AK-69|飛翔する“B”ism

AK-69|飛翔する“B”ism

interview by BUNDAI YAMADA

激動の1年の幕開け
2016年はAK-69にとって激動の1年だったと言っていいだろう。AK-69がマネジメント事務所『Flying B Entertainment』の設立を発表したのが2015年9月。それまで日本全国13カ所を回る大規模なホールツアーをインディペンデントレーベルで実現し、その後AK-69が選んだ選択は、更にインディペンデントを掘り下げるというものだった。マネジメント事務所立ち上げについて、AK-69は「玉砕覚悟だった」と話している。

 

「口で言うのは簡単で、今までやれていたことができなくなるかもしれないし、もしかすると撃沈するというリスクもあった。この選択を迫られての決断は、物凄く勇気を要するものだったと思いますね。ただ、俺がここで楽な道を取ってしまったら、単に人気や認知度は上がったとしても、俺の真髄である“反骨心”にあふれた曲から牙が抜けてしまったかもしれない。それに今まで歌っていたことも、あんまり歌えなくなってしまうので(笑)。同じ言葉を歌っていても、スジが通ってなかったら言霊、魂は宿らない。“ぽい”ヤツとか“ぶってる”ヤツは本物には勝てないんですよ。それを見せつける使命感が俺にはある。そこは確固たる意思を俺は持っていたいですね」

 

そして、2016年初頭に『Flying B Entertainment』を始動させ、2月27日、立ち上げ後初となるワンマンライヴ“NON FICTION”を豊洲ピットにて開催。その直前の2月24日に、AK-69は自主レーベルの名をタイトルに冠したシングル『Flying B』を発表する。

 

 

「この曲のリリックの通り、Flying Bの“B”はB-BOY、BAD BOY、B級のB。それがコンセプトのすべてです」

 

『Flying B』は、『IRON HORSE –NO MARK-』『SWAG IN DA BAG』『START IT AGAIN』といった、AK-69の代表的な楽曲を軒並み手掛けてきたプロデューサーRIMAZIと再び組んでの1曲。更に“B”面楽曲『We Don’t Stop』では、フィーチャリングにニューヨーク・ブロンクスのレジェンドFAT JOEを招いている。

 

「この曲はニューヨークにいた時に1番初めに繋がったRYAN LESLIEのマネージャーから連絡があって、FAT JOEがアジアツアーの流れで、日本でプロモーションができないかと。その時に俺らが動いたことに対して、気持ちで『一緒に曲をやりたい』と快諾してくれた。みんなは大金払ってると思ってるかも知れないけど、ぶっちゃけタダだから(笑)。俺がファンだからバースを金で買い取るみたいなことはやりたくなかったし、実現できて嬉しかったですね。FAT JOEがB面かよって話ですけど(笑)」

 

“NON FICTION”の開催を1カ月後に控えたある日。ライブリポートの打ち合わせをFlying B Entertainmentのスタッフとしていた時のことだ。

 

「FAT JOEからAKに連絡が入って、REMY MAとFRENCH MONTANAとの楽曲『All the way up』のMVを撮影するから出て欲しいというオファーがあったんですよ。AKも『We Don’t Stop』にマイメン感覚で参加してくれたこともありましたし、『一瞬映り込むくらいだろうけど』と思ってニューヨークに行ってみたら、メインカットの撮影オファーだったんですよね。ワンマンのリハの最中だったんで、ちょっと今うち(Flying B Entertainment)は全員ハードですね」

 

早速届いたデモ映像を見ると、リップするFAT JOEの後ろにAK-69が立ち、その背後にはヘリと高級車が並んでいる。この時の打ち合わせが、まだ2016年の2月の頭のことだと考えれば、この年AK-69がいかに“We Don’t Stop”を体現した活動を続けていたのかが、垣間見えたに違いない。

 

ak69_fatjoe

 

 

そして2月27日、“NON FICTION”当日。「一夜限りのプレミアムライブ」と銘打った当夜限定のセットで、3000人という記録的な動員だった。この夜の最後にAK-69は夏以降東名阪でZeppツアーをやることを発表した。“NON FICTION”をタイトルに掲げての自主レーベルスタートを飾るステージで、「このツアーでは特別なショウを見せる」と宣言した以上否が応でも次の一手は気になるところだった。

 

2016年の始まりとともに、独立から順調なスタートを切っているかのように見えたAK-69だが、本当の衝撃、その「次の一手」が、まさにヒップホップの殿堂レーベル『Def Jam Recordings』との電撃契約だった。新章の幕開けとしては申し分のない、記録的な動員を実現した「一夜限りのプレミアムライブ」、東名阪のZeppツアーは、新しいストーリーの序章の役割を果たしていたと言えそうだ。

 

TOKONA-Xの意志
「TOKONA-X(以下 トコナメ)がDef Jam Japanと契約して初めてリリースしたシングル『Let me Know Ya・・・』の客演に俺を呼んでくれたんですよね。これが俺が初めてメジャー作品に参加した楽曲で、この曲で歌いかけている相手が今の奥さんなんですよ。それで、今度俺がDef Jamから出した第1弾シングル『With You ~10年、20年経っても~』は、まさに『Let me Know ya・・・』の頃からの10年、20年について歌った曲です。『With You』は俺の中でもちょっと特別というか、印象的な曲で、俺は普段ほぼトラック先行で歌を書くんですけど、この曲は後からオケをつけたんです。シャワーを浴びている時に歌と歌詞が突然一緒に降ってきた曲なんですよね。しかも、この契約が決まる前に。この曲をDef Jamでリリースするというのは、俺にとってトコナメとのレコーディングの話から全部つながっている話です。俺は再三に渡ってトコナメの遺志を背負っているという話をしていますけど、アイツは自分が影響を受けたUSっぽいことをやろうとしていたわけではないんですよ。そんなことは何も意識しないで、ただ“TOKONA-X”として自分全開のヤバいアルバムを作ってDef Jam Japanから出した。それが正当に評価されなかったという思いが俺にはあるんですよね。その悔しさまで含めて俺は背負ってるんです。それで、俺の次のフェイズとして今こそ刀を抜く時だなと思えたというか。これからはまずは日本の音楽業界自体に、B-BOYとして切り込んでいきたいんですよね。ここからだなと思って今はワクワクしています。今は気合しか入っていないです」

 

 

Def Jam Japanとディールしてハマーを買ったという、日本のヒップホップのヘッズの間では半ば伝説化しているTOKONA-X。AK-69がDef Jam Recordingsと契約した背景には、TOKONA-Xへの特別な思いがある。そして、TOKONA-Xほどのインパクトのある存在は遂に出てこないまま、いつしか埋もれてしまったDef Jam Japanだが、AK-69がDef Jam Recordings本隊と契約したことで、再び立ち上がったのである。

 

「俺の契約をもってして日本でDef Jam Recordingsが立ち上がったというのは事実ではありますけど、そもそも契約したからといって、正直お祝いムードでは全然ないですよね(笑)。サインした以上は結果を残さなければいけないですから。それにDef Jamは俺がガキの頃からあるヒップホップの金看板だし、そこには特別な思いがあるので。ただ、そうは言っても、俺は一貫してインディペンデントにこだわってきたと言ってきたわけだし、なぜ今俺がメジャーで打って出るのかということについては、応援してくれているヘッズには直接伝えたいと思ったんですよね。だから、それが今回のZeppツアーの本当の意味ですね」

 

結論から言えば、このZeppツアーは大盛況のうちに終わった。動員、反響ともに申し分のないステージを見せたZeppツアーを終え、そのままAK-69はDef Jam Recordings移籍後第1弾となるアルバムの制作に入る。舞台裏の事情を少し明かすと、この制作期間中は「作っているらしい」「出るらしい」ということ以外に、あまりニュースが入ってこなかった。作品のクオリティに妥協を許さないAK-69の制作は、もっとも難産な時に名曲を生むという印象があり、新たなステージに立ったプレッシャーから、生みの苦しみの日々にいるのではないかと想像していた。だが現実には「もう完成しているらしい」という話を聞いたのとほとんど同時に、最新作『DAWN』の全曲が届いた。

 

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このアルバムは俺の真骨頂
2016年、フリースタイル・ダンジョンや高校生RAP選手権など、フリースタイル・バトルを中心に盛り上がりを見せた日本のヒップホップ・シーン。そしてAK-69が新章を本格始動させた年でもある、2016年の終わりに届いた待望の新作『DAWN』は、キャリア史上もっとも等身大で、AK-69のパーソナルな部分が表現された「抜けた」1枚となった。

 

「まずスケジュール的に11月23日を発売日にしたいと明確に打ち出されて、俺もツアーが終わって間もなかったし、最初は正直『マジで?』とは思いましたけどね(笑)。でも、そこがベストだと言われて、俺らも背水の陣で玉砕覚悟でやっていると口では言いながら、ベストがここだと言われているものに対して、自分の理由でできないとは言いたくなかったんですよ。クオリティとスピードを両立することに関しては、俺のアーティストとしての器量を問われるところだと思って制作に入ったんですけど、自分でも意外なくらいノーストレスでできた。制作期間で言えばいつもの半分くらいですね。今まではプレッシャーと戦ってリリックが生まれるという感じだったのが、今回は純粋に新しい曲を作りたいという気持ちが大きかったんですよ。インタビューでも繰り返し言っていることなんですけど、王座目線から挑戦者の立場に戻って、肩の力が抜けて好きなことをやれたという感じがありました」

 

そう言うと一息つき、AK-69が続ける。

 

「今までヒップホップの世界で『俺はすげえだろ。誰にも真似できないだろ』ということを俺はずっと歌ってきたんですよね。名古屋の本当のストリートから来て、インディペンデントで『The Independent King』『THE THRONE』という王座目線の作品を歌えるところまで来て、武道館でもやりました。もうインディペンデントでぶち破れるところは、ぶち破ったのかなという思いが自分の中であった。俺はキラキラした曲もバラードも歌えるし、ストリートシットも歌える。それを歌っても誰も文句を言えないっていう、それがAK-69たる所以なんで。今に始まったことでも売れるためにやっているわけでもなく、17歳の頃から俺がやってきたことなんですよ。ごく自然なAKの真骨頂をやった感じですね」

 

このAK-69の言葉は、何よりこの作品を聴けば納得ができる。盟友の(ラスボス)般若、さらにUVERworldや清木場俊介といった、これまでは考えられなかったメンツが参加している。そして、この新鮮な顔合わせも、いざ楽曲を聴いてみると、驚くほど自然なコラボレーションとして成立しているのである。

 

「もしかしたらメジャーに行ったゆえの作られたコラボみたいに見えたりするのかもしれないですけど、これは全然そうじゃないんです。UVERのTAKUYA∞も、清木場俊介君も、2人とも繋いでくれたキーマンがそれぞれいて、お互いずっと認識はしていたんですよね。格闘技観戦にいっても、席が近くて目で挨拶をすることがあったり。それで、ある時それぞれとご飯を食べに行く機会があって、話してみたら初めて話すという感じがしないくらい意気投合できた。話をしていておもしろいんですよ。ただ俺もかなりスムーズに楽曲ができていっただけに、結構急ピッチでの制作だったし、両者とも客演自体初めての上に、かなり忙しいのも知っていたので、結構失礼なスケジュールでの依頼になってしまうという危惧があって。いざ依頼したら、『UVERはここぞという時以外は絶対やらないと決めている』とTAKUYA∞に言われたんですよ。この時は、俺も同じだし仕方ないなと。そう勝手に納得していたら、『今がここぞなんでやらせてもらう』と言ってくれたんですよね。清木場君にしても「今すか?燃えますね」って(笑)。海外予定をキャンセルして応じてくれたんです。2人ともスケジュールを無理して時間を開けてくれたんですけど、一緒に曲を作れて最高に楽しかったし嬉しかったですね」

 

 

新しい幕開け
「タイトルについては…最初から『DAWN』(=夜明け)という単語ありきで作っていたわけではないですけど、“新しい幕開け”みたいなイメージは最初からありました。このアルバムの発売日の11月23日は、Def Jamが提案してきた日で、俺が決めた発売日ではなかった。俺的にはどちらかと言えば『マジすか』という感じだったんで(笑)。ただ前日の22日がトコナメの命日で、その翌日の23日、志半ばで散っていったあいつが掲げていたDef Jamの看板を、12年経った今俺が背負って“夜明け”るんだっていう。そういうことが全部、一切俺らが狙って作ろうとしたわけではない流れの中で、自然とそうなっていった。これは運命だったんだなと思えましたね」

 

AK-69はすっきりした顔で言う。この新作には、AK-69のセンスやアーティスト性がこれまでの作品よりも格段に表現されており、誠実に精力的に積み上げてきた活動の上にはこういう世界観が待っていたのかと感動させるものがあった。AK-69の真骨頂は何よりもライブだ。AK-69の新章の幕開けを告げる『DAWN』を引っさげたライブはまだこれからの話である。2017年はAK-69の新章の真骨頂を目撃できる年になる。

 

RELEASE INFORMATION

AK-69|飛翔する“B”ism

AK-69 / DAWN
Def Jam Recordings
通常版(CD)
UICV-1077
3000円(税別)
2016年11月23日発売

AK-69 / DAWN
Def Jam Recordings
初回限定盤(CD+DVD)
UICV-9215
3800円(税別)
2016年11月23日発売

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