ローホー|「今の音楽業界はあんまオモロない でも音楽をやるのは最高!」
ローホーというスタイル
ギターのリズムとメロディに、シンギングではなくライミングでのせる彼のスタイルは、とてもラフで自由だ。彼のその自由さは、リリックにもよく現れている。
「例えば、自由を伝えたいと思った時に『俺たちは自由だ!』って言葉にするのが一番そこから遠ざかるんじゃないかって思うんです。むしろそれだと不自由を強調させる気がして。自由を伝えるためのもっとも効果的な言葉はそれ以外にあるんじゃないかって、そういう言葉選びはしているかも知れない。誰からも『これはダメです』と言われるような立場にもいないから、例えば『選挙』とか『ファック』とか、特定の固有名詞を自由に使える。それは凄く恵まれていると思います。オナニーと言われてしまえばそれまでなんだけど」と言って笑いながら、「これだから、俺みたいなヤツにはおおやけのチャンスすら与えられない(笑)」と続けた。「だから、いまは陽の当たらないところで好きにやっているんですけどね」
そう言えば、ヴァギナとも歌っていたよね、と伝えると「それは学術用語だからOK」と返ってきた。たしかに。「音楽とか、それ以外のカルチャーに対しても凄く一方向的な社会主義を感じるし、この世に存在しないものにされていることがとにかく多いですよね。表現の世界にも。それが日本のあらゆるカルチャーをクソつまんなくさせてるっていうのは明白なんだけど」
そんな最低の理由で、彼の楽曲はなかなかラジオやその他のオフィシャルメディアで流すことが難しいらしい。ラジオから流れる音楽にファックや誰かの名前があることで、それを聴いた大衆が暴徒と化すと心底怯えているヤツか、真っ白なプードルを抱いて紅茶を飲んでいるマダム、そしてお金をたくさんくれる連中からクレームが入るから。ああ、あとはコロンバインの事件は、マリリン・マンソンの音楽の影響だと本気で信じているヤツからも。ショービジネスの世界で万人の友人にしてもらうためには、表現者としての去勢は避けられない。買い手の幅を狭めるような強い思想・主張は、勘定の割に合わないというところだろう。だけど、彼はそんな自分の状況を少しも憂いていないように見える。
「最近は、自分の中での幸せの基準が変わってきてて。昔はメディア露出が多かったり、いわゆるメジャーと呼ばれる世界にいることがその基準の核にあったように思うけど、そいつがどうやってこの誌面を取ったのかとか契約の事とか、あとは自分が影響を受けた20年以上前の、あのギラギラした音楽シーンではもう無くなってしまったこととか…それって街の色もそうですよね。パンクスやラッパー、スケーターが一緒くたに存在してたアメ村のあの感じは、もう無くなってしまって。そういうあらゆるものを見ていくにつけ、自分が目指すものとはズレていると思うようになって。もし自分の中の守るべきものが守られるなら、そこ(メジャー)でも何処でもいいんでしょうけど。今の日本の音楽シーンだけが居場所だと考えると、とにかく何でもやらないと息が続かなくなってしまう恐さもあるんでしょうけど、俺は音楽をビジネスじゃなく、ずっと好きでやっていてそれが継続できているって感じだから。商売っていう感覚とは少し違うのかも知れない」
「売れる」ってことは「ポピュラーになる」ってことだけど、彼は安易に自分をポップスターにするつもりなんてきっとない。エンターテイメントの世界でのポピュラリティを得るために、大衆の気に入る存在になるために、あっという間に情けない姿を晒すことになったヤツらが山ほどいるけど(肯定的に言うなら社会性や順応性があるとも言うけど)、そんなふうになることには吐き気をもよおすんじゃないだろうか。あるいは、本質的な部分を偽ってそんなことをしてみたところで、最後は誰も救ってなんてくれないってことを理解しているのかも知れない。愛されるのも嫌われるのも、それがほんとうの自分でなけれな意味がない。
「音楽業界なんてクソつまんない。今やる価値なんてない。だけど、音楽はクソ楽しい。これだけは、ほんとう」
いつか…それもそう遠くない話だ。セキュリティがわざわざ阻止しなくたって、誰もあんたにカメラを向けなくなったとき、自分だけが今の間抜けな姿に責められることになる。あんたが一番裏切りたくないのは何なんだ?…あんたって誰のこと?
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RELEASE INFORMATION

ローホー / ASIA MEDIA
SIDE B PRODUCTIONS
SBP-0001
2000円(税別)
2018年10月10日発売