SHINGO★西成|片道書簡「オカンからの手紙」(HARDEST MAGAZINE 2018年4月発刊号掲載)

text by CHINATSU MIYOSHI photo by PAPAN

 

オカンからの手紙

愛情と謝罪 慰めと激励 ときどき金

 

「母親との関係を取材したい」とは言ったものの、齢86になる母親との“正確”なインタビューはどの程度成立するのか、正直不安なところはあった。それを察してか、取材当日、彼はたくさんの紙きれが入ったクリアファイルを手に、待ち合わせ場所の喫茶店にあらわれた。白い便箋や黄味がかった無地の紙、チラシやフライヤー。それらの裏や表にびっしりと、ときどきは簡素に書かれた文字。それはすべて母からの手紙だった。

 

「これ、使えるかどうかはわからんけど。めちゃくちゃいっぱいあるから、一部だけ持ってきた」受け取ってすぐに、彼の目の前で手渡された手紙のすべてに目を通すことにした。一枚ずつ、ゆっくり。汚さないように、破れないように。彼はコーヒーをひとつ頼んで、目の前で手紙を一枚ずつ読む私に付き合ってくれた。

 


 

真悟さん

長い人生、自分で自分をいためるときがある

長い長い途を歩むので、いろんなことが起きるのです

でも自分だけに起きるのと違う

みんなそれに負けず、また歩むことをしなければ自分に負ける…

みんな泣いては笑い、笑ては泣き

そうして歳をとってゆくのです

あなたもわかっているはずです、私がこんなことを書かなくても…

ごめんなさい、いらんことばかり書いて

気にさわったらごめんなさい

ご苦労さまです

長生きは、したくないもの

 


 

まるで詩のような言葉が連ねられた母からの手紙は、いったいいつから始まったものなのか正確には覚えていないらしい。ただ、いつも何かあるとコタツのテーブルの上にぽつんと置かれていた。息子と母親という関係上、面倒臭さや恥ずかしさから正面を向いてゆっくりと会話を重ねることができない代わりに、母が選んだのが手紙という手段だったのだろう。彼がまだ幼く、言葉でのやりとりが成立しないとき、母はときどき強く息子を叩いた。パチン!パチン!隣のおばあちゃんが平手打ちを続ける母の手を掴んで止めるまで。そして彼が大人になったことで、母の気持ちは平手ではなく言葉によって伝えられるようになった。何かを伝えるために手紙という手段で言葉を書く母と、ラップという手段で言葉を使う息子。言葉や文字は、よくよくこの親子にとって重要なツールなのだと改めて思う。母は手紙で、まるで自身が歩んできた人生をなぞるように、一人息子に対する愛情や心配、ときどきは不満や頼みごとを、そのときの気分や内容によって、統一性のない文字と言葉に代えて“話しかけて”いた。それは母からの一途…言い換えれば一方的な感情の吐露であり懇願。それに対して、彼は直接的な言葉や文字などではなく、ただ“母の暮らしを支える”という最もシンプルで、なおかつ最もエネルギーを要する姿勢をその返事としていた。

 

 

父親と離婚してから、母親の古本屋のバイトと内職、そして大学生になった彼の深夜アルバイトが家計を支えていた。そして今は、彼が日本中でマイクを握り吐く言葉が、家族のライフラインだ。以前、とあるラジオ番組でその人生を題材としたエッセイを朗読するというので同席させてもらったのだが、そこには母との暮らしがこう綴られていた。

 


 

高速の下の長屋暮らし

ノンキで陽気なその日暮らし

ゆえに、金が無くなれば

笑顔も無くなり

会話もない

 

四天王寺の鐘がゴーンと聴こえる

しまりの悪い扉と

包帯を留める紙テープが割れた部分に貼られた窓ガラスの隙間から

風とゴーンをホホに感じながら

うわまぶただけで時計を見る

 

自分でやるしかない

この選択の一致により団結をして親子生きてきた

背もたれの無いイスに引っ込み思案な背中と少し丸く小さくなった背中

貧乏親子の背中合わせ

どっちかが崩れたら終わり

生きると死ぬが隣り合わせ

 


 

自身が生まれ育った環境が、一般社会から見るといかに「特殊」なものであるかということに初めて気づいたのは、大学生になって社会と関わってからだった。路上で眠りこける酔っぱらいのおっさん、ヤクの売人や売春婦、ノラ犬、喧嘩に窃盗…彼にとってのいつもの光景は、ここ以外の“外の世界”には日常としてあまり存在し得ないものだった。今になって考えてみれば、それまでの“普通”が打ち砕かれたことが、SHINGO★西成というアーティストが生まれた瞬間だったのかも知れない。彼はその環境を逆手に取ることに成功した。金にもならない生活で培ったものが、金になる日がこようとは。

RELEASE INFORMATION

SHINGO★西成|片道書簡「オカンからの手紙」(HARDEST MAGAZINE 2018年4月発刊号掲載)

SHINGO★西成 / ここから…いまから
昭和レコード
SHWR-0052
2700円(税別)
2017年5月24日発売

RELEASE INFORMATION

SHINGO★西成|片道書簡「オカンからの手紙」(HARDEST MAGAZINE 2018年4月発刊号掲載)

SHINGO★西成 / わになるなにわ
昭和レコード
SHWR-0061
1200円(税別)
2017年11月15日発売

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