MASTA SIMON|オリジナルであることを渇望するレベルミュージックの世界覇者

MASTA SIMON|オリジナルであることを渇望するレベルミュージックの世界覇者

interview by CHINATSU MIYOSHI photo by HIKARU FUNYU live photo by CHERRY CHILL WILL & YUKI KITAMURA

“ムーブメント”と言われるものは、ある一定のサイクルで再生と衰退を繰り返すものだが、果たして日本におけるレゲエも、いわゆるムーブメントの定理に沿っているのだろうか。“ジャパレゲ”という新語が生まれるほど、かつてない盛り上がりを見せた十数年前のあの状況は確かにムーブメントと言えるかも知れない。その後の落ち着きを、単純に「ムーブメントの衰退」と言ってしまえば簡単だけど、レゲエというカルチャーが定着した今だからこそ、その真価が問われているだけなんじゃないか。早い話が、「それをやる人間が本当にイケてさえいれば」ムーブメントが来ようと去ろうと大した問題ではないはずなんじゃないかって。そういう意味で、MIGHTY CROWNは本当にカッコいいよ。ルーツに敬意を持って、オリジナリティを求めていつも新陳代謝を繰り返している。きっと、誰よりも彼ら自身が、自分自身に飽きてしまうのがいやなんじゃないかって気がする。彼らの愛する音楽は“レゲエ”だけど、そのスピリットはまるで“パンクス”のようだ。

 

01

 

HDM:以前のインタビューが20周年のタイミングだったんですけど、その時がちょうど東日本大震災の後で。

SIMON:そう、震災の年だったんだよね。それがあったから、すごく印象的な20周年だったのを覚えてるよ

 

HDM:あれから5年経ちましたけど、節目から節目のこの5年間はどんな年月でしたか?

SIMON:20年と25年って、たった5年なのに重みが全然違うね。この5年間で、本当にいろんなシーンと関わるようになってきたんだよ。偶然の出会いもあるし、俺ら自身がそれまで閉ざしてた扉を意識的に開けたっていうのもあるんだけどね。今はいろんなジャンルの人達とリンクする機会に恵まれていて、それがすごく自然の流れだったっていうのも良かったと思ってる。本当に、2011年のレゲエ祭以降はドラマがいろいろとあって…。

 

HDM:どんなドラマがあったんですか?

SIMON:先に起こった震災をキッカケに、今まで接点が無かった人達と知り合うことになったのが一番大きかったかな。あの震災はね、精神的な部分でも個々の意識を変える大きなキッカケにもなったし。自分たちで責任を負うことの重要性を認識したっていうか。家族ができた仲間もいたりして、沢山の環境と精神性の変化が音楽に対して向き合う姿勢にすごく影響していったと思う。

 

HDM:SIMONさんにも?

SIMON:うん。俺自身は「第一線でやり続けていく上での意識の高さ」を改めて考えるようになった。現状維持なんて誰でも考えることだと思うけど、ただダラダラ続けるんだったら辞めた方がいいなって…これはあくまでも個人的になんだけど、そう思ってる。じゃあ次の挑戦はどこでやるのかな?って。ワールドクラッシュを7回制覇してからはずっと「次はどうするんだ?」「次は何を越えるんだ?」って自問自答してる。同じことを漠然と繰り返すことに意味をあまり感じないんだよね。

 

HDM:近年のMIGHTY CROWNの動きは、音楽的なジャンルを越えたものになっていますよね。

SIMON:ロックフェスとかにも呼んでもらえる機会が多くなってきたんだけど、面白いなって思うのは、そこで俺らがいくら「レゲエミュージックの世界覇者だ」と言ったところで、その場に来てるロックキッズ達には通用しないからさ、ステージの上ではいつも丸裸にされてる気分なんだよね(笑)。でも、そういう「こいつら誰?」っていう反応の中に立つのってすごい大事なことだと思う。居心地の良いところは、ある程度やり方も見えているから安心感があって当然なんだけど、そういう心地良い温度の中にだけいても刺激に欠けてくるし、新鮮な面白さも見つけ難くなるし。あとは単純に自分の中に「ここだけに安住したくねえ」っていう気持ちがある。

 

HDM:あらゆるジャンルのとのリンクから、“新境地”と呼べる場所に立ってみて得られたものって?

SIMON:もちろんレゲエの現場でファンに囲まれた空間の中も最高だし、すごく大事。でも20周年を迎えた以降は、特にロックバンドとの関係性が築けたことでロックフェスやライブハウスでの対バンとか、俺らにとっては完全なるアウェイで挑戦する機会を得て、レゲエを知らなかったロックキッズが俺らのステージでモッシュしてたり(笑)。こういうの、少し前の俺らじゃ有り得ないことだったんだよね(笑)。レゲエシーンでやってる連中からは「え?」って顔をしかめられるようなことだったかも知れない。でも、今まで俺らやレゲエシーンをサポートしてくれた人たちと、まだ知らない人、知り始めた人たちへの意志表示のやり方のひとつだと思ってるよ。これは俺自身の欲というか、夢というか、願望というか、もっとレゲエを認知してもらえる音楽シーンに変われば最高だね。同時に、「俺らみたいに音楽の学校にも行ってなければ音譜も読めない、だけど音楽で世界に出て行けるよ」っていう夢も提示できるんじゃないかと思ってる。

 

HDM:ロックフェスではバンドセットの中で唯一レゲエのサウンドスタイル、アウェイでこそ際立つレゲエの格好良さを提示できてますよね。

SIMON:そうだったら嬉しいね。例えばロックしか聴かないっていう人に「レゲエを好きになれ!」って強要は出来ないけどさ、でも喰わず嫌いをする前に1回ちょっと食べてみてって。それでマズけりゃ喰わないでもいいからって(笑)。

 

HDM:とりあえず試食してみてって(笑)。

SIMON:そうそう(笑)。でも、寝かせば寝かすほど味が良くなるからね。そういうサウンドマン、音楽家になれたらいいなって。やっぱりホームだけじゃなく、アウェイでやることになって初めて自分自身が見えてくるよね。20周年からの5年間は本当に自分たちの存在感っていうものを確認できたよ。ずっと貫いているものを持っている同士であれば、ジャンルが違えど強く繋がれる人に沢山会えた。俺はロックもパンクもヒップホップも大好きで、彼らと同じステージに立っていてもすごくハマるし、新しい化学反応を起こして次のムーブメントを起こせるんじゃないかなって気がしてる。

 

HDM:海外と日本の両側で、シーンの第一線に居続けられることがまずすごいですよね。

SIMON:まず言葉が違う、カルチャーが違うからね。オリンピックで言うと種目が違うくらい別のものって感じ(笑)。でも根本的なところで言うと同じスポーツで、使う部分と鍛える部分が違うんだなって思う。それぞれの場に立った時は、単純にその場にいる人たちをどうロックするのかっていう判断と経験でやってきてるよ。上には上がいるし、俺らは全然…特に俺個人は「本当の第一線にいる」って意識はまったく持てないでいるね。

 

HDM:何度も世界を制しても?

SIMON:うん。自分なんてまだまだだなって思う。あとはね、多分俺はすごい飽き性なんだと思うんだけど、そんな俺が長く続けてこれたのが唯一レゲエだけなんだよね。ちゃんと刺激が得られる環境にいることが出来れば、今までの能力をどんどん越えていけるような気がする。多少の不安があった方が、面白がれるし、それまで自分でも知らなかった能力が発揮できると思う。安定をあえて壊していきたいっていうか、冷水と熱湯を交互に入るくらいの刺激が必要なのかも。その刺激を受けて初めて、「あ~、ぬるま湯って最高だな…」って感謝できるし(笑)。

 

HDM:日本で起こったレゲエムーブメントはみなさんの存在がとても大きくて、いわゆるレゲエミュージックの模範的な存在だと思うんですけど、既存のスタイルを提示するわけじゃなくて、レゲエをベースにしたMIGHTY CROWNのスペックをずっと見せてくれていますよね。

SIMON:俺らは90年代からレゲエの現場でずっとヒップホップや他のジャンルの曲をかけてたんだけど、日本のお客さんて生真面目なのか、ジャンルが背負ってるルールが判断材料になってることが多いよね。「こんなのレゲエじゃない」とか「こんなのヒップホップじゃない」とか、もちろん好みもあるんだろうけど、形式的なルールが判断の先に立ってることが多いように感じる。俺らは、そういう人達にも敢えて中指を立てるつもりで「カッコいいもんはカッコいいだろ」って気持ちだけで、レゲエもR&Bもヒップホップも、同じように一緒くたにかけてた。そこが俺らならではの音楽の幅なんだよね。もっとマスによったものももちろん出来るし、ハードコアで勝負しろと言われたらそれが出来る。そういうキャパシティの広さが俺らの個性で、強みだと思ってるよ。

 

HDM:多面的でありたいと。

SIMON:多面的である方が絶対に面白いし、何より自分たちのスタイルがあればどんなジャンルの音楽でも、それが“レゲエ”になるって思うから。それが最近になってようやく掴めてきた感覚かな。俺らはエンターテイナーだし、人を楽しませることが第一優先なんだよ。もちろんMCや選曲でハズすこともあるけど、模索と手応えを繰り返してオリジナルであること、自分もお客さんも面白くあることが一番大事。

 

HDM:日本でのポピュラーな音楽シーンの中で、レゲエミュージックにポピュラリティを持たせるのってすごく骨が折れるというか、それって本当に可能なのかって気がしますよね。海外のポップスとは明らかに毛色が違うし、今の日本のポップスシーンの主力とは…なかなか相容れない気がします(笑)。

SIMON:そうだよね。じゃあ、俺らが現場でAKBをかけるのかって話になってくるもんね(笑)。プレーする事はないと思うけど、それも使い方ひとつのような気もするよね。違和感こそが面白いって考えると、そういう「これ、使って大丈夫なの…?」っていうネタをこちらの手腕でいかに使いこなすかっていうことへの挑戦でもあるから。だって、実際に現場で由紀さおりをいきなりかけたりしたこともあるんだよ。うちのかあちゃんも由紀さおり大好きなんだけどね(笑)。しかも、かけてはみたものの、案の定まったくウケなかったんだけど(笑)。でもね、お陰でどんなネタでも怖がらずに使っていけるのがいいなって思うようにはなったよ。

 

HDM:MIGHTY CROWNも何らかの固定概念に沿っていた時期がありました?

SIMON:うん、あったよ。もうね、寝ても覚めても「サウンドクラッシュのことしか考えられない」っていう時期が10年くらいあった。クラッシュのチャンピオンになること、それしか考えられなかったね。90年代~00年代前半の頃は特にその傾向が強くて、サウンドクラッシュのテープを聴いて眠りについて、サウンドクラッシュの音で目覚める、みたいな(笑)。寝たら寝たでクラッシュやってる夢を見ちゃうから、冗談抜きで頭がクラッシュ浸けみたいになってた(笑)。

 

HDM:スパルタですね(笑)。

SIMON:横浜で生まれ育った俺がレゲエシーンの世界舞台に立ちたいと思ったら、そこまでやらなきゃスタート地点にも辿り着けないって思ってたから。でも好きでやってたことだったから、まったく苦ではなかったね。夢で言えば、90年代にSUPER CATのダブを録りにいく夢をしょっちゅう見てたんだけど、去年ようやく録れたんだよ。夢が現実になったその時は「やっと録れた…」って、なんかこう、夢うつつの感じだったね(笑)。

 

HDM:今のMIGTHTY CROWNはかなりフレキシブルですけど、逆にタブーはないんですか?「さすがにこれはやらないな」っていう。

SIMON:何だろう…無い、かな?例えば「素っ裸でステージには立たない」とか…(笑)。

 

HDM:よりによって何でそれが出てきたんですか(笑)。別にいいじゃないですか、全裸で出たって(笑)。

SIMON:いいの?素っ裸だよ?全裸だよ?いやいやいやいや(笑)。でも、そう言えば今の自分にタブーって特に無いかも。自分が反応することだったら一度はチャレンジしてもいいなって思うから。やってみて「あ、違ったな」っていうことがわかることも大事だと思うし。

 

HDM:レゲエシーンの特異なところって、わりと明確に東西の色が出ているところですよね。

SIMON:西と東って本当にテイストが二分化されてるよね。関西はいわゆるジャパニーズレゲエがすごく支持を得ていて、関東ではそこが弱い気がするね。うらやましいくらい関西はサウンドもアーティストも若手の層がすごく厚いし、色で言ったら関東は海外のレゲエに忠実なサウンドとアーティストが多いと思う。まず、現場でかかる曲が違うもんね。それは客層だったりその土地での空気感とか、いろんな要素があってのことなんだろうけど、俺らの役割としては、ルーツ、ダンスホールというベースを守りながら、ジャマイカ、イギリス、日本、アメリカっていう世界の音楽シーンを通して、みんなが行き来できる為の橋になれたら嬉しいと思う。その為にも俺らはフレキシブルでいながらも、海外マナーっていうものもちゃんと大事にしていかないといけないって思ってる。あと1つ言うなら関東も関西共に昼間と夜のシーンが全然違う。

 

HDM:SAMI-Tさんとはご兄弟でもありますけど、25年間クルーとしていい関係でいられているのも素晴らしいですよ。

SIMON:MIGHTY CROWNって、本当にそれぞれ個性が違うヤツらの集まりなんだよ。性格も考えることも、好きな音楽も。同じクルーなのに「え、何?そのチョイス?その曲わかんない」っていうこともしょっちゅうだし(笑)。それがいいんだろうね。色んなジャンルのアーティストから得られる外的要素と、クルー内からも新しい情報やスタイルを知ることが出来るから。

 

HDM:でもまとまっているように見えますね

SIMON:なんだかんだでね(笑)。あーだこーだ言いながらも、一緒にやれてるからね。揉めて破綻するのであれば、それはそれまでだもんね。

 

HDM:刹那主義ですね。

SIMON:うん、そこはね。でも、そうやって遠慮なくバンバンやり合える関係だからこそ、逆に一緒にやっていけてるんじゃないのかな。

 

02

 

HDM:今年は横浜レゲエ祭も2年振りでしたよね。

SIMON:そう。レゲエ祭が2年振りで、横浜で開催出来たのは5年振りだったね。震災の次の年は会場が取れなくて、その後に2年連続で川崎で開催したんだけど、20回目のレゲエ祭はどうしてもやっぱり横浜でやりたかったから。やっぱりね、横浜でやれたっていうのがすごく嬉しかった。個人的には今までのトップ3に入るくらい素晴らしいレゲエ祭になったと思う。言葉じゃうまく説明できないものが空間に充満していて、レゲエ祭を20年やってきた重みというか、有り難みをすごく感じた。継続してきたことのひとつの節目ではあったけど、更に「これで終わりじゃない」って気持ちが出てきたんだよね。来年、再来年に続く何かを得られた気がするから。

 

HDM:残す今年はどんな動きですか?

SIMON:今年は国内ではあとふたつ大きいイベントがあって。ワールドクラッシュを主宰しているプロモーターと一緒に『JAPAN RUMBLE』っていうデカい国内のサウンドクラッシュを10月29日に企画していて。そこで優勝したサウンドは来年のワールドクラッシュに出れるっていう、日本代表決定戦!あとは12月9日にageHaでMIGHTY CROWN 25周年の締めくくりのイベント第三章を計画しています。海外でも、大きな動きを予定しているので楽しみにしていて下さい。

EVENT INFORMATION

MASTA SIMON|オリジナルであることを渇望するレベルミュージックの世界覇者

『JAPAN RUMBLE -The Road to World Clash 2017-』

日程:2016年10月29日(土)
場所:横浜ベイホール
時間:23時開場開演 / 0時半クラッシュスタート
料金:前売3800円(D代別) / 当日4800円(D代別)
出演:BLAST STAR / EMPEROR / FUJIYAMA / KING JAM / SWEETSOP
お問い合わせ:KM MUSIC 045-201-9999

ローチケHMV 0570-084-003(L-CODE:75701)
RAGGA CHINA 045-651-9018
UNDER INFLUENCE 045-311-9019
TOWER RECORDS横浜ビブレ店 045-412-5601
E.S.P. TRICKSTAR 03-3462-0003

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