合法的な破壊

合法的な破壊

text by CHINATSU MIYOSHI photo by HOSHINA OGAWA / WA2

今回はふたつの最高にカッコいいグラフィティを紹介するよ。その前に、そろそろグラフィティについて「これは正当なアートか否か」という話には、みんないい加減に飽きてきた頃だろうと思う。アートの定義なんて、最悪に馬鹿げたことをこれ以上話すつもりはないんだ。例えばモネの睡蓮は、ある人にはただの鬱屈した植物の絵で、ある人にとっては自分の命よりも価値があるものだと思ってる。同じように、自分の住む町にデカいグラフィティがあることに怒り狂うヤツもいれば、興奮するヤツもいる。もちろんどちらもしなくて、無関心なヤツも。人の美意識や価値観なんてそんなものだし、それでいい。世の中の誰も了解していないのに、いつの間にか街じゅうに無造作にばら撒かれたダサい広告の方がよっぽどムカつくけどね。ところで、今回のエキシビジョンは本当に最高だった。これらを手掛けたすべてのライターと主催者の面々に敬意と、あとは残念ながら見に来ることが出来なかった皆に、心からの同情を送るよ。

 

 

西成WAN(西成ウォールアート日本)第3弾

 

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サイズの違いこそあるけれど、地域発展のプロジェクトの一環としてフリースペースになっていた壁に描かれた壁画はわりとそこらじゅうで見かける。それらを手掛けるのは大抵、地元の幼稚園児やアート系の専門学校に通うアーティスト志望の学生が相場だ。先に言っておくけど、幼稚園児たちが描いたお絵描きは微笑ましいし、あれを毛嫌いする人なんて多分いないと思う。可愛いしね。だけど、その目的がエリアに人を呼ぶ、それ以前に話題性を持たせるということなら、あれほど不向きなものは無いと心から思うよ。何故かって言うと、可愛い小さな子供達が描いたチューリップや家族や犬の絵を見に来るのは、せいぜい親とママ友あたりが関の山だから(よくて叔母どまり)。おまけに彼女たちですら、一度見に来たら二度と来ることはない。それって、例えばファミリー写真館で自分の子供が見本モデルとして飾られたようなものでしかないから。そういう絵たちの末路はどれも同じで、人の興味と同じスピードで風雨に晒されて白け、薄れていくだけ。だから、同じく地域の発展を目的として立ち上げられたプロジェクト『西成WAN』がチビッコ達の絵ではなく、“グラフィティ”を選んだというのはかなり得策だと思う。

 

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VERYONE

 

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SUIKO

 

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CASPER

 

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HIZE

 

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DELS4

 

西成WANは、「SHINGO★西成を総合プロデューサーとして、グラフィティ・アーティストと地域が協力して街へアートを描いていくことにより、西成のイメージアップと、来訪者の増加を目的」としている。グラフィティは世間ではまだまだマニアックなものとされているし、もっと言えば犯罪の象徴のように言われたりもしている。だけど、マニアックなだけディープな愛好家が世界中にいて、彼らはイケてるグラフィティの為なら何処にでも足を運ぶ。美術館が選ばれた一部の人間だけのものだとしたら、ストリートが聖地のグラフィティは世界中のみんなのものだ。はっきり言って、この素晴らしくクールなグラフィティが描かれている地域は、駅を降りてから(もっと言うと駅のホームから)ずっと非社会的な空気が充満しているし、日中の酔っぱらいなんて序の口、ヤクザの事務所はあるし、全力疾走してくる海パンにゴーグル姿の男の自転車に轢かれそうになったりもする。どれだけ口当たりの良い言葉を探してみても、環境だけ見れば良好とは言えないと思う。それと同時に、この場所に降りてその空気を感じることが、プロジェクトの発起人が選んだこの“グラフィティ”という方法が如何に正しいかを証明している。これほどこの街に似合うものは、他には無いからだ。ここにはパパやママは来ないかも知れないけど、噂を聞きつけた沢山のギャラリーがこの地を訪れていることだけは確かだ。

 

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JOE

 

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KICHI

 

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LOVE ATTACK

 

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MIZYURO

 

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ZENONE

 

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QP

 

 

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大阪南港のウォーターフロントにあるギャラリー『CASO』では、有名無名問わず多くのアート展覧会が開催されているけど、今回、6日間だけ開催されたグラフィティ・エキシビジョン『COLOR exhibition』はギャラリー史上、最も異色だったのではないだろうか。デカい倉庫をリノベーションしただだっ広い無機質な壁を、国内そしてスペインから参加した総勢16名のライター達がグラフィティで埋め尽くした。エントランスを抜けて一歩足を踏み入れると…これは決してオーバーリアクションじゃなく、その想定外のスケールに最初のフロアからビビりっぱなしだった。今回選ばれた16名は、あるライターの言葉を借りて言うなら、世界中でちゃんとその名を“刻んでいる”生粋のグラフィティ・ライターばかりだ。ライター1人につき壁1枚。このクソデカい“オフィシャル”のグラフィティ・エリアは、本当にストリートの一角の空気をそのまま保っていた。

 

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JOE

 

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WA2

 

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VERYONE

 

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SUIKO

 

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QP

 

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MIZYURO

 

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MALCH

 

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LOVE ATTACK

 

これだけのインパクトと主張を見せつけるだけ見せつけて、6日後にはまるで何事も無かったかのように塗り潰されてしまう(街の清掃係にではなく)という、とても刹那的な存在であるということも、この作品とエキシビジョンの大きな価値だと思う。今回集まったライター達がどれほど独特の感性を持ったクールなアーティストであるかは、グラフィティに関する知識があろうと無かろうと、彼らの作品を見ればすぐにわかるものだったし、そこで得たインスピレーションや衝撃を言葉や活字で現そうなんて小賢しい方法が及ばないほどだった。もしもこの絵がある日突然、自分の暮らす街に現れたら…。ちなみにこれは余談だけど、今回のエキシビジョンではTVメディアの取材も入ったそうなんだけど、取材クルーはライター達の“顔”を撮るようなバカな真似はしなかったと聞いたよ。

 

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ZENONE

 

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CASPER

 

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KICHI

 

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YIPS

 

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DELS4

 

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FISH

 

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FORM

 

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HIZE

 

今回紹介したふたつのグラフィティは、リーガルとイリーガルの潮流が、それが一時的にでも合流したようなものだと思う。わかりにくかったら、例えばトムとジェリーが握手している様子でも想像してみて。これは合法的な破壊だ。ライター達はテロリストじゃない。警察と追いかけっこしながら(時々は捕まりながら)、それでも必死にスプレー缶を持って街中を走りまわるのは、制限の無い場所で自分の作品をすべての人に見せたいからなんだと思う。それがこのアートの表現方法のひとつだから。見たくないという人は目をつぶるか、それらを消すための“スプレー缶を持って”彼らの後をずっと追いかけていくといいと思う。

 

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