RYKEY|「自分という真っ白な人間が吐いた言葉」で作られた作品

text by BUNDAI YAMADA + SEIRA YONAMINE

 

とても赤裸々な作品だ。生の言葉。ピュアな音楽。RYKEYが1年ぶりに世に放ったEP『CHANGE THE WOLRD』は発売後ひと月が経っても、色褪せることなく年末の都会の光景とマッチし、「ああ、RYKEYはそういう作品を作ったのだ」と改めて思わせられる。このEPを既に聴いている人たちも同じように感じているような気がするし、きっと来年の今頃聴いても同じように感じられると思う。すべてのものが瞬時に消費されていくこの社会で、RYKEYは「残る作品」を作ることを選んだのだ。

 

 

HDM:まず、TRAPがメインストリームになり、構築されたリリックの精度が以前ほど問われなくなったこの時代に、すごく言葉にこだわった作品という印象を受けました。

RYKEY:そうっすね。本当そういう音楽を作りたくなったから、そういう風にしたっていうか。ただ、日本語のラップって、なんかこう言い回しがたくさんあって、難しい部分もたくさんあるわけじゃないですか。いろんな人に意見を聞いてみても「日本語ラップはやっぱりわかりにくい」というか。結構そういう話を聞いたんですよね。そこをわかりやすくすれば、もっといろんな層の人たちに聴いてもらえるんじゃないかと思ったんですよ。それが自分の中での結論。言葉を大事に思ったことをそのままメロディーに乗せて…やっぱメロディーが良ければ歌って良くなると自分は思ってるので。そのメロディーに詩を乗せるっていうか、そういう形で今回は作りましたね。これが本当の自分という人間が吐いた言葉だと思います。今までは本当の自分ではない時の“自分”の言葉も作品の中にあった…というわけではないですけど…やっぱりあるじゃないですか?シラフのときには言わないのに、酔っ払ってるときに言う言葉みたいな。1stと違って前作は、シラフじゃないときに言う言葉だったかもしれないなとも思います。けど、今回は本当に自分…ジャケットも真っ白なんですけど…自分という真っ白な人間が吐いた言葉がこうなったんだなと思いますね。

 

HDM:なるほど。音楽って…というか「歌」ってきっとそういうものですよね。自分の思いを乗せて歌う。世の中はいろんな流行りを意識し過ぎて、そうじゃなくなっているのかもしれません。RYKEYさんの作品はそういうシンプルな動機で作られているわけですが、そこがかえって新しいと感じました。その赤裸々の言葉の羅列の中に、JP THE WAVY、SALUというスキルフルな2人が客演参加することで、完全に他にない音楽になっている。

RYKEY:めちゃくちゃ新しいじゃないですか。本当に誰もやってないことだと思うんですよ。例えば『Cho Wavy De Gomenne』とか、あれこそ凄い挑戦した音楽だと思うし、JP THE WAVYはチャレンジャーだと思う。SALUもそういう新しいことをできる人間だと思っています。だからといって、他の人ができないってワケではないんですけど。この2人は今一番方向性が合う人たちだったんじゃないかな。2人ともお互い相思相愛で尊敬しあえている中で、一番一緒に新しいことに挑戦しやすかった人間だったんじゃないかなと思いますね。

 

HDM:客演も含めて、RYKEYさん自身としては、なぜこういう新しい手触りの作品を作れたのだと思いますか?

RYKEY:それは本当に今回のプロデューサーの人たちのおかげですね。今回はJIGGさんとずっと一緒に作業をしていたんですけど、JIGGさんが「それで良いんだよ」ってずっと後押しをしてくれた。「俺が言ってんだから間違いないじゃん」というスタンスで、自信を持って自分がやってることを「平気だよ」と言ってくれたので、凄くやりやすかったですね。本当やりたいことが一致した感じでした。JIGGさんもそうだし、あとはマンハッタンやレキシントンのチームのみんなだったりとか、本当のその人たちが「RYKEYなら大丈夫だよ」「新しいことやれるよ」って言ってくれたことだったりも大きかったと思います。自分では「うわ~、大丈夫かな~?」って思っている部分もあったんですけど、「大丈夫だよ」と言われたら、俺も「大丈夫なんだ」という風に思えるので。今回の制作チームの方たちには本当に励まされました。このEPは、この制作チームじゃなかったら多分できなかったと自分は思ってます。どういう言葉でこの感情を説明したらいいのか全然わからないんですけど、やっぱり「自分1人で世の中生きてるんじゃないんだよな」っていうことに改めて気付いたんですよね。あと、何事も自分自身で気付くことが一番大事なんじゃないかなって思います。人間って、自分で自分を正していく生き物なんだと思います。「失敗は成功のもと」って言葉がありますけど、これこそ間違いない言葉だと思っていて、失敗しなきゃ成功にもつながらない。痛い思いもしないと人間やっぱり何もわかんないと思いますね。

 

HDM:先ほども言葉にこだわった作品だとおっしゃっていましたが、その辺りをもう少し掘り下げたいです。個人的にはSALUさんを客演に招いた『SKY TO DIE』に特にそれを感じたのですが、「空が青すぎて死にたくなるよ」というリリックはなかなか出てこないと思います。これはあえて言うと、どういう感情に沿ったリリックなんですか?

RYKEY:自分は(刑務所の)中に入っていたことがあるんですけど、その時期…校庭にいた時に「なんでこんな状況なのに空が青いんだろう、死にたくなるな~」みたいな。「今、この青い空の状態で死んだら幸せなんだろうな」って思ったこともありますし。だけど、そういう経験がないような一般人の方でも、空が青すぎて死にたくなることってないのかなっていうことをJIGGさんに喋ったんですよね。そうしたらJIGGさんも「あるよ、全然」と言っていたので、じゃあそれをリリックにしようと。それで、思ったまんまに歌っちゃった感じですかね。作ったというか、考えて出てきた言葉じゃないんで。思ったまんま書いた。今回のEPは全体的に、「空が青すぎて死にたくなるよ」とか「雨の日はスローダウン」(『REMENBER』)だったり、本当に全部偽りなく、飾りをつけずに言葉だけで勝負した感が自分の中でありますね。まず、人に伝わるように、伝わるように、ということを考えました。自分の1枚目だったり2枚目のアルバムは、ギャングスタな感じが好きな、本当にアンダーグラウンドのラップが好きな人しか好きじゃないような気もするんですけど、今回は、音楽が好きな人たちなら傑作だと思えると自分は思ってるんで。自分はこれでシーンでの最先端をいった感じもしますし、これがみんなの見本になってくれれば良いと思っています。

 

 

HDM:先ほどからこの作品は「言葉にこだわった」ということを繰り返しおっしゃっていますが、何か特にそう思うようになったキッカケがあるんですか?

RYKEY:自分が思ってることを言い続けたらそうなるって悟っちゃった部分があるんですよ。懲役に行っている時も、「出たら何やるのRYKEY?」みたいな話になるんですよね。それで「俺、CD出しますよ。出たらまた1位とりますよ」って。実際1位をとりましたし、自分が本当に思っていることを口に出すと叶うと思いますね。それが“言霊”だと思っています。思いが強ければ自然と言葉に出ますから。ラップに限っては自分で吐いたことが自分に返ってくるので、本当に怖いと思います。だからこそ、自分の吐いた言葉というのを本当に大切にしたくて。メジャーだと「こういう言葉は使っちゃいけない」とか色々あると思うんですけど、自分は経験したことを素直に表現できる、それが音楽だと自分は思ってるんで、そこだけは譲れないですね。言葉は譲れないです。その気持ちがあるから、やっぱりどれだけ最先端のことをやっても、自分の味が出ると思ってるんですよね。だから、言葉の重さというのは本当大切にしたい。そこだけはブレない。

 

HDM:そのブレない思いであり、それを表現したからこそ「聞こえ」がRYKEYさんの作品を新しい、他とは違う印象を与えている気がします。今は言葉が軽い時代ですよね。

RYKEY:それこそ自分のラップでも言ってるんですけど、本当にネット社会になったなって。みんな気にするところが、なんか数字だったりとか、見栄えだったりとか、そこばっかり気にしていて、世の中の本質を…本当の芯のところを見ようとしていないんだなとは思います。例えば、自分もガキの頃に、フリースタイルバトルだったりマイクジャックとかよくやっていましたけど、絶対喧嘩になっていたんです。それがラッパーだったんですよ。今ってそういうのもうないじゃないですか。なんでもありというか。別に誰とは言わないですけど、テレビなんかでレジェンドの人たちがガキンチョに「おい、てめえ」とか、反対にガキンチョが「オッサン」とか。そういう感覚が当たり前になった世の中って、ちょっと怖いと思いますね。今は音に乗せて、ただ口喧嘩してるだけじゃないですか。ラップが口喧嘩だけで終わる世の中になったってことに関しては、本当に世の中よくわかんないなと思いますね。昔はラップだから許されるわけじゃなかったんで。軽々しく「オッサン」とか、その感覚は自分たちの時代にはなかった。本当に法に守られていて、平和なんだなと思います。ラッパーって本当に不良が真面目に生きていくための手段のひとつだったんですよ。自分たちの世代に関しては、カッコいいからというよりは、それしかないという感じだった。今は…まあ、それはそれで良いことだと思うんですけど、言葉に責任を持たないで口に出す人が凄く多くなってるのかな。ラップの言葉が軽いっすよね。

 

HDM:おっしゃっていること、とてもよくわかります。改めてアルバムタイトル『CHANGE THE WOLRD』の意味を伺いたいです。

RYKEY:「新しい景色を見たいな」と、自分も思ったんです。今までの自分って、目の前の本当に小さな枠の中でしか音楽をやってなかったっぽいんで、その枠をもっとでっかい枠にしてやりたいと思ったのが『CHANGE THE WOLRD』ですね。これは本当に先を行って先を行って先を行って…音楽を本当に知っている人が作るアルバムだと思います。題名通り「時代を変えちゃった感」がありますね。聴いてもらえば、「あいつ、1年いねぇで帰ってきたら、なんだよ、スゲエな」と思うんじゃないかな。

 

HDM:最後に来年、2018年のRYKEYさんについて伺いたいです。

RYKEY:来年も変わらず自分のスタイルで、ブレずに、みんなの見本になれるような音楽していきたいですね。変わらず。自分結構、自分のこと、人の見本になる人間だと思ってるので。昔からそうでしたし。これをキッカケにヒップホップを聴かなかった人が聴いてくれたりだとか、そういう人がたくさん増えていってくれれば嬉しいです。

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