節目を称えた“RUEED”5thアルバム『ABANDON』へ込められた意志
2007年に日本最大規模のレゲエ・ミュージック・フェスティバル、『横浜レゲエ祭』への出場切符を掛けたDEEJAYトーナメント、『ROAD TO レゲエ祭』で18歳という若さで史上最年少優勝を果たしたRUEED。あの頃から10年が経過した現在、当時レゲエ業界に彗星のごとく現れた彼は、すでに5枚目のアルバム『ABANDON』をリリースする。このインタビュー時、真っ先に新作への思いを尋くと、即答で「このアルバムを節目に新たなる次章が幕を開ける」と確信した表情で本人は答えた。
HDM:1年半ぶりにアルバムを出しますが、今のお気持ちは?
RUEED:アルバムを出す度にそうなんですけど、すげえドキドキですね。
HDM:本作はご自身にとって節目となるアルバムだとお伺いしましたが、節目というのは?
RUEED:自分にとって5作目となるアルバムなので、ターニングポイントになるかな?って思っています。自分の初心に返りながら、新たに扉を開ける感じです。
HDM:なんだか意味深ですね。アルバムタイトル『ABANDON』の意味は?
RUEED:本当は良い意味じゃなくて、「見捨てる」とか「放棄する」とかになるんですけど、転じると「没頭する」っていう意味にもなるんです。余計なものをシャットダウンして集中するみたいな。
HDM:本作の内容で意識した流れっていうのはあるんですか?
RUEED:レゲエミュージックがベーシックで持っているメッセージを入れたかったから、そういうのを意識しました。個人的に、1回聴いて何を言っているか分からないような複雑な曲もすごく好きだし、レゲエ的なバチってパンチラインがくるような曲も好きだから、どっちも入れたいなって。アルバムの時は流行りとかを気にせず制作しています。
HDM:本作を聴かせてもらってその部分はすごく感じました。一切の流行りを感じない、レゲエ色の強いアルバムだなって。
RUEED:そうだね。中にはレゲエっぽくない曲もあるけど、それは俺も挑戦したかった新しい曲で。音楽は全般好きだけど、俺のルーツにはレゲエが絶対あって、どうしても揺るがない根っこですね。
HDM:アルバム収録曲として超先行で配信された『Love Life Live』や『ASOIBITAI』(※本作ではREMIX ver.収録)はすでにリリースされていますが、ファンの反応はどうですか?
RUEED:どちらもすげえ反応は良かったと思います。『Love Life Live』は今回のアルバムを制作するキッカケにもなった曲なので、沢山の人に聞いてもらえて嬉しいです。『ASOIBITAI』はMAGNUM RECORDSとベテランシンガーのPUSHIMさんとやれて純粋に嬉しかったです。次は個人的にもPUSHIMさんと曲をやりたいですね。
HDM:現在ジャマイカ在住で活躍している日本人プロデューサー、GACHAさんとの楽曲『MAGNUM LYRICS』もかなりカッコイイ曲ですよね。昔から一緒に制作していますが、GACHAさんとの関係は?
RUEED:GACHAは昔からずっと信頼しているプロデューサー。こっちが5言ったことを10で返してきてくれるパワーのある人です。そういう部分も含め、安心して制作できます。なによりGACHAが作るリディムはカッコイイ!
HDM:ミディアム・テンポが気持ちいいレゲエ賛美歌『REGGAE START FIRE』のリリックで「レゲエDEEJAYとは人に何かを伝える為にあり」とおっしゃっていますが、レゲエDEEJAY、RUEEDが伝えたいメッセージとは?
RUEED:ATOOSHIのリリックなんですが、久しぶりに聞いてみたら本当にそうだなと思って。基本的にその時に強く感じてることを歌詞にしてるんだけど、今回は、『Love Life Live』の通り人生を最高に楽しむっていうのが、権利であり課題だし…時間って本当に限られてるので。ROAD TO レゲエ祭で優勝させてもらってからもう10年も経ってて、アルバムも5枚目で…本当あっという間だから、思い立ったことはやりたいなって思います。
HDM:だからこそ、今回のアルバムタイトルなんですか?
RUEED:うん。それも含め色々込めてます。断捨離もそうだし、自分の中でいらないバッドマインドだったりとか…。けどそういうものを1回全部取り除いて、もっと今の自分を楽しむことだったり、仲間やファミリーと良い景色をみたりすることを考えてる方が自分にとってもっとプラスだなって。もちろん知らなきゃいけない真実だったりとか、伝えたい真実とか、もっと知らなきゃいけないことだったり沢山あるけど。俺はちゃんと知っておきたいって思う性だから知るようにしてるけど、それで「バビってんな、この世界」って頭抱えて落ち込んじゃうのも違うし。
HDM:今のお話を聞いて、アルバムタイトルにものすごく強い意思が込められてるんだろうなって思いました。
RUEED:自分でも、あんまり自分がつけるとは思ってもなかったような単語が本作のタイトルになりました。
HDM:最近はあまり自身にフォーカスできていなかったんですか?
RUEED:っていうよりは、『ABANDON』することの大事さを感じたんです。それができたから『Love Life Live』になってるし、今の生きてる瞬間というものに没頭するっていうことができるんだなって。
HDM:なるほど。人生においてのテーマですね。曲作りの時に大切にしていること、こだわっていることってありますか?
RUEED:全部の曲じゃないけど、聴いていて情景が浮かぶような、想像できる部分を残すっていう曲作りを意識してるかも。全部は言わず、100あるうちの80を言って残りの20は聴く人に委ねる、みたいな。
HDM:ロマンチックですね。
RUEED:そういう作り方が好きですね。
HDM:曲を制作するにあたって、インスピレーションを受けているものは?
RUEED:毎日がそうだね。日々何気ないことがリリックの一番大事なところになってたりとか。
HDM:最近一番インスピレーションを受けたことは?
RUEED:兄貴(窪塚洋介/卍LINE)のハリウッド映画の試写会を見に行ってきたことかな。あと、自分も準主役で出演させてもらっている映画『スカブロ』の撮影をやったりとか。この映画もすごくグルーヴがあるからすげえ長いアルバムを制作してるような感覚でした。
HDM:RUEEDさんの地元でもある横須賀を舞台にした映画、『スカブロ』個人的にもすごく公開を心待ちにしている映画です。どういう内容なんでしょう?そしてアルバム収録曲『NICE TO MEET YA』は主題歌にもなっていますよね。
RUEED:元々は映画のオファーをもらう前に作っていた曲なんです。JIGG君にダンスホールを色々聞いて作ってもらったフューチャー・ダンスホール的な感じの音に仕上りました。この曲を作るタイミングで、家族や仲間、女だったり人間関係において助け合いや繋がりの大事さを強く感じてて、この気持ちを1曲で表現したいなって思ってトラック聴きながら導かれたようにスラスラ書いた曲だったからあんまりコンセプトっていう形はなかったんだけど。たまたま映画の内容と曲の内容が良い感じにシンクロしてたんで、監督に聴いてもらったら即答で主題歌に決定してくれました。映画も曲の内容も出会いをテーマにした愛のあるストーリーになっています。
HDM:今回なぜ俳優に挑戦しようと思ったんですか?また初めて映画の撮影をしてみてどうでしたか?
RUEED:昔だったら絶対やってなかったですね。人と同じことがするのが嫌で、兄貴がもうやってることだったからあんまり興味がなかったんです。映画もドラマも見るのは好きだけど、自分が出たいとは思ったことなくて。けど、最近はそういう気持ちが解けてきて、せっかくオファーもらって人生一度きりだしって思ってオファーを受けました。演じた役も素の自分と似ている役柄だったので、演じるっていうよりは自然な感じで撮影することができました。25日間ぶっ通しで撮影して毎日皆と一緒だったから撮影が終わったころには、学生時代の部活動が終わったみたいに、「また、みんなに会いてえ~」みたいな気持ちになりました(笑)。撮影場所も地元だし、皆とワイワイやれてすごく面白かったです。
HDM:撮影中ムズかしかったことはありますか?
RUEED:う~ん、どうだろう。自分的にはすごく自然体で撮影できたつもりだけど、もしかしたらすげえダイコン役者みたいになってるかもしれない(笑)。
HDM:アハハ(笑)!公開予定は?
RUEED:まだ決まっていないんですが春~夏頃には公開されると思います。『スカブロ』是非見てみてください!
HDM:RUEEDさんの演技も含め映画公開楽しみにしています。ここからは少しパーソナルな質問になりますが…。先ほどお話にもでた、ROAD TO 横浜レゲエ祭で最年少優勝を果たしてから10年が経ちましたが、振り返ってみてどうですか?
RUEED:いや~、もう色々ありました。けど10年経つまでに超早くて気づいたら経ってました。
HDM:変化はありました?
RUEED:そうですね。本作のコンセプトにもしてるんですけど、心境の変化としては今の瞬間を強く生きるっていうことです。年を重ねると時間が経つのが早くなるので、瞬間瞬間を大事に生きようと思いました。
HDM:この10年間でご自身もそうだし、世界をはじめ日本のレゲエシーンが大きく変わったと思いますが、昔と今を比べてどう思われますか?
RUEED:ぶっちゃけ、俺が初めてアルバムを出した時には、爆発してたレゲエブームが落ち着いてきてたタイミングだったんで、世界の経済的な部分も含め、シーンとして皆が頭を使う時代に突入してた時代だったから、すごく分かり易い時代になったかなと思います。例えば、アーティストだったら自分の音楽に集中してて常にカッコイイ人は10年経ってもカッコイイままだし、逆に波に乗っかてた部分が強かった人は居なくなってる人もいるし。そういう部分を全部見て、結果自分はブレることなく自分のやりたい様にやってて良かったなって思います。自分の音楽性を変えたこともないし、自分のやりたいようにやってきたことが形になって納得できる作品が出せるようになってきました。シーンとしては色んな捉え方があると思います。CDが売れないとか、ダンスに人が入らないとか…色々あるけど俺にとって根本は変わらないです。CDが売れなくなったからって言うこと変わる訳でもないし、CDが売れるように自分を変えて行くんだったらアイドルと変わらないし。自分は自分の言葉でやってきてるから。この人がどんなことを発信してるのかスポットライトが当たって、逆に分かり易く、見え易くなったかな?と思います。
HDM:シーンはどうであれ、自分は自分というスタンス?
RUEED:基本はそうかも。シーンが盛り上がってくれると一番良いんですけど、結局はそのシーンがどれくらいの規模の村かは分からないけど、その村の中にいるひとりひとりがどのくらい意識を高く持つかで、小さかった村でも物凄く注目される場合もあるし。逆にすごい整った街でもパッとしなくて誰からも興味を持たれない街だってある訳で。各々「個」の力が大事かなと。その中で助け合えれば一番パワーになるなと思っています。誰かが誰かにぶら下がったりとか、頼りっきりだったりとかそういうんじゃなくて、もっと皆で高めあえる関係性。MAGNUM RECORDSはそうなっているかなって思ってます。
HDM:なるほど。個人の時代になっている中でどう力を発揮するかが重要ということですね。ご自身的に新しいチャプターに突入した訳ですが、これからのレゲエシーンの中でどういう立ち位置でやっていきたいと思いますか?
RUEED:今まで居たい場所にいる10年だったけど、そのスタンスはこれからも変わらないです。居たくない場所に自分の身を置きたくなくて。その中で、「RUEEDヤバいよね」「MAGNUMイケてるよね」っていう最前線でカッコイイ存在でいれたらなって思います。自己満でもないし、かといって偉くなりたい訳でもないから。そういうスタンスだけどしっかり皆をボスさせていきたいです。自分がやりたいことは変わらないので。ただ本当に共有できる仲間と音楽したいなっていう気持ちです。元々は、「もっと音楽したいな」っていう気持ちで始まってるはずだよなって思うし。そして誰かのスイッチを自分が押してあげられるポジションでいられればそれで良いです。
HDM:キャリアをスタートさせてから移り変わって行く環境下でブレずに自分を貫くって尋常じゃない精神力だと思います。
RUEED:本当にこの音楽が好きなんだと思う。仮に儲けるためにレゲエをやっているんだったら、儲かる方にシフトしていったかもしれないけど、自分が信じた確固たる音楽があるからだと思う。もちろん進化もしてるけど自分が信じてるヴィジョンがあるからこそ苦じゃないし、逆に自分を偽って変えていく方が苦痛かな。
HDM:これまでに発表してきた作品と、本作品とを比べて伝えたいメッセージなどに変化はありました?
RUEED:ファーストから今を比べると、知識も経験も見てる視野の広さも全然違うから変化は必至なんですけど、本筋のメインストリートは全く変わってないです。本作の変化としては、これまでの想いが濃くなったと思います。昔に比べて淡っかった色のコントラストがハッキリしてきて、よりクリアに自分の意見を言えるようになりました。本作で感じてもらえると嬉しいです。
HDM:本作は、「初心に帰りながらも新たなチャプターに突入した自分を表現している」とのことですが、次なるヴィジョンは?
RUEED:想像もできないようなドキドキでワクワクな世界に突入している感じ!自分と他のモノがくっついた時に起こる化学反応が好きだから、その想像もできないような場所に行って、「さあ、これからどうなる!?」みたいなのを楽しみたい。超ポジティブなマインドで新しいステージに行けることは確信してるから、あんまり不安もないです。
HDM:2017年好調なスタートですね!今年の抱負や目標はありますか?
RUEED:毎年飛躍の年って言ってるんだけど(笑)。今年はアルバムも映画もあるし、色々企んでることもあるから、ますます飛躍の1年になると思います!今年もよろしくお願いします。
HDM:最後に。アルバム、『ABANDON』どんな人に聞いて欲しいですか?
RUEED:聴いてもらう人を選ぶつもりはないので少しでも俺に興味があるって思う人がいれば是非聴いて欲しいです。強いて言うならこれから何かを始める人や、決断をする人に聴いてもらいたいなって思っています。
RELEASE INFORMATION

RUEED / ABANDON
MAGNUM RECORDS
MGR-1006
2700円(税込)
2017年1月11日発売