裸絵札|狂人か詩人か 愛か暴力か
ヒールが時に英雄になる要因は、その言動の内容は様々だけど、根本的な部分では「誰もができなかったことをやってのけた」という強かさに対する羨望が培養されたものなんじゃないかと思う。だから、まるでビニールドールみたいなあの大統領も、あえてここで名前を晒すのは控えるけど、世間をたっぷりと騒がせた彼や彼女も、ある一部の人間の目には「越えられないラインを越えた」偉人のように映るのかも知れない。裸絵札(はだかえふだ)という3人組は間違いなく異端で狂人の部類に入ると思う。本人たちはそのことにあまり自覚的ではないようだけど(何故なら彼らはとてもソフトなナイスガイだから)、発禁ギリギリ…もはやアウトラインのど真ん中を平然とした顔で歩いてる。彼らが歌うのは愛でも平和でも暴言でも無く、音として発されている“何か”だ。人は愛したいし、愛されたい。優しくしたいし、優しくされたい。本当は、そういう人間になる努力だけをするべきなんだろう。だけど時々、堕落や狂気まで受け入れてくれる存在にこそ、信じられないくらいハマってしまうものだ。
HDM:裸絵札のジャンルって、ヒップホップのカテゴライズ?ライブを観たら衝撃を受けると思うんだけど、あれはもう演説のようで、ライブというより独演会のようなショーだったよ。
マチコ(VOCAL):僕は…ヒップホップのつもりでやってはいるんですけど(笑)。ヒップホップって言いたいです。言わせて下さい、お願いします(笑)。
神事(DJ / TRACK MAKER):始まりはお互いヒップホップやしな。
マチコ:でもお互いが持っている、いわゆる“ヒップホップの定義”っていうと堅苦しいけど、そういうの未だに一致してないよな?
神事:うん、でもそれがいいんやろうけどね(笑)。
HDM:アルバムの作り方も、歌…というか歌詞があるものとトラックのみのインストの両方を入れているよね。ボーカル、トラックメイカー、それぞれのパートがここまで独立して見えるのってちょっと珍しい。
マチコ:今は、ボーカルとDJ、ギターの3人編成でやっているんですけど、バンドというのとはまたちょっと違うかも知れないですね。本当に、それぞれが独立して好きにやっているのがうまくまとまっているというか。
神事:僕はイントロには特にこだわりがあって。ずっとヒップホップを聴いてきたんですけど、19歳くらいの時に観たハードコアのライブにすごい衝撃を受けて。ライブそのものの独特の空気感とか、バンドが持ってるパワーはほんまに凄まじいって思う。ライブがいよいよ始まる、もうすぐバンドがステージ上に現れるっていう高揚感を高める為に流れるオープニングの重要性を感じてから、自分たちのアルバムを作る時もその“スタートの合図”となるイントロを大切にしてます。
HDM:これは、裸絵札の最たる魅力のひとつとして言うんだけど、すごく…何ていうか“暴力”の匂いがするバンドだよね。
マチコ:暴力ですか…でも、あの、僕たちは「非暴力・非営利」のバンドなんで(笑)。でも、この彼(神事)はね、まさに暴力を具現化したような人間なんですけどね。
神事:いやいやいやいや、ちょっと(笑)。僕は裸絵札以外のアーティストのトラックも作っているんですけど、確かに裸絵札で採用されるトラックは攻撃的な雰囲気のものが多いのかも知れない。だからって、僕ら自身が普段から攻撃的なわけちゃいますよ(笑)。でも、自分の中にある攻撃性みたいなものは、裸絵札でやる音楽で出せているのかなって思いますね。
HDM:前回のアルバム『孕』のジャケット写真にしろ、ライブのスタイルにしろ、歌詞にしろ、もの凄く挑発的だよ(笑)。
マチコ:あっ、あのハメ撮りのジャケットね(笑)。でも、いや…それっぽい感じにしてるだけなんですよ。…っていうことにしときましょう(笑)。
HDM:でも確かに、ライブで狂乱していたのと同じ人物とは思えないくらい、いま目の前にいるあなたたちはすごくソフトだね(笑)。
マチコ:歌詞とか曲のタイトルも挑発的かも知れないですけど、どちらにもたいした意味なんか無いんですよ。特定の誰か、何かを指してディスしたり賞讃したりするのは、あまりにも僕の勝手すぎると思っていて…。
HDM:そんなこと考えてるの?
マチコ:だって、マイクを持っている僕が人に向かって「これはこうや!」って言い切るようなことをすると、ギターとDJの2人も同じ思想やと思われてしまうでしょ。そんな迷惑はかけれないです。
HDM:何という協調性(笑)。
マチコ:ハハハ!リリックもね、あれは自分の感情とかテンションを鼓舞する為だけに構成された言葉や単語であって、たいした意味もなければ、観ているお客さんたちがいちいち聴き取れなくてもいいんです、別に。
神事:お客さんは「こいつは何を叫んでるんだ?」って必死に聴き取ろうとしてくれているんやけど、結局「何を言ってんのかわからへん」ってなってる。もっと言うと、僕もマチコが何を言ってるかわからん(笑)。
マチコ:(笑)。何か…ふわっと、所々で聴き取れた単語をかいつまんで、好きな世界観を作ってくれたらいいなってくらいですね。どのアーティストでもリリックが全部聴き取れる曲もあれば、単語拾うくらいしかできない曲もあるじゃないですか。聴き違えで聴こえてる場合も。でも、めっちゃカッコいい曲ってやっぱりめっちゃカッコいい。何を言っていようと。僕は言葉を羅列していって、意味が繋がっている場合もあれば、ただリズムの心地良さで言葉を繋いでいる場合もあって。ただ、ポイントというか、ここでこの言葉を置いたら効果的なんじゃないか、ということは考えます。これは…人に言ってもあまり理解されないかも知れないんですけど、音に色がついて見えるんです。
HDM:それは、暗い言葉にはダークカラーとか、そういう感じで?
マチコ:うん。これは赤紫っぽい言葉やなとか。それに合わせて色の相性がいい言葉を探していく、そうやって遊んでいる感じです。
HDM:ペイントしていく感じなんだね。
神事:僕らは曲を作る時、3人で話し合ったりしたことが今まで一度もないんですよ。僕がまずトラックを作って…僕の場合は彼(マチコ)とは反してメッセージ性を持った音を作ることが多いんです。その仮トラックをマチコに渡して、それにリリックが乗るという単純な流れなんですけど、僕は、彼が書いたリリックをまともに読んだこと一度も無いです。
HDM:一度も?トラックにイメージやメッセージがあるのに共有しないの?
神事:一応伝えたりはするんですけど…(笑)。今回リリースしたアルバム『Selfish』にも、嫁のお腹の中にいる赤ちゃんのエコーを見た時の感情で作ったトラックがあるんですけど…
HDM:どの曲?
神事:『fuckばっかするトラップ』ていう曲なんですけど…
HDM:ハハハ!1ミリも伝わっていない(笑)!
マチコ:苦笑。
神事:いやいや、でもね、それがいいんですよ。それが面白くて12年も一緒にやってきたから。むしろ、それが楽しいんです、僕は。
HDM:ライブで「僕らはこのままいく」って言ってたけど、知名度をあげていく手段としては世間と相反し過ぎているよね。
マチコ:そうですよね(笑)。前のアルバム『孕』は、タワレコは視聴機でレコメンドしてくれていたんですけど、その他の流通は厳しかったですね、やっぱり。
神事:ジャケットもそうやし、歌詞も過激すぎるからラジオではアカンって言われたしな。
マチコ:カラオケも決まっていたけど、歌詞を送ったら「内容が適切ではありません」ってナシになった。
HDM:ムカつくね。でもそれって予想できたことだよね(笑)?なのにそのスタイルでやるって最高だと思う!むしろ、先日のワンマンでのMCでマチコさんが「俺らはこのまま売れなアカンから」って言っていたのを聞いた時、「こんなことしてるけど、売れようとはしているんだ!」ってことの方が衝撃だったよ(笑)。
マチコ:ハハハ!そんなの、僕らハナっから売れる気ですよ(笑)!世間の倫理や良識に準じれるものなら是非とも準じたいんですけど…そんなスキルも無いんでね。僕が見てきたものでしか話せないけど、やっぱり、めっちゃカッコいいなって見てた人でも、世の中に広く受け入れてもらうことが“売れる”ということなら、もともと持っていた濃度は薄めていかないといけないんだってことを目の当たりにすることがあったので。そう思ったから「この濃度を保ったままだと、いったいどこまでいけるんやろう?」というのを見てみたい。これを保ったままもし大きな潮流…フィールドに乗ることができたら、すごい面白いことになるんじゃないかって気がして。
HDM:ワンマンでは沢山の人が来ていたけど、凄くマニアックなお客さんから、一見ノーマルに見える人まで来てたよね。無味無臭では無い、濃度の濃いものを欲している人があれだけいるっていうのは、そのチャレンジをやる価値を見出せたんじゃない?
マチコ:嬉しかったですね。当初は、あれだけのお客さんを集客するのは僕らには絶対に無理やって言われてたんです。でも、結果を見たらあの状態だったわけで。このテンションを維持して、少しずつでも幅を広げていけば、薄めることなくいけるのかも知れないって。メジャーフィールドがどういうところなのか、ちゃんと理解していないところもありますけど、どちらにしてもレーベルや世間が作ったシステムの中にいることで叫びたいことが叫べないというのは違うと思う。“ファック”も“バビロン”も、精神性が独立している状況でこそ言えるものだと思うから。
HDM:ライブには80歳になるマチコさんのおばあちゃんも来てたね。ステージに上げてあげた時、嬉しそうだった。爆音で曲が始まる前に、ちゃんと退避させてあげたりもしてさ(笑)。
タクミ(GUITAR):でも、マチコはそこからテンション振り切っておばあちゃんの目の前で全裸になってたし(笑)。(ライブ終わってからも)「スピーカーの上にのせたチンコが冷たかった」って言ってた。
マチコ:ハハハ!あのライブの感想がそれだけって言うね(苦笑)。おばあちゃんも(呆れて)「あ~あ~」って言ってたって。