか。

 

HDM:そう思ってくれるようにするには?

GENKI:僕はイギリスに2年間住んだり、ジャマイカやニューヨークを何度も行き来して感じたことがあるんですけど、日本には他の国にはない良さがめっちゃあるんですよ。真面目で人に親切な国民性だったり、道や建物がきれいだったり、そういう日本の良い文化を体感してもらうこと。あとはやっぱり、レゲエというジャマイカ発祥の音楽がこんな遠く離れた小さな島に届き、それを好きな人がこんなにいるんだよ!っていうのをアーティストによく話します(笑)。

 


General Levy

 

HDM:なるほど(笑)。何事にもトラブルはつきものですが、海外アーティストとなるとトラブルも大変そうですよね。

GENKI:そうですね。2回目のツアーのときに、ツアー日程も全部決まっていて2日後には来日するアーティストが車上荒らしにあって、パスポートを盗まれた事件があって。すぐに再発行の手続きをしたんだけど、最短で3日かかって1日目の公演がダメになったことがありました。それに関しては、誰が悪いとかじゃなくて不可抗力だったので。

 

HDM:それって相当なアクシデントだと思うんですけど、落ち着いて話してますが(笑)、テンパらなかったんですか?

GENKI:いや、そのときはめっちゃテンパりましたよ(笑)。ツアー中はアクシデントだらけだけど、基本的には見せないようにしています。立ち位置的に僕がテンパったら全部が崩れるわけじゃないですか。予定していたことと違うことが起こるとやっぱりテンパりますけど、起きたことをどうこう言うより、起きたことをどう修正するかが大事なんですよ。

 

HDM:25歳とは思えないくらいコメントが落ち着いていますね(笑)。GENKI君は基本的にクレバーなイメージなので、テンパってる姿が想像できません…

GENKI:人に見えないところで「ヤッバ…」とか1人でブツブツ言ってます(笑)。

 

HDM:アハハ(笑)!

GENKI:電車の中に音源が全部入ったバッグを忘れたアーティストもいましたね…(苦笑)

 

HDM:それも相当真っ青エピソードですね…

GENKI:でも、絶対にアーティストの前では真っ青な顔は見せません。アーティストって日本での行動を全部を僕にゆだねてるわけじゃないですか。僕がテンパちゃうとアーティストはどうにもできないから、冷静に対応するようにしてます。そのときもすぐ荷物を探してもらって、急いで郵送で送ってもらい、なんとか無事ツアーを続行できました。内心、めっちゃムカついてたりしますけどね(笑)。まあ、向こうも人間だし、こっちもキツイスケジュール組んだりすることもあるから、チャラということで(笑)。

 


Anthony B

 

HDM:とんでもない注文をされたことはありますか?

GENKI:おもしろかったのが、某アーティストがショー終わりすぐに俺のところに近づいてきて、俺の耳元で「一番前にいる白いワンピースの子、めっちゃかわいいから後で探してきてくれ」って…ショー終わって一言目がそんなんとか(笑)。めちゃビッグアーティストだけど、やっぱり人間って欲深いなって思いましたね(笑)。僕とアーティストがダブセッションに行っている間に、マネージャーが売春婦につかまってたり…コンビニで購入前のジュースを勝手に開けようとしたり…もう文化も法律も違うから、トラブルは絶えません。

 

HDM:大変そうですね(笑)。ツアー中の公演がない日は何をやっているんですか?

GENKI:ダブ録りしたり、取材を受けたり、ラジオの収録したりとか。何かしら予定はあるので、完全にオフの日はほとんどないですね。あとは買い物に連れて行ったりとか。

 

HDM:どんな買い物するんですか?

GENKI:みんな服は必ず買いますね。あと電気屋さんとかに連れて行くとテンションめちゃめちゃアガります。Stylo Gは渋谷109のギャル男の店で爆買いしてました(笑)。ギャル男ファッションみたいなデザインが向こうにはあまりなくて、めずらしいみたいです。

 

HDM:みなさん日本を楽しんでるんですね(笑)。

GENKI:相当楽しんでると思います(笑)。

 

Bugle

 

HDM:ラスタ系アーティストのケアは結構デリケートじゃないですか?

GENKI:そうですね。まず食生活が違うから大変な部分はありますね。もちろん肉は食べないし、野菜もフレッシュなものしか食べないし。そういうアーティストは凄く落ち着いていますね。買い物も全然しません。それにそういうスマートなアーティストはまず荷物が少ないんですよ。機内持ち込み用サイズのキャリーバックひとつで来たりとか。

 

HDM:アーティストも人柄で様々なんですね。全員に共通してることってありますか?

GENKI:全員ギャルが大好きってことですね(笑)。

 

HDM:アハハ(笑)!そういうのも含め、日本でのツアーを受け入れてくれるのは、本当アーティストとGENKI君の関係性がしっかりしてるからこそですね。

GENKI:僕が呼ぶアーティストは、まず僕自身がファンでもあるんで、好きなアーティストを日本に連れてきて、「日本最高!」って思ってもらいたいのは当然だし、一緒にいるだけで楽しいですよ。

 

HDM:アーティストから見て、日本のレゲエシーンってどう思われてるんですか?

GENKI:アメリカとかヨーロッパに比べるとすごく小さい規模ではあるけど、日本のファンからは、「リスペクト」と「ラブ」が凄く伝わるって言ってくれますね。謙虚だし、こんな離れた島国でもレゲエが好きっていうのが伝わるし。それは今まで日本に呼んだアーティスト全員が言ってくれました。

 

HDM:日本のファンの人たちの気持ちがアーティストに伝わることは本当に嬉しいですね。

GENKI:日本にいると、本場のアーティストを生で見れる機会なんて滅多にないことで、そのキッカケを作って誰かの心に響いてくれたら嬉しいなって思っています。いくらネットが普及したからと言っても、やっぱり目と耳で感じたことがすべてだと僕は思っています。本質的部分のカルチャーに感化されて、日本独自の音楽シーンも出来上がりつつ、海外にも挑戦できるような感じになれればと思います。

 

Etana

 

HDM:「日本のシーンが海外と近いレベルになっていけばいい」と思うところで、具体的にどういうアプローチをすれば良いと思いますか?

GENKI:そもそもジャンル関係なく、海外に比べて日本は「音楽を楽しむ」っていう人口の割合が圧倒的に少ないと思うんですよね。クラブパーティーもそんなにないし、パーティーでの遊び方もそうだし。キッカケがないだけで、音楽は生きていく上で欠かせないものだと思うので、自分に合う音楽にたどり着くまでにいろんなキッカケがあれば良いと思うんですよ。そのキッカケが今の日本には少なすぎるっていう話で、そこが増えていけば何か変わるんじゃないのかなって思っています。そう思う中で僕が今やっていることは、僕がカッコいいと思うアーティストを日本に招聘して、生で見てもらうっていうこと。それが一番手っ取り早い方法だとも思っています。

 

HDM:自身の活動にモチベーションとなっているものは?

GENKI:人間の適応能力って本当に怖いですよね。本来なら自分のやっていることを当たり前にしちゃいけないと思うんですけど、経験すると知らないうちに慣れてくるじゃないですか。だからまた海外に行こうと思ったんです。知らないことに触れることがモチベーションにもなっているので、常に新しいことに挑戦していきたいですね。

 

HDM:何事も常に向上心ですね。最近一番受けた刺激は?

GENKI:最近だと日本語ヒップホップのムーヴメントだったり、少し前のジャマイカだとラスタリヴァイバルだったり、そういう何かしらの“ムーブメント”が起こる瞬間ってゆうのは、見ていて刺激になります。

 

HDM:でも、初主催ツアーから1年半の間に6人ものアーティストを招聘するって、これまでのレゲエシーンにおいて前例がありませんよね?あらためて凄いことだと思います。

GENKI:ぶっちゃけ自分の中では「オーガナイザー」っていう立ち位置がすべてじゃなくて、この1年半は僕が立ち上げたクルー「MadMove Entertainmant」の話題作りっていうところもありました。クルーには様々な人が所属していて、サウンド、セレクター、トラックメイカーやエンジニアもいて、ライターもいるし、そういう人間を全部巻き込んでやりたいなって思っています。せっかくアーティストとも繋がれたので曲のプロデュースとかね。それに来年は僕もドイツに行くことが決まっているし、まだまだ他にも水面下で動きだしていることもあるので、今後のMadMove Entertainmantに注目して欲しいです。

EVENT INFORMATION

GENKI|レゲエシーンに新たなアプローチを仕掛ける若きオーガナイザー

MadMove Entertainment Presents 『CHAM LAWLESS JAPAN TOUR 2017』

日程:2017年11月22日(水)
場所:大阪 SUNHALL

日程:2017年11月24日(金)
場所:岡山 CROWN

日程:2017年11月25日(土)
場所:福岡 Voodoo Lounge

日程:2017年11月26日(日)
場所:沖縄 The Brook

日程:2017年11月29日(水)
場所:宮城 CLUB SQUALL

日程:2017年12月1日(金)
場所:愛知 Transit Studio

日程:2017年12月2日(土)
場所:北海道 Riviera

日程:2017年12月3日(日)
場所:東京 R Lounge

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