埋もれた“和モノ”を求め 指黒くしてクレイツをさらう MUROのディグは今日も続く

埋もれた“和モノ”を求め 指黒くしてクレイツをさらう MUROのディグは今日も続く

interview by HIROYUKI ICHINOKI photo by YUSUKE YOSHINAGA

MCを出発に、DJ、プロデューサーとして、またレコードディガーとして広く世界にその名を知らしめてきた「King Of Diggin’」ことMURO。彼が、和モノカヴァーアルバム『和音 -produced by MURO-』をリリースした。南條レオ(ex.KINGDOM☆AFROCKS)の生楽器を軸に制作した今回のアルバムは、渡辺プロダクション(渡辺音楽出版)の音源ばかりをミックスした昨年の『和音 mixed by MURO』から10曲を選んでカヴァーしたもの。その一曲一曲が、ブラックミュージックから派生した音への飽くなきディグの果てに、彼が出会うべくして出会ったアナログ盤の曲だ。アルバムではPUSHIM、Leyona、Keycoを始め、サーカスやFujikochans、そしてセルフカヴァーとなる大滝裕子 feat. AMAZONSら新旧女性シンガーを迎え、ラヴァーズありアフロビート的なアプローチあり様々なテイストで原曲に新たなテイストを吹きこんだ。本作をとっかかりに、彼と和モノとの関わりを中心に話を聞いた。

 

 

HDM:そもそも最初に音楽に触れたのってやっぱり邦楽=和モノだったんですか?

MURO:もともと家は演歌家系というか、週末になるとカラオケのカセットテープ山積みにして、親戚とかが集まって歌ってたみたいなので、逆に(和モノは)嫌いだったんですよね(笑)。ただ、すごく好きな叔母ちゃんが運転する車でサーカスとか大橋純子さんは繰り返し聴いてたんで、去年叔母ちゃんにも言ったんですけど、(今回のアルバムに至る)キッカケだなあと思いましたね。

 

HDM:じゃあそれ以前に好きだった和モノとか、集め始めた最初の和モノのレコードとなると…?

MURO:ガソリンスタンドで親が働いてて、「危ないからレコード聴いてな」みたいな感じでプレーヤーを買ってもらって、1番始めはソノシートですかね、本についてる。ソノシートに本を読んでもらって、ブザーが鳴ると次のページめくって、続きを読んでくれるっていうのが結構あったんですよね。あれを子供ながら集めるところから始まって、アニメの主題歌とかを買ってもらったり。ガソリンスタンドの2軒隣りが映画館だったので、小学校入ってからは「映画観てきな」みたいな感じでよく券を渡されて、1人で映画館行ってわけもわからず3本立てを朝から晩まで観たりとかするのもわりと好きだったですね。

 

HDM:とすると、映画経由で好きになったものもあったり。

MURO:そこは川口東映っていう映画館だったんですけど、まんが祭りはもちろん、言ったら日活ロマンポルノぐらいまでいろんなものがアルティメットに上映されていて(笑)。いろんなものをそこで覚えた気がします。音楽ではCMの音楽がすごく好きで、僕の世代は収集してる人とか多かったですね、中学生ぐらいの頃は。特にカセットテープのCMだったりとか音楽系のCMだとちょっと濃いものが使われてたりしたんで。

 

HDM:その頃にCMで聴いてたのはどの辺の人の曲ですか?

MURO:稲垣潤一さんとか杉真理さんとか(山下)達郎さんしかり、そういうのは憶えてますね。でもその頃1番影響受けたっていったらYMOなのかな。曲の間にスネークマンショーのギャグが入ってる『増殖』っていうアルバムがすっごく好きで。ひねくれ方が黒かったんですよね、楽曲にしてもギャグにしても。それでYMO好きになって、ブレイクビーツ聴き始めた時は、AFRIKA BAMBAATAAがYMOの楽曲使ってブレイクしてたりしたんで間違ってなかったって確信して。

 

HDM:それからずっと時を経て、いわばヒップホップ~ブレイクビーツを経由して和モノを再発見することになるわけですよね。

MURO:まさにそうですね。ヒップホップのサンプリングを通って今聴き直す和モノみたいな感じで。20年前はホント洋楽のネタ探してるだけでいっぱいいっぱいで、サディスティックミカバンドぐらいしか聴いてなかったんですけど。

 

HDM:MUROさんは海外の人ともレコードをトレードしてると思いますけど、そういう時も今は和モノで話が盛り上がったりするんでしょうね。

MURO:そうなんですよ。今年の頭に中国へツアーに呼ばれて行ったんですけど、DJも凄いんすよね、やっぱり日本のレコード欲しがってて。それで定期的に日本に買いに来てるみたいなことも言われて。その人達は佐藤隆とか角松敏生の打ち込みになってからの楽曲をプレイしてたんですけど、うまくプレイするんですよ、他のと混ぜて。しかも1人は女の子で若いんですよ。和モノとダブにユーミンとかも混ぜてかけてて。感心しましたね。

 

HDM:へえ、そうなんですね。逆にいえばそれぐらい和モノが定着してるという。ただ、アナログブームって話は時々出てくるけど、実店舗の数は減ってて。

MURO:輸入で買い付けやってたマンションの一室のレコ屋みたいのが渋谷は減っちゃったけど、昔からの街のレコード屋さんは残っていて、そういうところが逆に面白いし、掘る機会が増えてます。ただ、大阪とかはレコード屋さんがすごい増えてるんすよね。デパートの上でやってる催事とかでも「’90年代入れて今年が1番売れた」とか聞いたし。若い子も多くて、びっくりするのが、渋谷のレコファン(レコファン渋谷BEAM店)に定期的に掘りに行くんですけど、1人で掘りに来てる女の子結構いるんすよ。

 

HDM:なるほど。でも、今単純にアナログって値段ついてないですか?全般的に。レア盤の値段がつり上がっていくのはしょうがない面もあるんですが。

MURO:そうそう。eBay価格みたいのがねえ、やっぱあるから。

 

HDM:ネットを調べれば相場の価格がある程度すぐわかるから、そうそう掘り出しモノもないっていうか。

MURO:そうそうそう。地方とか行っててすら、値段ついてないのがあって、出すと「ちょっと待ってて」みたいな感じで裏行ってネットで調べて来たりとかしちゃうんで、悲しかったりもするんすけど。

 

HDM:もちろんそのおかげで逆に不当な値段もすぐわかるんですけどね。ともあれ、今回の『和音 -produced by MURO-』でカヴァーされた曲にしてもそうですけど、盤との出会いはやっぱり運とタイミングなわけで。MUROさんが和モノのレコードを掘ってて感じる最近の傾向とかありますか?

MURO:掘ってるとたぶん周期で年々、年代が新しくなってくるんすよね。それもここ10年ぐらいすごく感じていて、昔から和モノ掘ってる濃い人に話を聞くと、それがもう今、’88、9年になってるって言ってて(笑)。

 

HDM:時代がどんどん新しくなってきてるっていう。

MURO:ちょうどCDに切り替わる時期、その辺のレコードでブギー終わって、和モノのニュー・ジャック・スイングだったりゴーゴーっぽい楽曲を集めてる人達が多いんで、レコードじゃなくてCDで集めてる人達も多いんですよね。CDでしか出てないっていうのも結構ありますから。

 

HDM:ということは、その年代の和モノもMUROさんがミックスなりこうしたカヴァーアルバムなどのシリーズで見せることが今後ありそうですね。

MURO:やっていきたいですね。

 

HDM:MUROさんが今日常的に掘ってる和モノとか最近の収穫みたいなものがあったらそれも聞きたいです。

MURO:この時期になると、和モノでも洋モノでも夏っぽい楽曲に行っちゃいますね。『私はピアノ』ってあるじゃないですか、原由子さん(サザンオールスターズ)。アレを1番はラテン語でやって、2番を日本語でやってるのがあって感動しましたね。そういう日本人がやるサルサバンドは注目し始めてます。最近掘ってたら結構昔の、例えば映画の「ラストタンゴ・イン・パリ」を当時日本語でやってたシングルが出てきたりとか、そういう日本語カヴァー探すのも好きですね、特に映画の主題歌だったり。あとはフォーリーブスのEARTH,WIND&FIREの『JUPITER』のカヴァーが出てたり、これ完全にあの曲意識してるだろみたいなのをサンプリングソースを見つける感覚で聴いてくとまたそれもそれでキリないなっていう(笑)。

 

HDM:確かに(笑)。

MURO:あと今ね、これあんまり言いたくないですけど、某劇団のレコードはすごい掘ってますね。まだまだ抜かれてないうちに頑張ろうかなあと思ってるんですけど(笑)。カヴァーもとんでもないカヴァーがあったりするんですよ。当時、ライヴで録音してるのもあればスタジオの録音もあるんですけど、DONNY HATHAWAYの『LITTLE GHETTO BOY』を日本語でやってたり

とか。

 

HDM:えー、そんなのもあるんですか。ホント、話はキリがないすね(笑)。そろそろ今回のカヴァーアルバム『和音 -produced by MURO-』についても聞かせてください。

MURO:(須永)辰緒さんと作らしてもらったミックス(『和音 mixed by MURO』)をきっかけにレーベル(TOKYO RECORDS)を立ち上げて、自分のミックスがどういうものかっていうのを伝える為にまずカヴァーアルバムを出してわかりやすく説明できたらなあっていう。それで『和音 mixed by MURO』の中から10曲カヴァーしたんですけど、今回は南條レオ君にいろんなシンガーさんを紹介してもらったのもありますし、PUSHIMに歌ってもらいたいからお願いしたりとか、(オリジナルのシンガーによる)セルフカヴァーも絶対やりたくて。

 

HDM:改めて本作がリスナーにとってどんなアルバムになればいいと思います?

MURO:いつも同じこと言っちゃうんですけど、キッカケになってくれたら1番嬉しい。幅広い年代の人に聴いてもらって、家族で会話ができたりしたらいいですね。

 

HDM:今後の展開についてはどうですか?

MURO:次の目標としては、これのリミックスを出したい。海外の人にリミックスをやってもらえたらいいですね。例えば夢ですけど、『恋のブギ・ウギ・トレイン』のリミックスをTUXEDOにやってもらったりとか。アン・ルイスさんのオリジナルも英語ヴァージョンと日本語ヴァージョンで7インチが出てるんですけど、英語ヴァージョンを『TUXEDO Ⅱ』でフィーチュアされてる女の子に歌ってもらえたら最高だなあって。あとはPUSHIMに歌ってもらった『SEXY WOMAN』をLORD ECHOにやってもらったり。

 

HDM:それも期待してます。レーベルの今後についても聞かせてもらえれば。

MURO:次は小西(康陽)さん(ex.ピチカート・ファイブ)のミックスが出ます。あとはまだ言えないんですけど、うまく展開できるキャスティングを企んでるので、期待しててください。日本のよき楽曲を広め直して行きたいっていうのが根っこにあるので、ナベプロだけに収まらず、日本の楽曲をどんどん掘っていけたらいいし、和モノをかける現場も増やしていきたい。海外のミックスではできないことも可能性あるし、ワールドワイドなコネクションもあるから、世界に発信していけたらより面白いかなと思います。

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