JAKEN a.k.a CORNBREAD|レゲエミュージックの体現者
自らを「生きるダンスホール」だと言うレゲエダンサー、JAKEN a.k.a CORNBREADが、まだ広く認知されていないであろう「ジャマイカ」「レゲエ」「ダンス」について、貴重なその全貌を映像化したドキュメンタリーシリーズの第3弾DVDをリリースした。『JA to JA』と名付けられたこの作品は、「JAMAICA to JAPAN・JAPAN to JAMAICA (ジャマイカから日本へ・日本からジャマイカへ)」というタイトル通り、日本とジャマイカを繋ぐ彼のストイックにレゲエを追求したジャマイカでの生き様が綴られている。ジャマイカ発祥の音楽に、人生の大半を捧げているJAKENの半生と本作品について話を聞いた。
HDM:レゲエとの出会いは?
JAKEN:中学生の頃に地元の先輩の影響でヒップホップやレゲエを聴き始めて。最初はラップをしたり、デモテープを作って学校で配ったりするっていう遊びをよくしてた(笑)。それから徐々に音楽の好みがレゲエになってきて、そして知らない間にDEEJAYになってた(笑)。
HDM:ラップにDEEJAY…もとはダンサーじゃなくて歌い手になりたかったんですね。
JAKEN:音楽の才能は全くなかったんだけど、とにかく「俺も歌いたい!」みたいな気持ちがあったんだよね。高校生になるとバイト代は全部レコードにつぎこんで、気づいたらセレクターもするようになってた。なんなら歌いながらレコードもプレイしてたよ(笑)。
HDM:器用ですね(笑)。ラップにDEEJAY、セレクターを経て、今はダンサーとして活躍されてるわけですが。
JAKEN:『DIWALI』リディムとか、ELEPHANT MANの『WILLIE BOUNCE』とかが流行った頃に、レゲエには“踊り”もあるのを知って、もうとことんレゲエにハマってた俺はダンサーになりたいとかじゃなくて、最初はただ純粋に踊れるようになりたいと思って。
HDM:そこからレゲエダンサーになろうと思ったのは?
JAKEN:その頃くらいから友達6人でポジティブクルーっていうフロア踊り集団を作っていろんなダンスに遊びに行っては踊りまくってたんだよね。でも女の子がブースの前で踊ってる分にはいいけど、男6人が占領して踊りまくってたから、あからさまに嫌な顔とかされてた。今思うと本当に迷惑だったと思う(笑)。
HDM:確かにむさ苦しいですね(笑)。
JAKEN:その時のお客さんの迷惑そうな反応で学んだことがひとつあるんです。
HDM:学んだこととは?
JAKEN:クラブで「お客さんに邪魔だと思われちゃうダンサー」について。それって、踊ってる人達の気の使えなさだったり、フロアでの立ち振る舞いだったりが原因なんだけど、邪魔だと思われないこともダンサーの“実力”だと思ったんだよね。その時の状況、お客さんの反応、ダンスホール全体を見てうまく巻き込めなきゃダメってこと。
HDM:なるほど。
JAKEN:それと、どうしてもサウンドマンの顔色を伺ってアピールしようとするダンサーも多いんだよね。サウンドマンに向かって踊っても、お客さんに背を向けた時点で誰も自分のダンスなんて見てくれないし、サウンドマンも「お前のダンスみてもしょうがねえから」ってなっちゃうじゃん。ダンサーは、サウンドマンに背を向けてブースの前で、サウンドマンが曲をかけてる気持ちをお客さんにダンスで伝える。サウンドマンもそれをダンサーに求めてると思うし。各々の役目があって協力しながらダンスホールは作っていくものだから、自分のことを「ダンサー」と名乗る人はそれを意識しないといけないね。
HDM:ダンスホールを盛り上げたいっていう気持ちが伝わりました。
JAKEN:言い過ぎたらエゴイストだと思われちゃうからアレだけど、本当は伝えたいことがいっぱいあります(笑)。
HDM:「レゲエダンス」の特徴を教えてもらえますか?
JAKEN:これはダンスに限らず、“レゲエ”全体に言えることなんだけど、まず、レゲエの音の基本は8ビートで裏打ちリズムなんだ。レゲエダンスが独特で難しいのは他ジャンルにはないこの音の取り方で、表拍じゃなくて裏拍から入るんだよね。このバックビートはとっても重要で、適当なタイミングで音を取ってるように見えて、ダンサー、アーティスト、サウンドのMCで上手い人たちはみな裏拍から音に入ってるんだ。
HDM:それは自己分析ですか?
JAKEN:そう。ジャマイカに行って他のダンサーが踊ってるのを見て気付いた。全部裏拍からカウントしてる。例えば、ダンサーでなんとなく音と合ってなくてタイミングがダサく見える人っているじゃん?それはきっとカウントの取り方だと思うんだよね。
HDM:なるほど、そういう仕組みになってるんですね。
JAKEN:これは結構トリックだと思う。レゲエの一番の特徴だね。
HDM:自分自身のスタイル、特徴を教えてください。
JAKEN:人生をかけた生きるダンスホールそのもの。俺はダンスホールを基準に物事すべてを考えちゃうんだよね。
HDM:立派な社会不適合者ですね(笑)。
JAKEN:そうだね(笑)。辛いことがあった時とかもレゲエを聴いて、このアーティストがこう言ってるならそれでいいんだよなって言い聞かせたり。それは勘違いかもしれないけど、その勘違いが自分にとって前向きになれるんだ。音楽と共に生きていく。レゲエミュージックの背景もそうだし、自分のライフスタイルが音楽に反映してるんだよね。だからそういう意識でいないと、ジャマイカ人と同じ目線になれないし。ダンスだけじゃなくて、ライフスタイルから俺はレゲエなんだ。
HDM:もはや日本人じゃなくてジャマイカ人ですね。
JAKEN:うん。ジャマイカに行った時もジャマイカ人の基準に合わせて生活をしてる。彼らのダンスのインスピレーションって何気ない生活から全部きてるんだよね。例えば、骨折したら骨折のダンスを作ったり(笑)。普段の生活の中にヒントは全部あるんだ。
HDM:例えば?
JAKEN:ジャマイカ人が作るダンスって、ひとつに対していろんな意味が込められてるんだよね。「BAD」って言葉ひとつに対しても「俺らはゲットーで育って仲間の死も経験してるけど、そのツラさに負けない『強い=BAD』な心を持ってる俺らの『血筋=BLOOD』は強いんだ」っていう意味で、「BAD BLOOD」っていうダンスが生まれたり。一見ふざけてるように見えるダンスでも、そこには深い意味がちゃんとあるんだ。レゲエには沢山のダンスがあってそれを覚えて踊るのも良いんだけど、ひとつのダンスの意味を理解してどれだけ応用できるか。実際にジャマイカ人って、ひとつのダンスを作ったらそれしかやらないんだよね(笑)。でも、どんな曲にもハマるように踊る。それがカッコいい!
HDM:なるほど。
JAKEN:それと、俺がすごく意識してることは、曲の歌詞や意味を体現して全魂を入れる。身体だけじゃなくて心がないと伝わらないのがレゲエだから。例えば、「GUN」っていうワードが歌詞にあったら、わかりやすく銃を操作する真似をしてみたりだったり。自分の踊りを見てくれる人にどうやったら伝わるかなっていうのを一番に考えてる。
HDM:オリジナルダンスを作る時にインスピレーションとなっているものは?
JAKEN:裏拍で音をカウントする!それと他に無いようなダンス。常にそれを意識してる。
HDM:やっぱりそれが法則なんですね。
JAKEN:それが人の心をくすぐるタイミングなのかなと。それができるようになれば、現場でのボスを生むタイミングも増えるはず。
HDM:ところで初めてジャマイカに行ったのは?
JAKEN:19歳の時が初渡ジャマ。その後、ジャマイカのシービューっていう場所に1人で3ヶ月滞在して、ジャマイカ人と同じ生活基準で生活した時に学んだことがすごく多かったんだよね。自分の人生で一番影響を受けた3ヶ月だった。それが今の自分を形成したルーツだね。
HDM:ジャマイカではどんな生活をしているんですか?
JAKEN:基本的にはジャマイカ人と同じ基準で生活してるよ。俺はスタジオに行ってワークショップを受けるより、そいつらのコミュニティに行って遊びながら同じヴァイブスをキャッチしてダンスを一緒にやりたいんだよね。鏡なんてなくたっていいから。その方がスタジオで習うより多くのことが学べるし得られる。
HDM:本場ジャマイカでジャマイカ人と踊るのはどういう気持ちなんですか?
JAKEN:毎回ジャマイカへ行くたびに挑戦の気持ち。彼らはずっと進化し続けてるから、俺が日本で進化した部分を見せれなきゃダメ。向こうに行ったら1~2週間で日本に戻ってた期間のブランクを埋め直して、ジャマイカ人と同じマインドになることを心がけてるよ。
HDM:DVDのチャプター『DAY6…挑戦と復縁?』で、ジャマイカのメンズダンサーが群がってる輪の中にJAKENさん1人で入っていくシーンがありましたが、すごい根性だなって思いました。
JAKEN:タイトル通りあれは本当に俺の中で“挑戦”で、「ジャマイカの大御所サウンドSTONE LOVEのダンス『WEDDY WEDDY』で、日本人のダンサーが真ん中に立ってボスるところを絶対見せてやる!」っていう気持ちがあった。最初は全然できなかったし、今もタイミングを作るのに試行錯誤してる。特にメンズダンサーだけになると、あの輪の中は戦場だから(笑)。輪の中にもそれぞれ縄張りや立ち位置とかがあるから簡単に真ん中に立つことはもちろんできない。だから、まずはそこに敬意を払って彼らのダンスを一緒に踊って、そこからチャンスを伺って前を仕切ってるダンサー達がハケる一瞬の隙を狙ってダンス決めれたんだよね。
HDM:なかなかできることじゃないですよね。
JAKEN:トップダンサー達のもの凄いヴァイブスに気迫負けしないように、常に気合い入れてヴァイブスを全開にしてるよ。
HDM:ジャマイカでもダンサーとして認知されるようになったキッカケって?
JAKEN:ちゃんとジャマイカ人のコミュニティで生活してリンクする。昼に街で踊ったりしてると、やっぱり日本人だから珍しくてすごい人だかりになったりするから、そこで顔と名前を覚えてもらってダンサーとして認知してもらったり。前に、ジャマイカのテレビ番組が主催しているダンスに遊びに行ったら突然ダンスクラッシュに参加させられて(笑)。結果優勝してそれがTVで放送されて、街歩いてたら知らない人に声かけられまくったりして一躍有名になったことがある(笑)。
HDM:アメリカンドリームならぬ、ジャマイカンドリームですね(笑)。
JAKEN:突然予期せぬことが起こりまくるよ、ジャマイカは(笑)。
HDM:ジャマイカのダンサー界で勝ち上がって行く為に必要なことは?
JAKEN:やっぱりウジウジしてたらダメだね。胸はってカメラの前でちゃんと踊れなきゃナメられる。下手だろうが上手かろうが胸をはって踊る!でも、どうせやるなら上手くなりたいし、だからこそ自分のオリジナルダンスを作って勝負したいと思ったんだ。なんなら次のジャマイカでまたあっちのアーティストと曲を作って、それをダンスでかけてもらって踊りたい。そして全員踊らせたいね。
HDM:本作で3作目となるDVDを出そうと思ったのは?
JAKEN:自分の活動をSNSだけであげるより作品として形に残したくて。アーティストは曲を作って、CDを出して、世に作品を残すけど、ダンサーはダンスを作ってもそれが作品として残ることってそんなにないなと思って。俺は自分をダンスで表現して作品をどんどん作っていきたい。
HDM:DVDの内容について教えてください
JAKEN:『JA to JA』って謳ってるくらい俺っていう人間はやっぱりジャマイカありきで、自分が体験したことを綴ったドキュメンタリー映像。ジャマイカの文化やレゲエの現状だったり、ダンサーがどういう所で練習してたりだったりとか。ジャマイカに行ったことがない人達にリアルなジャマイカを、行ったことある人には俺がジャマイカでどういう活動をしてるのかが明確にわかると思います。
HDM:DVDには裏タイトルがあるとか?
JAKEN:そう。「UP DEH(アップ・デ)」が裏タイトルで、これは俺の作ったオリジナルダンスの名前。直訳で「常に上にいる」って意味で、気持ちの面や、ポテンシャルも高いって意味があって。深い意味になると、俺はジャマイカで自分のオリジナルダンスをジャマイカ人にも教えてみんな俺のダンスを踊ってくれるんだよね。向こうから教えてもらうだけじゃただの真似事で還元できないし、逆に真似させる位の立ち位置にいる、それくらい『JA to JA』のポテンシャルを持ってるっていうメッセージも込めてるんだ。
HDM:なかなか思いつかない逆の発想ですね。
JAKEN:そう。ジャマイカから日本へ、日本からジャマイカへ。だから『JA to JA』なんだ。
HDM:短いタイトルにこんなに深い意味があったんですね。DVDの見どころは?
JAKEN:見どころしかありません(笑)。俺が生活したコミュニティの地域密着映像で、その地域のアーティストがその場で俺だけの為に歌ってくれてるシーンだったり。アーティストからレスポンスのあるダンサーっていうのを俺は築いてきたから。それがどういうことなのかは、分かる人には伝わると思う。あとは、ジャマイカの子供達が日本語を覚えてたりとか(笑)。それも日本からジャマイカ。JA to JA!
HDM:撮影中に起こったハプニングや裏話ってありますか?
JAKEN:カメラマン兼ディレクターの人が突然いなくなっちゃったことかな(笑)。本当は去年の夏にDVDリリース予定だったんだけど、半年以上延びちゃいました。誰も予想してなかった大ハプニングでした(笑)。
HDM:撮影中にあった思入れのあるエピソードもあれば教えてください。
JAKEN:自分の絵がジャマイカの壁に描かれたことかな。しかもその壁はアーティストしか描かれてない壁だったんだ。そこに、「お前のダンスはアートだ」って言われて自分の絵を描いてもらってすごい感慨深かった。
HDM:本作の上映会も開催されるんですよね?
JAKEN:はい。東京で予定しています。詳細は近日発表です。是非、ジャマイカのリアルなダンスドキュメンタリー、「JA to JA vol.3」観に来てください!
HDM:現在、日本のレゲエシーンにおいて、JAKENさんはかなり重要なポジションにいると思いますが、今後の日本のシーン拡大について、どんな課題があると思いますか?また目標はありますか?
JAKEN:俺は今まさに「拡大していく」ってことしか考えてないんだよね。課題としては、レゲエダンスって他のダンスには無い動きばっかりなんだけど、きちんと基礎もあるし音の刻み方もあるんだ。その独特なダンスを追求して極めて、日本のダンススクールにヒップホップやジャズに並んで“レゲエダンス”っていう項目を公式に作って広めたい。それくらいレゲエダンスはヤバいって思ってやってるし、一番パワーや生命力がある音楽だと思う。それをダンス業界で認めさせたい。
HDM:若いダンサーさんが沢山増えてきていると思いますが、なにかアドバイスなどありますか?
JAKEN:まず、フリだけ覚えて踊ってもレゲエダンサーになれないってことだね。それは俺が直接感じてきたこと。ちゃんと自分の生き方を体現したダンスをして欲しい。色んなジャンルのダンスを踊れるのもすごくカッコいいことなんだけど、ちゃんとひとつのものに筋を通す。レゲエダンスが踊れても、そいつからジャマイカの匂いがするかっていうのは別。何を踊ってもダンスホールになるようなダンサーが増えてきて欲しいかな。あと、語学力は必須。世界を目指してるなら特にね。ダンサーはダンスでコミュニケーション取れるって思ってるかもしれないけど、踊ってる曲の意味くらいは絶対理解しなきゃダメだね。
HDM:逆に、JAKENさんがダンサーとして尊敬・憧れている人はいますか?
JAKEN:ジャマイカ人のダンサーには本当に感謝してる。あいつらの環境があってから生まれるダンスがレゲエで、あいつらそのものがレゲエ。ジャマイカのダンスでヒップホップの曲がかかってジャマイカ人が踊ればレゲエになるし、それくらい唯一無二のダンススタイルなんだ。例えば、ジャマイカで2PACがかかってレゲエに聴こえるみたいな感じと一緒(笑)。他ジャンルもダンスホールに変えちゃう、それがレゲエのカッコよさ。
HDM:ジャケンさんにとって、ジャマイカ・レゲエダンスとは?
JAKEN:DANCEHALL IS MY EVERYTHING!
RELEASE INFORMATION

JAKEN a.k.a. CORN BREAD
JA to JA vol.3
CBJP0001
2700円(税別)
2017年2月22日発売