漢 a.k.a. GAMI|戦い続けて見る夢の行く先

漢 a.k.a. GAMI|戦い続けて見る夢の行く先

interview by HIROYUKI ICHINOKI photo by MARI HORIUCHI

やってきたことひとつひとつに悔いはなくとも、その道を選んで良かったかどうかなんて、結局はあとになってみないと誰にもわからない。そんな残酷な現実を隠さないという一点において、過去をたどって夢のありかも描く漢 a.k.a. GAMIの『ヒップホップ・ドリーム』は、絵に描いたハッピーな夢物語ではない。思えば歩んできた道も長くなったが、彼は今なお現実と戦っているのだ。

 

 

HDM:佐藤くん(佐藤将:P-VINEの元A&R・ディレクターにしてレーベル『BLACK SWAN』の創設者。MSCはじめ数多くのアーティストを見い出し、2014年に死去)と出会ったときに、「ストリートビジネスでもうけた金で音楽やりますよ」って漢くんが宣言した話を自ら語るアカペラから今回のCDは始まるけど、そもそもは佐藤くんがB-BOY PARKのMCバトル(2000年)で漢くんを見たのが出会いのキッカケだよね。

漢 a.k.a. GAMI:B-BOY PARKのMCバトルに出て、その1年以内ぐらいに平日のBEDで俺を見つけたP-VINEのバイトの子から声かけられて、「佐藤さんが会いたがってる」みたいな。佐藤さんは佐藤さんでKREVAと戦ってるのを見て気になって探してたみたいで。それで後日会ってデモ渡したんですよね。

 

HDM:そのあと、P-VINE~LIBRAでMSCや漢くんの音源がリリースされることになるんだけど、レーベルを作ろうっていうような話はその前からしてたとか。

漢 a.k.a. GAMI:LIBRAとの出会いがある前から(レーベルの)構想をいろいろ佐藤さんに言ってたんですよ。

 

HDM:そこから考えるとほぼ20年になるよね。

漢 a.k.a. GAMI:まあ普通の人が経験するような人生を、俺はまさしくヒップホップの中でやってきたんだなって感じで別に悔いはないんですけど、もうちょっとやれたんじゃないかな感がある。まだ引退したわけじゃないんで、それはこれからでもいいかなとは思いますけど。

 

HDM:ただ、この何年かで状況も変わって、テレビ含めいろんな世界を見てきたでしょ?どこを指して言ってるのかわかんないけど、今回のアルバムに収録された『Luvletter For Trush』には「業界なんてだいぶつまんねえし退屈なだけ」ってラインもあるけど。

漢 a.k.a. GAMI:アルバムで歌ってるのは全部ヒップホップ業界とかシーンの中についてなんですけど、ひと昔前のシーンのほうがそれぞれの派閥感があった。今は時代が便利社会っていうのもあるんすけど、個人に近いっていうか、そのへんの違いはなんかつまんねえなっていう。ストリートは結構ファミリーとか集団、組織って一面も大きいから、個人の動きはあんまなかったんですよね。そういう、もっと地域と人間達の集団がセットみたいなほうがヒップホップかなっていう。

 

HDM:実際レーベルを見ても、今は個人レーベル的なものが多いしね。

漢 a.k.a. GAMI:盛り上がってたりやってるヤツも増えてたり、シーンもいろいろジャンルが増えていいことなんですけど、それがみんなに反映されてる気がしないし、それぞれ頑張ってる感じしかないなっていう。

 

HDM:そこは裏方が少ないっていうのもあるかもしれない。ヒップホップ全体でムーヴメントみたいなものにもなりにくいし。

漢 a.k.a. GAMI:そうそう。若い子からしたらBAD HOPとかがそういう感じなのかもしんないけど。

 

HDM:鎖GROUPも現状、リリース的にほぼ漢くん一人の動きでレーベルをまわす形に今なってるけど、それについてはどう考えてる?

漢 a.k.a. GAMI:LIBRAのせいにしないけどひとつ俺らも失敗して、(MSCの)仲間の中でも限界っていうのがそれぞれあったと思う。そこで俺は仲間を止めることができなかったんですよね。俺の理想はできればこの形をクルーのヤツらとやってみたかった。そういう意味でもったいない、もっとやれたってことで。でも結局、O2とPRIMALもラップやってるし、O2なんて牧師になってラップやってるわけですから。そんなのいっぱいいると思うんですよ、アメリカに。宣教師ラップじゃないけど。

 

HDM:ゴスペルラップ。

漢 a.k.a. GAMI:そう。まさしくゴスペルをバックにつけて歌ってるらしいんで、O2は。それもいいかなと思うし、俺らの場合は本にも書いたように、密に連絡取ってなきゃ仲間じゃないっちゅう感じじゃなくて、1年に1回、数年に1回会っても変わんないんで、そういう意味であいつらと遊べればなと思ってる。さすがにクルーとしてここで(音源)出すとか考えてないけど。

 

HDM:そこで今回のCDだけど、トラックがなかなか見つからなくて時間がかかったって話をしてたよね。

漢 a.k.a. GAMI:スランプっていうわけでもなかったし、自分がもっとハングリーにいろんなとこ行ってトラック探したらあるんだろうけど、一気にいろんなことやったから作業としてはなかなか進まなかったっすね。あとはアルバムって考え方がもうスゲエめんどくさくなっちゃったっていうか、宿題として。だったら毎月1曲でもいいから配信してるほうが気分いいかなみたいな、そのアイデアだけ先できちゃったんで、アルバム作る前に。それで余計めんどくさくなったっすね(笑)。

 

HDM:アルバム作らなきゃっていう思い自体は何年もあった?

漢 a.k.a. GAMI:「作んなきゃ」っていうよりは「作りたいなあ」みたいな感じっすかね。そこの言いわけとして自分の中で置いてたのは、俺はアルバム毎年出して必死に頑張って売れないヤツより、10数年キャリアあって2、3枚しか出してないのに出せば絶対そいつらより売れるってヤツのほうがまだ見苦しくないっちゅうことで。なおかつ1枚出すことによって自分のフィールドが広がればいいなと思ってやってるし、ヒップホップで生きてきてたヤツがラップのアルバムを1枚出すことによって、生き方としての道ができたら俺は成功だなと思ってるんすよ。それによって今はこんな仕事がありますとか、CD出したことによってこういう出会いがあってとか、それによって今の自分が生計立てる職業に就いたよとかでも俺はカッコいいなと思うし。むしろそのほうが生きる手段として有効に歌を使ったなと思う。そうじゃなかったら趣味でやってるほうが絶対いいなって思ってて。

 

HDM:それがつまりはアルバムの最初で言ってる、「ヒップホップはストリートビジネスでもうけてやるものにとどまるものではない」っていうこと?

漢 a.k.a. GAMI:そうですね。別にストリートビジネスでもうけて音楽やるって今思ってるヤツに「違うよ」と言うつもりもないし、間違えてるとも思わないすけど、明らかに難しいと思うんで、ずっとそれをするのは。

 

HDM:ラップ観自体もそこで変わった?

漢 a.k.a. GAMI:そこは意外とないですね、昔と変わりは。ただ、人を受け入れる姿勢は昔よりだいぶあるけど、受け入れるつもりでいればいるほど人の曲聴かなくなるっていうのは変な現象ですね(笑)。別に他のヤツのラップに興味ないし、年々興味ないヤツが増えるだけで。

 

HDM:ははは。そうなんだ。

漢 a.k.a. GAMI:もちろん刺激もほしいし、若い子見てたまに刺激もらうし、同じぐらいの歳のヤツが頑張ってるのも刺激になるけど、確実に昔よりそういう感じは少ない。昔はこいつに聴いてるってバレねえようにしてでも聴かねえとみたいな、そういうヤツもいたとは思うんすよ。好きと思われたくないけどみたいな。

 

HDM:それはなんでなのかな。ムーヴメントになりにくいっていうさっきの話含めて、ヒップホップがそれだけ細分化したっていうこともあるのか。

漢 a.k.a. GAMI:つまんないんでしょうね。だから常にある恐怖は、「俺、いよいよ本当にヒップホップに飽きんのかなあ…」って。そこが怖いっすね、今(笑)。そんな風にさせんなよって。

 

HDM:ともあれ、広く受け入れられていく中でも依然として世の中的にグレーゾーンな部分ってヒップホップの一部にあるじゃないすか。漢くんのスタイルもそうだよね。逆にいえば世の中とどこで折り合いをつけるかっていう問題。

漢 a.k.a. GAMI:そこは『バイキング』(フジテレビ系列)でも何でもいいんですけど、変なとこに出されちゃうときって俺の中では「プププ」って感じなんですよ。「どういうつもりでここに呼んだんだ?」みたいなの、いまだに仕事でたまにあるっすもんね。それは誰かのいたずらなのか、ホントに熱心にヒップホップ好きだったファンが出世して呼んでくれてんのか、いろんなパターンあると思うんすけど。

 

HDM:そこで自分に矛盾を感じたりはしない?

漢 a.k.a. GAMI:俺の場合はテレビとかそっち系とは無縁なタイプのスタイルだったし、ファンや俺を知ってるヤツからしたら「それ行く必要なくない?」って意見が出てくるんだろうけど、俺はこのまんま行けちゃうんだったら行きたいって感じで、別にアンダーグラウンドはテレビに出ちゃいけないとかそういうのなくて。それキッカケにそこを抜け出すでもいいし、可能性のあるもんは全部試したほうがいいんじゃないって感じなんで、自分の中でも矛盾はないっすね。

 

 

HDM:まあ、以前だったらアウトなところがより一般化してきたっていうこともあるのかもしれないけど。

漢 a.k.a. GAMI:そうですね。なんなんですかね。昔のテレビだったら完璧にアウトなのがOKになってるんですけど。今は規制が厳しいはずなんですよ、本当は。

 

HDM:あー、テレビの世界はむしろ厳しくなってるか。

漢 a.k.a. GAMI:ただ、俺のフィルター通すとたまたま厳しくなくなってるなっていう現象はたまにあるんですけど、ダンジョン見てても。「これ普通コンプラだろ」みたいなのとかあるし。

 

HDM:たしかに暗黙の了解的にスルーされてるところ見たりするね。結局そこで踏みとどまるか、踏みとどまらないとしたらどうそれを伝えていくかっていう話かも。

漢 a.k.a. GAMI:鈴木おさむ(放送作家)さんとも話す機会あって聞いたんすよ、今のテレビのことを。「何なんすか、この厳しくなってくのは」って。そしたら「年寄りが多いからだ」って言われて。今、テレビの一番大事なお客さんは一番クレイマーの多い高齢層なんですよね。でも、そうなると若いヤツらはテレビを見なくなる。じゃあ若いヤツらしか見ないチャンネルがあればいいってだけなんで。そういうメディアを作らないと、いい広まりもしないだろうし、ムーヴメントも起きない。『漢たちとおさんぽ』っていうバカなこと毎週やってるんすけど、あれやってる一番の理由も、メディアの確立は必要だと思うからなんですよね。ジブさんがラジオやってるのもたぶんそういうことだろうし。そう思ったのも、テレビの力はやっぱスゲエなって再確認したから。俺みたいなラッパ―を扱いたいなんて芸能界はないだろうけど、俺もテレビのおかげで今だにいろいろあるわけで。

 

HDM:あえて言うと、そことこのアルバムをつなげる思いがあったりとか…?

漢 a.k.a. GAMI:全く無視ですね(笑)。

 

HDM:だよね(笑)。

漢 a.k.a. GAMI:そんなんだったらこういう曲はできてない。むしろ曲とかもっと変えなきゃいけないんじゃないの?って感じですけど、変えたくないから変えてない。「それでもいいんだったらテレビ出まーす」みたいな感じだし、「なんでお前せっかく行けそうなところにいんのにそんな曲作んの?」っていうのが俺の正解。曲として上手く消化できるような、ポップスの人らが聴いてもグッときて、カッコ良くて、スゲエこと言うなあっていうのができればいいんすけどね。俺はそういう感じじゃないっすね、まだ。

 

HDM:でも、あくまで“異物”として世の中に突っこんでいくなら、それもひとつアリなわけで。

漢 a.k.a. GAMI:そうっすね。まあ、俺にしかできない発信ができればなと思っていろんなことやってますけど。炎上BOYZもそうだし。とんでもねえヤツとばっかやってますからね、あれは。ただそれもおもしろおかしくやるのがヒップホップかなあとも思うんですよ。

 

HDM:『極東』にしても、議論を呼ぶって意味では異物のひとつだろうし。

漢 a.k.a. GAMI:そうですね。俺は別に活動家じゃないんですけど、ラッパーってラップ始めたとき、「日の丸」とか「神風」って言いたがったり、「日本レペゼン」をいきなり無意識にし出したりするんですよね。D.Oでも誰でも、昔の曲聴いたりすると「ナメんなよ外国人」みたいな感じもあったり。それでいて、ヒップホップのルーツだから憧れてる部分もあるっていう矛盾、アメリカのヒップホップを日本でやってるっていう矛盾をいかになくすかいろいろ考えた結果、自分の中での長年の考えを簡単にしてみたのがこの曲で。ヒップホップならではの言いまわしとか目に浮かぶような景色で歌えればいいなと思っただけで、それこそ般若なんて昔よく歌ってた題材ですよね。間違ったこと言ってるつもりねえし、日本のシステムなかなか最高なんじゃないのっていう再確認っちゅうか。日本人が日本でやるヴァージョンのヒップホップはこうだよっていうスタンスで俺は昔から常にやってるんで、それを歴史と比べてみて、自分らみたいのが生まれた理由とか、でもこうなんじゃないの、こうあるべきじゃないのっていうのを詰め込んでる。

 

HDM:そうした一方で、今回のアルバムは過去のターニングポイントがさまざまな形でリリックになってて。

漢 a.k.a. GAMI:もともと日記もつけるタイプじゃないし、昔写真撮るの好きだったけど、写真もあんまもう残ってねえしとか、自分の歴史を残してく上で良かったなと思うのが本とラップなんで、そういう意味での日記って感覚ですかね。本とCDは。「若いころはこういう感じだったよ」って忘れないための。そんな程度っすね。

 

HDM:じゃあ今後はどういうことを曲にしていこうと?それ含め今後考えてることなどもあったら。

漢 a.k.a. GAMI:よく考えるけど、今これからのそれこそ“ING”で起きてるものだったらキリなく題材にできるし、意外に思われても「俺はこういうのもともとやろうと思ってたよ」っていうまだやってないいろんな音楽をやる感じですね。バンドもそうだし、ユニットも考えてる。

 

HDM:MSCみたいなクルーもまたやりたいって言ってたね。

漢 a.k.a. GAMI:そういう感じもやりたいし、TABOO1とBAKUとはILLBROSもやるんで、昔からの仲間と、鎖を共有して遊ぶヤツらと両方やりたいなって。

 

HDM:また最初の話に戻っちゃうけど、MSCから数えてもほぼ20年。考えてみたら長いよね、これからも続くと思うと。

漢 a.k.a. GAMI:他のメンバーは社会とある程度リンクしつつ、人間として学ばなきゃいけないもの学んでる最中だと思うんですけど、俺の場合は「本当にここまできたらやめれねえぞ」みたいな状態を迎えてやってるんで。でも、30越えて音楽をやるっていうのはそういうことかなと思うんですよね。逆に言うと「お前やめれないよ」「これしかできなくなるぞ」っていう状態だと思うんで。

 

HDM:それ考えると、アルバムに入ってる『新宿ストリート・ドリーム(DJ BAKU REMIX)』聴けばまさにだけど、ヒップホップを選んだことが本当に良かったのか、これが本当の意味で夢なのか?と思う一面もあって。

漢 a.k.a. GAMI:そうそう。現実的なもんを常に持っとかないとって感じですね。だから証明したいですよね、生き証人的な感じで。

 

HDM:言ったらそれがこの先の漢くんの“ヒップホップ・ドリーム”っていう。

漢 a.k.a. GAMI:そうですね。SHINGO★西成とかZEEBRAを見てもドリームだし、俺からしたら。あの歳までほぼ変わらないキャラ、設定でやってるっていうのは、自分の今のスタイルとかキャラクターだとあんまり想像できないんで。

 

HDM:重ねて今回の『ヒップホップ・ドリーム』について言葉をもらえれば。

漢 a.k.a. GAMI:このアルバムはラップやってるヤツらに聴いてもらいたいアルバムでもあるし、日本語ラップに今興味持ったヤツはとりあえず絶対聴かないといけないスタイルでしょっていうのもある。今までの俺を知ってるヤツに聴いてもらっても期待を外さないとは思ってますね。「こういう曲入れときゃ文句ねえんだろ」みたいなのは入れといたし、「こういう曲ないとコアって言わないんだろ」っていうのもわかるんで(笑)。

 

HDM:他にもこれからの具体的な動きとかあったら聞かせてもらえると。

漢 a.k.a. GAMI:意外と俺らクラスの年代のヤツらが今年、来年活発化するような動きがあるんで楽しんでもらいたいっすね。「日本語ラップを変えたぜ」って自信持ってる世代だと思うし、いまだにそこにブレはないんと思うんで。あと同世代の生き残ってるヤツらとリンクしていきたいなっちゅうのもある。一緒にやりてえなあっていう雰囲気の距離までやっときたなっていうヤツらが多いんで。

 

HDM:そういうのもキッカケがないとなかなかできないしね。

漢 a.k.a. GAMI:なんで、“キッカケ作りマン”になりたいっすね、鎖で。あとD.Oも楽しみにしたいっすね、今年は。あいつもアジアで謎の動きしてるんで。

RELEASE INFORMATION

漢 a.k.a. GAMI|戦い続けて見る夢の行く先

漢 a.k.a. GAMI / ヒップホップ・ドリーム
鎖GROUP
9SARI-010
2500円(税別)
2018年2月28日発売

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