名越啓介|タフなカルチャーを生むもの 写真展『KINSHASAAA!』
いわゆる「発展途上国」なんて棲み分けされている場所には、みんな同情の目しか向けてはいけないようになっているみたいだけど、逆だ。そこには、“一定の生活水準”というクソみたいな競争から意図せず離脱したヤツらにしか生み出せない、独自のパワーとエネルギーが渦巻いている。生きていくためのチョイスを外から与えられない代わりに、ヤツらは自分たちの手と感性を使ってモノを作り、文化を築く。だって考えてもみてよ。蛇口から流れる綺麗な水しかふれないヤツと、薄汚れたバケツ3杯の水でもなんなく暮らしていけるヤツ、サバイブできるのはどっちだと思う?写真家・名越啓介はいつもそんな国や場所、人に向けてシャッターを切る。それは“悲惨な現状”や“過酷な状況を頑張っている人達”に哀れみの目を向けさせるためなんかじゃない。さっきも言ったように、逆なんだ。タフな精神やそこから生み出されるカルチャー、そこには犯罪もドラッグもあるし、愛情も優しさもある。多面的であることが、何より魅力的なんだ。「こんな環境でも頑張っている人がいるんだから…」と自分を奮い立たせたるために使うんだったら勝手にしてくれ。
HDM:お久しぶりです。ちょっと(展示してある写真)見てていいですか?
名越啓介:どうぞどうぞ。
HDM:…これって、どうなってる?死んでる…?かけられてる布のお腹のあたり、血が滲んでるけど。
名越啓介:ん?あ、これね。コンゴはプロレスが人気で凄くカオスで有名みたいなんやけど、それを撮ってみたくて、そのために準備してもらって。そのレスラーの中に黒魔術を使うって設定のキャラクターがいて。いまだに黒魔術とか、霊的なものが強く信仰されている場所でもあるから。で、そいつはこうやって、対戦相手の臓器を喰うみたいなことをやるんですよね。まあヤラセだとは思うけど…わかんないですね(笑)。見てる観衆も、完全に信じてるヤツと半信半疑のヤツもいて。この臓器喰われちゃった相手はタンカで運ばれていってたけど、どうなんでしょうね(笑)。こっちにもありますよ。目を喰われてるパターンの。
HDM:うっ…なんかヤラセにしては異様に生々しいんですけど…。パフォーマンスにしたって道端でこれをやってるとかもう…これだけで、ただごとじゃない場所に行ったんだなってわかるよ…
名越啓介:ハハハ。あ、お水飲みます?椅子出しますね。
HDM:ありがとう。この撮影のについては、前作の写真集『Familia〜保見団地』の時にチラっと言っていたよね?コンゴに撮影に行ってるって。
名越啓介:そうそう。その中でも今回展示している写真は、最近行ったときの比較的新しいものばっかりですね。でも本当はね、太鼓の音で会話する部族の集落があって、そこに行くまでの小型船での生活を、川をさかのぼりながら撮りたかったんですよ。『闇の奥』(イギリスの小説家ジョゼフ・コンラッドの代表作。コンゴ川一帯を舞台とした西洋植民地主義の暗い側面を描写した小説)みたいなのをちょっとイメージしていたんです。
HDM:何?その部族?
名越啓介:コンゴって約450種くらいのいろんな部族で成り立ってるんやけど、ジャングルの奥地に多くのそういう部族たちが住んでるらしく、彼らの暮らすジャングルにはコンゴ川をひたすらのぼっていくしかないんです。1週間あれば行けるよと聞いてたのに、実際は片道1カ月くらいかかるって言われて(笑)。
HDM:それは長丁場すぎるよね(笑)。
名越啓介:日にちがたりないからもう無理じゃないですか。それで目的が断たれて、とりあえず着いたキンシャサの街で何しようか…みたいな。ここでやるべき仕事もあったんやけどね、それが終わったらどうしようか、みたいに目的を失って。でもそうやって目的が無いまま、意図したテーマのない写真を撮っていくことになったのが、結果的に自分的に新しい視点で写真が撮れるキッカケにはなって凄く良かったんやけどね。何て言うか、きちんと写真っていうものが撮れたかなっていうのはあった。
HDM:狙いがなくてこんな写真が撮れるって、名越さんの視点もそうだし、そもそも街や現地人の状態もやっぱり“持ってる”からだよね(笑)。コンゴ共和国とコンゴ民主共和国ではお国柄はまったく違うのかな?
名越啓介:違うみたいですよ。どちらかと言うと、コンゴ民主共和国の首都、キンシャサはヤクザな街っていうか、すぐ金にたかってくる感じ。コンゴ共和国は街の雰囲気も暮らしている人も比較的おっとりしているみたいやけどね。まあ、人によるところももちろんあるんやろうけど。
HDM:どちらの国も、ファッションが凄く盛んで、世界から注目されているよね。名越さんだし、コンゴでまさかファッションスナップを撮りに行ってるわけではないと思うけど(笑)。そういうカルチャーも世界から注視されている。
名越啓介:そうみたいですね。キンシャサは特に「アフリカのパリ」と言われているくらいで、そのファッションにも彼らなりの厳格なルールがあるみたいで。服の着こなしが生き方と連動しているという考え方があって、歩き方とかステップの仕方とか、身のこなしに対する細かいルールがいろいろとあるみたいなんですよね。詳しくはよく知らないんだけど。
HDM:そのあたりがやっぱり部族的な思考してるよね。民族衣装としての意識というか。表層的なものじゃなく、着るものは精神性を表明するものっていう。そういうのって、誰か影響力のあるアイコンがいるのかな?
名越啓介:多分そうだと思う。今回、街をアテンドしてくれたのが、現地市民からすごくリスペクトされているアーティストのパパウェンバ&ビバ・ラ・ムジカにパーカッショニスタとして参加していた日本人女性の奥村恵子さんで、彼女というアイコンの存在の助けがあったというのは凄い大きかったと思うんやけど、権力者というよりはアーティストに対する羨望とか敬意が市民から強く向けられるのを感じましたね。音楽を聴きにいくために正装するっていうサプール独自の粋な感じとか、凄くいいなあと思ってね。逆に、俺のほうが怒られたりしましたからね。「何だお前のその靴!汚ねえなあ」とかって(笑)。
HDM:名越さんだって普段はお洒落ですよね(笑)。コンゴ民主共和国って、あまり旅行には向かない場所だよね。外国人はどれくらいいた?
名越啓介:こんなとこに観光客なんてほぼいないですよ。一昨年だったかな?日本から渡航した人数なんて、政府関係も含めてたった21人しかいなかったらしいから(笑)。東のほうではずっと内戦してるし。でも自分が行ったときは、空港や道路を整備しに来ていた中国人がちらほら歩いてたかな。この中国人とコンゴの住民が仲悪くてね。労働力まで中国から引っ張ってくるから、現地人には仕事がまわってこないことに腹も立ててるし、おまけに中国人がコンゴ人を銃殺した(※コンゴ在中の中国軍教官が飼っていたリスがコンゴ人兵士の姿を見て驚き、逃げてしまった。コンゴ人教官にリスの捕獲を命じたが失敗し、激怒した中国軍教官がコンゴ人兵士を至近距離から撃ち殺したという事件)っていう事件も起こったもんだから、余計に対立が悪化してて。日本人なんか見た目は中国人と見分けがつかないから、カメラ持って街を歩いてただけで「シノワ!(中国人)」みたいな罵声を浴びせられたりしてね。カツアゲもすぐされるし、そうやって騒ぐと警察も寄ってくるし、警察も揉めごとイコール金をせびれるチャンスにしか考えてないから、前回コンゴ行ったときなんか20回くらい逮捕されましたからね(笑)。
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EVENT INFORMATION

名越啓介 写真展『KINSHASAAA!』
期間:2018年7月21日(土)~8月10日(金)
場所:IMA:ZINE(〒531-0071 大阪市北区中津3-30-4 2F)
時間:12時~21時(日曜18時)