写真家“瀬頭順平”海と砂浜に在る人間たらしさ

写真家“瀬頭順平”海と砂浜に在る人間たらしさ

interview by CHINATSU MIYOSHI photo by JUMPEI SETO

夏の海水浴場なんて大嫌いだった。おおよそ社会的とは言い難い、有象無象の人間が密集し、騒ぐわ汚すわ、おまけに泥酔して海に浮かぶ馬鹿が後を絶えない。とにかくやりたい放題。救急隊とパトカーのサイレンが海岸の近くで止まるたびに、早く夏が終わって欲しいと心から願っていたものだった。そんな嫌悪の対象でしかなかったその場所と、そこに集まる人間にひたすら惹かれた写真家がいた。彼は夏が訪れると毎週末、カメラを抱えて海岸へ向かった。泳ぐでもなく、水着の女の子を物色するでもなく、ただ魅力的な被写体や状況に巡り会えることを望んで。そんな彼のフィルムには、その望みが叶えられた瞬間が数多にも収められている。彼が海岸で巡り会った人たちと共有した、ほんの瞬間を少し覗いてみたら、自分の中で信じられないような感覚が芽生えた。「来年の夏は、一度くらいは海岸に行ってみようかな」。

 

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HDM:どうして須磨海岸の人たちを撮ろうと?

瀬頭順平:もともと、須磨駅の近くのカメラ屋さんで知り合った写真家の方と知り合ったのをキッカケに写真専門の夜間学校に通うようになって。その頃は大阪の街にいる人たちの撮影をしていたんですけど、学校に通う道すがらの電車の窓から須磨海岸が見えるんですけど、そこには大阪の街よりも強烈な人たちがいるということに気付いて。「これだ!」と思って。

 

HDM:どう強烈だったの?

瀬頭順平:大阪の街の中で撮っていた時は、「人間が人間らしい顔」をしている瞬間にはなかなか出会えなかったんです。やっぱりどこか…社会を背負った顔をしているので。自分としては、人間の中身が見える方が面白いと思っていたので、須磨海岸にいる人たちの開放的になっている姿がすごく魅力的に感じたんですよね。

 

HDM:そもそも人という存在が好きだったんだね。

瀬頭順平:どうなんだろう?でも僕、家族だけは写真に撮れないんですよ。何て言うか…自分がもう知りすぎている相手だから、探究心があまり向かないというか(笑)。知らない人とは、カメラを仲立ちにして知り合えるというか、カメラを理由にして、「その人とその人の人生時間の一端に入り込める」というのがいいなと思って。

 

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HDM:写真集『WEST COAST』に収められた被写体には、それぞれどう声をかけたの?

瀬頭順平:もう単純に、なんのテクニックも無いですよ。「すみません、撮りたいんです」「いいですか?」「お願いします」ですね。もともと知らない人に声なんて掛けられる性分じゃなかったんですよ(笑)。カメラを始めるまでは、声をかける理由なんてなかったから。

 

HDM:声をかけられた相手の反応って?

瀬頭順平:有り難いことに、ほとんどが快く「撮って撮って!」って感じでしたね。この写真集に収まっている写真は去年までに撮りためておいたものなんですけど、今年の夏も撮影に行きました。

 

HDM:今まででどれくらいの被写体数を撮影してきたの?

瀬頭順平:37枚撮れる35ミリフィルムが…300本と、10枚撮りのブローニーを200本くらいですね。

 

HDM:写真集の頁数に厳選するのはかなり大変だったでしょうね。

瀬頭順平:はい。でも“強い写真”というものは、そうそう撮れるものではないので、写真集に対してはその強い写真からの選別でしたね。

 

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HDM:「強い」というのは、さきほど仰ったような「人間らしい」ということ?

瀬頭順平:そう。そういうものを孕んだ、視覚的、ヴィジュアル的に面白いと感じるものですね。パッと見た瞬間に、写真を見た側の人が被写体の人間性やバックボーン、この時のシチュエーションなんかを想像したり、そういうことに導けるたたずまいというか。

 

HDM:かなり、プライベートな瞬間を撮らせてもらえるのは、写真家の“人間力”でもあるよね。

瀬頭順平:そうだと有り難いですね。海岸でピンと感じた人はほとんど、こちらが求めているポーズにもすごくフランクなサービス精神で対応してくれました。

 

HDM:それにしても真夏の、あのクソ汚い須磨海岸とは思えない美しさがあるよね。モノクロであるというのも大きな理由だと思うけど。

瀬頭順平:カラーでも撮ってはいるんですけど、なんか、まず海をカラーで撮るのって普通というか。ここで撮る写真については、色の情報ってあまり必要ではないような気がしていて。

 

HDM:先程、「自分がピンとくる人間」ということを話してたけど、こういうことを具体的に説明するのは難しいかも知れないけど、どういった人間に惹かれるの?自身の琴線に触れるのは。

瀬頭順平:写真として考えると、まず構成的なところですよね。あとは…そうだな、何だろう。例えば仕草が可笑しかったり、瞬間的に見た印象的な行動だったり。“人”を含めた状況という“絵図”が面白いものに惹かれます。あと、関係性や状況が読めないものに対する好奇心とか。今回の写真集では、特に「ヴィジュアルの面白さ」を求めたものが多いんですけど。

 

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HDM:至極単純な感想だけど…本当に人間っていろいろいるよね(笑)。

瀬頭順平:ですよね(笑)。でも、いわゆる“普通”に見える人たちが、海岸で水着姿になって開放的になって…誰もみんな、普段ならこんなことはしないんだろうなという気がするんですよね。もし、普段の意識でいる彼らに同じように撮影を頼んでも、きっと撮らせてはもらえないだろうなと思うんです。

 

HDM:ここでこそ撮ることができた「人間たらしさ」だね。ここの海岸は何が特別なんだろう?

瀬頭順平:ある意味、自分のそういうところをわざわざ出す為に海岸にいるような気がするくらいですよね。須磨海岸に来る人たちは人懐こい人間性の方が多いですね。警戒心を持って接しないというか。それって、この場所の特色である気がします。

 

HDM:どうしてそんなに人に惹かれるんだろうね?

瀬頭順平:考えてみたこともないですね(笑)。小さい頃から他人に対する興味は強い方だったんです。たぶん、わかりやすいからじゃないかな。当たり前だけど、自分と同じ構造を持った“人間”というジャンルであるし、ある意味、自分の鏡のような存在のような気がするのかも知れないです。須磨海岸という環境と、そこにいる人たちはきっと、僕自身のチャンネルに合うんじゃないでしょうか。自分の性格上、彼らのように半裸になって楽しむことはできないんですけど、そうやって自由に楽しんでいる彼らの側に居たら、まるで自分まで開放的な気分になってくるから。

RELEASE INFORMATION

写真家“瀬頭順平”海と砂浜に在る人間たらしさ

瀬頭順平 / WEST COAST
禅フォトギャラリー
48頁
182×257mm
ソフトカバー
2300円(税込)

[取扱店]
梅田 蔦屋書店
〒530-8558
大阪府大阪市北区梅田3-1-3ルクアイーレ9F
06-4799-1800

渋谷 shashasha
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〒650-0014
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090-6320-9415

ARTIST INFORMATION

写真家“瀬頭順平”海と砂浜に在る人間たらしさ

瀬頭順平

1978年埼玉県生まれ。2004年神戸学院大学薬学部卒業。2012年大阪ビジュアルアーツ専門学校写真学科夜間部卒業。コニカミノルタフォトプレミオ2013年度グランプリ受賞。

近年の個展に、「西海岸」コニカミノルタプラザ (東京 / 2013年)、「2013年度 コニカミノルタ フォト・プレミオ 年度賞受賞写真展」コニカミノルタプラザ (東京 / 2014年)、「コミュニケーション」新宿ニコンサロン(東京 / 2014年)「コミュニケーション」大阪ニコンサロン(大阪 / 2015年)。グループ展「three and eight」禅フォトギャラリー(東京 / 2016年)、などがある。

profile photo by RYUICHI ISHIKAWA

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