ローホー|「今の音楽業界はあんまオモロない でも音楽をやるのは最高!」
いつも酔っぱらっている。テーブルに着いて話をするときも、ステージの上に存在しているときも。彼は上機嫌で繊細で、ときどき醒めていたり熱くなったりしていて、それはまるで彼の歌の中にあるフロウのように、とても飄々としていて多面的だ。昨夜観た彼のライブでも、もちろん彼はいい感じに酔っぱらっていて、ヘラヘラと笑いながらふらりとステージに現れた。片手にはオレンジ色のお酒が入ったプラスチックカップ。フロアに集まった友達とちゃかし合いながら、たくさんのステッカーが張られた相棒のガットギターを手にした。それから始まった数十分間の出来事は、どう筆舌を尽くしたって書けるようなものじゃない。“神がかり的に華麗な指さばき…”だとか、”まるでギターが身体の一部のように…”だとか、そんなつまらない言葉を書くくらいなら、沈黙のほうを選ぶ。ほんとうに脳が感激で痺れたとき、人は気の効いた言葉なんてまったく出なくなるのだ。
「売れるかどうかはわかんないけど、名盤ができたと思ってる」
前回のインタビューから数ヶ月後の再会。地元大阪から神奈川県に移り住んだ彼に「調子はどう?」と尋ねた。「新しい遊び場を探そうと思って(川崎に)行ったんやけど、ほとんど家からは出てなくて(笑)。家がメチャクチャ楽しいですね。今の家は音も出せるし。いま、エンジニアの機材を僕の家で預かっているんですけど、そのスーパー機材が家にきたお陰で外に出る気が失せて(笑)」
今回再会したのは、彼の2枚目となるアルバムのインタビューのためだ。ギターと共に海外の…それもゲットーやそれに近い僻地を歩いてきた彼が名付けたタイトルが[ASIA MEDIA]だ。最初のインタビューのとき、お酒と会話の途中で、彼はある曲を爪弾きながら歌いだした。それが、今回のアルバムに収録されている[羅生門]だった。「ABCD…」から始まるその曲は、とりとめのないような韻踏み遊びのようで、そこかしこにはっとするような言葉が飛び出てくる、まさに“飛び道具”のような危うさと退廃的な色香に満ちている。
「この曲は沖縄の今帰仁村(なきじんそん)っていう、グーグルマップにも載っていないような土地の民家で2週間くらい暮らしてたときにできた曲なんですよ。自分の人生は…なんていうか、ずっとゴチャゴチャしていて。なんで今ここにいるんだろう?なぜ今この人とここにいるんだろう?って、自分でも不思議に思うような展開と縁がいまもずっと続いているような感覚で。そういうちょっと、ふわふわしたような感覚と日常の間で出てきた言葉で。冒頭の『俺はパピコキャップまで吸うタイプ』ってのもパピコ喰いながら『ああ、俺はパピコのキャップまで吸って、貧乏くせえなあ』って思ったから(笑)」
メトロポリス・スタジオでのマスタリング
今作を語るトピックの重要なひとつとして、SEX PISTOLSやTHE CLASH、MADONNA、JAMIROQUAIの作品を手掛けてきたイギリスのメトロポリス・スタジオのTIM YOUNGにマスタリングを依頼している。これは、彼自身の強い希望でもあった。
「ぶっちゃけて言えば、お金さえ払えば誰でも依頼できるんでしょうけど、このスタジオに自分の作品のマスタリングを依頼することがひとつのデカいこだわりでもありました。日本のスタジオに依頼することも考えたけど、きっとこちらの音楽シーンの現状を汲んで削られて整えられて…陳列商品として綺麗に収められてしまうという不安もあって。それだけは避けたかった。国内外でいろいろスタジオを探しているときに目に留まったのがこのスタジオでした。PISTOLS、CLASH、それ以外にもMADONNAにJAMIROQUAI…パンクからポップスまでジャンルレスに扱っているけれど、そのどれもが世界中に“カルチャー”を巻き起こしている。それって最高だなと思って」
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RELEASE INFORMATION

ローホー / ASIA MEDIA
SIDE B PRODUCTIONS
SBP-0001
2000円(税別)
2018年10月10日発売