CULL:TURE|「もっと混ざり合っていい」古典×先端が可能にする日本カルチャーの伝え方
「能楽会館」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。能楽、伝統、文化遺産…誰もが“格式高い”イメージを持つだろう。そんな格式高い舞台、大阪能楽会館で4月15日(土)、クリエイティブイベント『CULL:TURE』が開催された。“We Cull The Cullture.”「CULTURE(文化)の中から、CULL(最良のものを選択)して提示する」と銘打たれた本イベント。概要として、ロック、テクノ、ヒップ ホップ、プロジェクションマッピングなど、能楽会館のイメージとは掛け離れた文字が並ぶ。CULTURE(文化)の中から、CULL(最良のものを選択)するというテーマだけあって、まさに「日本のカルチャー」を結集させたという印象だ。能楽会館という日本伝統の“カルチャー”と、日本を代表する先端の“カルチャー”。今まで出会うことの無かったそれぞれのカルチャーが混ざり合うことで、何を可能にするのか。また、それぞれを繋ぐ、テクノロジーを駆使したカルチャー発信の在り方とは。今回は、CULL:TUREに参加したアーティスト、PAELLAS / OMSB & MARIA from SIMI LAB / UCARY & THE VALENTINEの3組、そして共催の株式会社DMM.futureworksの真島隆大氏に話を聞いた。
HDM:「能楽会館」という場所でのライブ決定を受けてどのような気持ちでしたか?
PAELLAS:未知数。いける?どうなるんだろうねっていう。能楽会館には中学校の授業で能の鑑賞に来たことがあったんですけど、それっきりで。ただ、メンバーは誰1人ネガティブには感じていなくて、みんな「面白そうじゃん」と。
MARIA:普段はヒップホップの現場でライブをやることが多いから、今回は凄く刺激的で。「能楽会館」って聞いて体育館みたいな場所をイメージしていたから、「どんな会館なの?」って。好奇心しかなかったよね。
HDM:実際にライブをやってみた感想は?
UCARY :めちゃくちゃ、楽しかった。会場がカッコよすぎて。当たり前だけど普通のライブハウスには全然ない雰囲気で、昔からの伝統を守っていて、歴史があるのが伝わる。
MARIA:来てみてビックリした。めっちゃいい場所。会場を見渡すと、それぞれの場所に「人が凄く気持ちを込めて作ったものなんだな」というのが伝わるんだよね。全然インスタントじゃなくて、いろんな人の手が混んだ場所。そんな印象で。
PAELLAS:舞台の形でいうと、日本でどこ探してもこんな形のライブハウスはないですよね。お客さんとの接点が多くて、死角がなくて。どの角度を向いていても、見てもらえる。
HDM:それぞれ「能楽会館」という舞台でのパフォーマンスに気持ちが高揚されたみたいですね。そんな全く新しい場所でのライブはどうでしたか?何か感じたことなどあれば。
PAELLAS:もちろん受け取る人それぞれですけど、普段接点のない2つの文化が合わされば、良い意味でも悪い意味でも違和感は生まれると思います。ただその違和感が、何か新しいものの発信の切り口になるんじゃないかなと。それに、実際にライブをしてみたら意外と(能楽会館の雰囲気に)ハマってるなと思いましたね。
MARIA:抵抗も全然なくて、むしろヒップホップをより引き立ててくれているように感じてます。「ラップ」という音楽は、自分の言葉そのものだから、心丸裸でステージに立っているようなもの。その裸の自分を、能楽会館の世界観や雰囲気が後押ししてくれて、更に引き立ててくれて。あとは、こんな場所だからこそできるパフォーマンスとか、新しいアイディアも広げてもらった。
HDM:UCARYさんは今回、やまと舞とのコラボレーションもされましたよね。どうでしたか?
UCARY:私も意外としっくり。スムーズにできたなと思ってます。「似合うね~」って。お互い“ちゃんとやってきたもの”をぶつけ合うと、意外としっくりくるんですよね。お互いの熱意とか、ステージへの想いがちゃんと伝わるので、リスペクトがあって。お互いをリスペクトしたまま、もっともっと、ぶつけ合いたいです。融合を楽しみたい。
OMSB :こういうことが、色眼鏡なく普通に、当たり前に行われるのが一番いい。それを崩すのは違うけど、お互いを認め合って。
MARIA:USとかだと、ラッパーがオーケストラとコラボ、みたいなことも多いんです。日本だとせいぜいバンドとのコラボかな。こういった異色なアートの融合が日本では少ないから。古典文化と先端文化をもっと絡めて、一緒に何かを作りたい。
HDM:古典文化と先端文化の融合が当たり前の世界って、どうなるんですかね。
OMSB :もちろん怖い部分はあると思う。続いてきた伝統に対して、後から入ることで「ぶち壊す形」になってしまうなら絶対やめた方がいい。面白半分とかね。でもリスペクトの心を持った人たちで集まれば、新しいものが生まれていくし。伝統を重んじてやってきた人たちにも伝わるものがあると思うんだ。だから、今回こうやって俺らを受け入れてくれたことに凄く感謝しています。
PAELLAS:こんな風に「交わりたい」と思っていただけること自体とても貴重なことなので、大切にしたいです。少し“TOO MUCH”に感じる人もいるかもしれないけど、TOO MUCHなことをしているからこそ、「普段はこの能楽会館という場所で何をしているのだろう?」とか。混ざるだけではなくて、それぞれの文化単体に対しても興味を持ってもらうことに繋がるんじゃないですかね。
「古典×先端」。古典的なもの、新しいもの。それぞれを分けて考えるのはもう古いのかもしれない。これらの融合に対して、真新しさや不思議な感覚を持っているようでは、時代に取り残されるのではないだろうか。両極端のものであっても、「日本の文化」としてボーダーレスに楽しめる場所。それが今回の『CULL:TURE』で表現されていたのだ。
最後に、共催の株式会社DMM.futureworksの真島隆大氏へのインタビューを紹介。同社は世界初の3DCGホログラフィック常設劇場を運営しており、ホログラフィック技術を用いた公演を行っている。彼が考える、文化の融合の際の「テクノロジー」の役割、また、それらを発信する際の発信者としての在り方とは。
HDM:CULL:TUREの共催を決定された理由は何だったんですか?
真島隆大:個人的にも「古典芸能と最新技術で世界に発信できるものを」とずっと考えていたので、タイミングが凄く良かったのです。日本の良いところでもあり、悪いところでもあるけど、伝統を守りすぎるところがありますよね。温故知新というように、それをどう打破して、打ち出していくか。今回のイベントはその大きな“一歩”になるんじゃないかなと。
HDM:公演をされてみて、今のお気持ちは?
真島隆大:要素と要素をもっと深く絡めたいですね!もちろん、様々な制限がある中でいかにベストを尽くす必要があるか、というところは理解していて。制限だったり、守らなければいけないものだったりはあって当たり前だと思います。それと、誰でも新しいものに対する拒絶心はあると思うんですね。「これまで守ってきたものを、壊されてしまうんじゃないか」という恐怖心とか。でも、身構えないでほしいなと思います。
例えば、「舞で表現する」という文化も、海外の人に舞が伝えようとしているメッセージを伝えきれない可能性があります。でもそれは、「あえて全てを伝えない」という日本の良さでもありますよね。その部分を「崩す」のではなくて「噛み砕く、咀嚼する」という意味で、良さを伝える為のコミュニケーションツールとして新しいテクノロジーや技術を使っていきたいと考えているんです。
決して世界では真似できない、100年以上継承される伝統芸能という素晴らしいコンテンツを日本という国は持っているわけで、社会としてもっと目を向けていかないといけない。
もちろん、難しい部分はあります。水と油を上手く混ぜ合わせるには、カタリストとなる成分を加えるか、どちらかが歩み寄るように成分が変化しなければいけませんよね。同じように、最新技術という伝統芸能から対極的なものを混ぜるにあたって、混ぜ合わせる側が、どのような歴史や想いのもとに継承されてきているのかなどを学び、尊重した上で創りあげることは最低限のマナーだと思います。
歩み寄るのはもちろんのこと、そこから、「日本文化」というものを世界に表現するということを支える存在でありたいと考えています。
EVENT INFORMATION

『CULL:TURE』
日程:2017年4月15日
場所:大阪能楽会館
出演:PAELLAS / OMSB & MARIA from SIMI LAB / UCARY & THE VALENTINE with YAMATO MAI
共催企業:株式会社DMM.futureworks / ポノス株式会社 / Oomph
協賛企業:株式会社ビューティーエクスペリエンス / 株式会社Spasa / 浪花正宗 / 株式会社NK・エンタープ ライズ / B4U / Artefice / belta / HARDEST MAGAZINE